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NO,BAD  作者: 不落八十八
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序章「グールズ」ー2



 ≪ロシアンルーレット≫。

 本来ならリボルバー式拳銃に一発だけ弾丸を込めてシリンダーを回転させ、こめかみに当てて生死を賭ける命懸けのゲームの事だが、今回はとある殺し屋グループの通り名だ。

 リボルバー式拳銃は大体が六発の弾丸をシリンダーに込めるタイプのものが多い。この銃の利点は威力と浪漫とジャム、所謂弾詰まりが無い点が挙げられる。

 別に武器マニアというわけでも無いので、それぐらいの情報しか知らないが、≪ロシアンルーレット≫という殺し屋グループは双子のリボルバー遣いらしい。

 プロのスレイヤー、略してプレイヤーには程遠い知名度故に、未だ雇われ殺し屋で、最悪一生飼い慣らされるに違いない。

 アパートから十五分程道なりに歩くと大通りにぶつかり、そこから港側に歩く事また十五分。計三十分で廃工場の姿が見える。

 あの工場は中々曰く付きの物件で、ヤクザの麻薬取引現場だったり殺人鬼の元住処だったり自殺の名所だったり、死体回収の身隠し場所だったりする。

 この街の表の住人たちは滅多に近付かない穴場スポット化しているから、落ち合う場所としては及第点だろう。

 さて、懐かしいカビ臭さや埃が被った重機やらべっとりと浸透している血の匂いやらがごちゃ混ぜにされた中々形容し難い工場に辿り着いたが、≪ロシアンルーレット≫は何処に居るんだ?

 閑散としている工場長の夢の成れの果てに転がる空のコンテナ群を横切りながら姿を捜す。

 声をかけても構わないが、振り向き様に撃たれたら色々とめんどくさい。主に事後処理が面倒だ。

 それに、報酬金が無かったことになると明日からの野菜やお米やらの買い出しに支障が出てしまう。

 せっかく健康思考な生活をしているのにそれでは意味が無くなってしまう。


「止まれ」


 左右から発せられた同質の声が重なる。

 左を見てみればリボルバーを構えた右サイドテールの女の子が居て、右を見てみれば左サイドテールの女の子が居る。

 瓜二つの金髪少女。


「君らが双子のリボルバー遣い≪ロシアンルーレット≫かな?」


 ぼくの言葉に二人は頷き、リボルバーを下ろしてくれた。

 ホッと息を吐いたぼくは三歩下がって二人を視界に入れる。中央に揺れる二つのテール以外、二人の姿は瓜二つだった。

 カーボーイを意識しているのか茶色いハットに黒シャツの上にオレンジベスト、撫でやすそうな流線の容姿に幼さを感じる。中学生くらいの顔付きではあるがほんの少しだけ鼻が高く、瞳の色が黒とは違うからハーフだろうか。

 とはいえどもクライアントはクライアント。別に見下しも同情もしない。するとすれば可愛らしい胸だなぁとぼくの性癖の暴露くらいだろうか。

 ま、とりあえず仕事をこなすか。


「ぼくは死体処理班グループ≪グールズ≫の片割れだ。依頼通り死体を回収しに来たんだけど、何処にあるんだい?」


 双子は無言で冷ややかな瞳でぼくを一瞥してから、ひしゃげたコンテナの中からぼくの太腿くらいの高さのトランクケースを取り出し、こちらに蹴って滑らせた。

 立たせる時のずっしりと重い感じ、成人男性一人分くらいかな。トランクケースの留め具を外して中身確認しなきゃね。


「何をするつもりだ」


 砕いた氷の破片程に冷ややかなで鋭い声が重なる。ぼくは一度トランクケースから目を外して双子を見る。

 虚ろな生気の無い瞳の色。

 雇われ殺し屋じゃなくて、飼われ殺し屋だったかな。

 確か前にもそんな瞳をする人物に会った事がある。

 虐待する父から離れてマフィアの犬になった少年の末路が暗殺者だったというオチなのだが、これと言ってお喋りする事も無く「いただきます」してしまったから特段どうでも良い事柄だった。

 考える思考が無駄になる。勿体無い時間を使ってしまった。


「……答えろ」


 けれど、無言の思考時間は双子を焦らせる時間となったようで、それだけはあの名も知らぬ少年に感謝しとこうか。


「一応死体を確認するのさ。前に私怨でぼくらや処理班を亡き者にしようとトランクケースに隠れた馬鹿が居てね。音を鳴らすヘマやってそのままゴミ処理用の機械の中に放られてミンチ。偶然居合わせたぼくは給金が出るとはいえ、機械清掃の手伝いをやらされたんだよ。まったく、終始巻き込まれた奴の飛散した肉を見て何度も勿体無いと愚痴らなきゃやってられなかったよ」


 今、小さく「うわぁ」と引かれた声が聞こえた気がする。しかも前方から。目の前の二人は口元を下に歪ませて不快感を露わにしていた。

 ……まぁ、分かってたさ。

 受け入れられない事なんて何年も前に知ってたから別に悲しいわけじゃないからな。ツンデレみたいな言い訳をしてしまったが、仕事をこなさなくては。


「と、いう事で見させて貰うよ。もし、生きたのが入ってるならトドメ刺さなきゃだし」


 パチンッと留め具を親指で撥ねてご対面。

 トランクケースの中身には眉間から血を垂れ流した痕と赤く染められた和服を着た男性が入っていた。

 見る限り脈や息も完全に止まっていて、同業者のグループ≪フランドール≫が恍惚な顔でぐちゃぐちゃと頬擦りしそうな腐乱死体になっていた。

 即座にトランクケースを叩き付けるように閉じて、留め具を掛ける。

 生憎腐る前に食べる派なぼくだから、腐った脳味噌を洒落なのか肉味噌と合わせ、暖かなご飯に乗せて満面の笑みを浮かべて「いただきます」をする普段は無口な≪フランドール≫を初めて見た時くらいに複雑な気持ちだった。

 あんなに可愛らしい顔をしながら腐乱死体を文字通りおかずにするなんて神は何てもんを与えやがったんだ、と内心神を恨んでたら、「……食べる?」と嬉しそうな顔でスプーンを差し出され、断りたくても断れない天国と地獄を味わった経験が甦る。

 途轍もないトラウマめいた味を思い出してテンションが、ストップ高から崖のように下落したのを見た株主のような気分だった。

 株やった事無いけどね。

 嘆息してからぼくは双子を見ながら立ち上がる。


「あー……うん。生憎ぼくは腐乱系には食指が動かないんだ。いきなり途轍もない臭いテロしちゃってごめんね。今すぐに処理場に放り込んでくるから。本当にごめんね」

「…………え、ええ」


 双子も人間だったようでこんなぼくを哀れんでくれたらしい。申し訳ない気分を心一杯に溜め込んで、ぼくは双子から逃げ出すようにトランクケースと共に廃工場から去った。

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