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エーテルコード  作者: エトコッコ
第7章:宿命

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第9話「Last Smile」


「……完全同調……?」


ツムギから溢れ出す柔らかな光を見つめ、閃が思わず呟いた。


「このタイミングで……?」


怜も、信じられないというように目を細める。


これまで完全同調を発動させたのは、閃、怜、烈——

いずれも戦闘の極限状態の最中だった。


だが、音は違った。


まるで、静かな決意の先に辿り着いたような目覚めだった。


「大丈夫。見てて」


音は穏やかに、けれど迷いなく3人に告げる。


そしてツムギをゆっくりと、エンプティアとラフティアの元へ進ませた。


「お、おい……」


烈が思わず声を漏らすが、それ以上は何も言わなかった。


今は、音を信じるしかない。


激しく刃を交えていた2機も、近づく光に気づき、動きを止めた。


「え……音……さん……?」


イノが、煌めきを放つツムギを見上げる。


その光は、不思議とイノの胸の奥を静めていた。


ラフティアも完全に動きを止め、ツムギを見つめている。


(サム……もう大丈夫。もう……苦しい思いはさせないから)


音はそう心で呟き、ツムギの掌を、そっとラフティアの胸部へ当てた。


そこは、サムのいる場所。


「《解放のウィンド》」


淡く優しい光の粒子が、手のひらからラフティアの内部へと流れ込む。


荒れ狂う黒いエーテルを包み込み、鎮め、ほどいていく。


そして——


光はサムだけをやさしく包み上げ、そのままツムギの掌へと引き寄せた。


その瞬間、“核”を失ったラフティアの巨体は、急速に元の大きさへと縮み、力を失った抜け殻のように、静かに地面へ崩れ落ちた。



「サムを……助けたのか……?」


烈が、信じられないという声で呟く。


「……そう、みたいね……」


怜も小さく息を吐いた。


3人は、音とイノの元へ駆け寄る。


ツムギの掌の中には、優しい光に包まれたサムの姿。


音はそっと、エンプティアへ差し出した。


「音さん……サムを救ってくれたんだね……」


「もう、2人が傷つけ合う必要はないよ」


静かな言葉。


「本当に……本当に、ありがとう」


イノは、心の底から感謝をした。


「ううん……わたしは、できることを、ただしただけだから……」


そう言うと、音は《治癒のウィンド》を発動。


閃との戦闘、そしてラフティアとの交戦で傷だらけだったエンプティアは、淡い光に包まれ、一瞬で修復されていた。


そこへ、3人が合流する。


「イノ……」


閃が静かに呼びかける。


「閃……皆さん。この戦い……ボクらの、ゼクストの負けです」


イノは続ける。


「ボクは……いや、“ボクら”は、もう戦いから降ります……」


イノの言葉を、ファクターズは黙って聞いていた。


「だから……どうか……見逃してください」


エンプティアは膝をつき、明確な降伏の姿勢を取った。


「そんなの、当たり前じゃん。というか、最初からそのつもりだし」


閃は即答した。


「ああ。それより、サムは……?」


烈が不安げに問う。


「ありがとう、閃。烈さん。サムは……」


イノは一瞬、言葉を詰まらせる。


音の力で命はかろうじて繋がっている。


だが、それは長くはもたない。


それを、イノは感じ取っていた。


音も理解している。


そして3人も、イノの反応から察した。


「……あとのことは、全部私たちに任せて。行って」


怜が静かに言う。


「怜さん……皆さん、本当にありがとう……行かせてもらうね……」


エンプティアはサムを抱え、静かにその場を離れた。


「……俺たちも、帰ろう」


しばしの沈黙の後、閃が言った。



上空を飛ぶエンプティア。


イノは掌の中のサムを見つめていた。


(イノ……少し、話そう)


「サム?」


その声を確認すると、エンプティアは近くの海辺へと着地した。


見晴らしの良い、自然に囲まれた静かな浜辺。


イノは優しくサムを下ろす。


「サム、大丈夫?」


「あぁ……イノ。うん……大丈夫……だよ。音のおかげで……今、すごく楽なんだ」


「よかった……」


「でも……多分、もう……もたない……かも」


声が、次第に細くなる。


「サム……」


イノはそっとマスクを外そうとする。


だが、サムはその手を優しく止めた。


「イノ……ごめんね……キミを……ひとりにさせてしまうかも……」


震える声。


「そんなことないよ……サムも、クリスも、アークも……もうボクの一部なんだから」


イノは手を握りしめる。


「……イノ……僕のワガママ……聞いてくれる……?」


「うん。なんでも」


「……どうか、生きてほしい……イノには、生きてて……ほしい……」


マスクの横から、涙が零れていた。


「……こんな酷い世界で……キミを1人にして……“生きててほしい”なんて……残酷な……お願いだよね……」


「そんなことないよ……だって、もしボクがサムの立場だったら……きっと同じこと言うから」


「……ありがとう、イノ……どうか……僕たちの、“ゼクスト”の……生きた……証を……」


「うん……もちろんだよ……サム……」


返事は、もうなかった。


イノは、サムの亡骸を静かに抱きしめる。


悲しくはない。


イノは悲しみを失った存在だから。


だが、胸の奥から、言葉では表せない感情が静かに溢れていた。


イノは、美しい海へとサムを沈めた。


生前、サムはよく海の絵を描いていた。


(サム……クリス……アーク……みんなは、ゆっくり休んでて)


(やるべきことは、全部ボクに任せて)


(おやすみなさい……)


(第7章 完)

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