第6話「決意を胸に」
オルフェ研究機関・食堂。
ファクターズの4人は夕食のテーブルを囲んでいた。
今日は、全員オフの日だった。
音が明るく笑う。
「みんな今日は何してた〜?」
「もちろん“もふもふの村”〜」
閃が満面の笑みで答える。
「……好きね、それ」
怜が静かに言う。
「“もちのすけ”狂いのれーにゃんなら、絶対ハマるって」
もちのすけとは、ゆるく可愛い国民的キャラクターだ。
「……ゲーム苦手」
怜は少しだけ不満げに呟く。
「ほほう。もし、コラボしたら?」
閃はイタズラな笑みを浮かべ、怜に聞いた。
彼のアホ毛がクルッとカールしていた。
「……うぅ……」
怜は本気で悩んだ顔をした。
音が微笑みながら話題を変える。
「怜ちゃん、荷物の整理終わった?」
「なんとかね。全部……」
「すげー積み上がってたもんな、怜の郵便物。あれ全部もちのすけだろ?」
烈が呆れ顔で言う。
「……だって、可愛いんだもん」
語尾が小さくなる怜。
「烈くんは何してたの?」
音が首を傾げる。
「マンガの新刊出てたから買いに行ってた」
「あ、アレだよね!空手道一本道!」
「“空手道一直線”な。音は?」
音は照れた笑みを浮かべた。
「……実はね、ずっと寝てた」
「そういう日があっていいじゃねぇか」
烈が笑う。
「可愛い〜」
閃も笑いながら言った。
◆
閃の視線がふと窓の外へ向けられる。
モニター越しの夜空。偽物の空でも、空は空だ。
脳裏に、幼い頃の光景が蘇る。
母ちゃん。
父ちゃん。
友達。
故郷。
(……もう絶対に失いたくない。この仲間達を、この場所を、この日常を……)
◆
怜は、静かに紅茶を啜っていた。
温かい液体が喉を通る。
(……ママも、紅茶好きだったな)
怜の母は、優しい人だった。
いつも抱きしめてくれて、守ってくれて、笑ってくれた。
だが——
ある日、母は病に倒れた。
幼い怜は、母の手を握りながら叫んだ。
「ママ!? ママ!!」
怜の母の“リスバ”が生命の危機を感知した。
“リストバンドID”——通称リスバ。
国民のほぼ全員が着用する、細いシリコン状のバンド型個人認証デバイス。
リスバは自動で病院へ信号を送り、救急車はすぐに来た。
しかし、すでに母は静かに息を引き取っていた。
怜の手の中で、冷たくなっていった。
(私は……あの時、何もできなかった)
己の無力感と悔しさが、怜を「氷のファクター」へと覚醒させた。
冷たく。静かに。
だが、今は違う。
怜は3人を見つめた。
(今度は…今度こそは)
◆
烈は、自分のトレイの食事を見つめていた。
温かいご飯。
味噌汁。
焼き魚。
(……美晴さん、元気してっかな)
烈は、生まれてすぐ親に捨てられた。
児童養護施設“たんぽぽ荘”の前に置き去りにされていた。
ある手書きのメッセージカードと共に。
——名前は新井 烈です。どうか、この子をお願いします。
そんな烈を育ててくれたのが、美晴さんだった。
「烈ちゃん、お腹すいてない?」
温かいご飯。
優しい笑顔。
安心できる居場所。
(美晴さんがくれた全部を、俺は守りたい)
烈は静かに息を吸う。
(今度は俺の番だ。この仲間を、この場所を絶対に守る)
◆
夕食後、それぞれが自室へ戻っていった。
静かな夜。誰もいない廊下。
音は窓際に立ちながら思う。
(昔は……いつもひとりぼっちだったな)
音は幼い頃から風と“話せた”。
エーテルの流れが見えた。
だが、誰も信じてくれなかった。
「変な子」
「気持ち悪い」
言われ続け、孤立した。
音は空の写真ばかり撮っていた。
誰にも見せない、自分だけの世界。
でも、今は違う。
仲間がいる。
居場所がある。
(今は、一人じゃない)
◆
はるか上空。
4つの黒い影が、夜を切り裂くように飛んでいた。
悪魔のような禍々しいシルエット。
“デーモンドール”——通称DD。
それらは静かに、確実に——
“ある一点”を目指していた。
(第1章 完)




