第4話「ハーフファクター」
オルフェ研究機関・訓練エリア。
広大なシミュレーションルームに、4機の白いEDが整列していた。
訓練生専用エーテルドール——“プレントルーパー”。
左肩には 01、02、03、04 の番号。
その様子を、観察室からじっと見つめる女性がいた。
クレア・泉・テイラー。
オルフェ研究機関で最年少の研究員であり、総帥代理トーマスの娘。
几帳面で真面目。時々こぼれる毒舌が持ち味でもある。
タブレットを操作しながら、小さく呟く。
「……さて。今日もちゃんと動けるかしら」
訓練エリア全体が起動音を轟かせる。
◆
「よーし、準備はいいかー?」
教官補佐として前に立つ閃の声が響く。
『はい!』
4人の声がそろって返る。
閃は軽く手を上げた。
「今日は基本動作の確認。まずは——」
言い終える前に、01番機が前へ飛び出した。
素早いステップ、迷いのない動き。訓練用ブレードを構える。
「グンジン、とりあえず落ち着け」
『了解であります!』
東 幹雄。通称「グンジン」。
技術は訓練生トップだが、やる気が前に出すぎるのが難点。
軍家庭育ちで、いつも軍人口調。
◆
02番機は、ぎこちなくバランスを崩しながら進む。
『うおっと……!』
光井 恭。通称「ミチ」。
ぽっちゃり体型で陽気なムードメーカーだが、操縦はまだ不安定。
「ミチ〜、1回転ぶごとにGGピザ1箱(¥5500)ね〜」
閃が軽い口調で言う。
『ペナルティ重すぎだろ!!』
と返ってきた声には、焦りと悲鳴が混ざっていた。
◆
03番機は軽快に動く。まるで跳ねるように、踊るように。
『閃先輩! 見てくださいっ!』
笹本 みのり。通称「みのりん」。
身軽さと反射神経は訓練生の中でも突出している。
「みのりん、すげぇな!」
『えへへっ♡』
◆
04番機は、最も安定した滑らかな動きを見せていた。
無駄がなく、軌道も正確。制御の質がまるで違う。
『まあまあ、って感じかな〜』
篠崎 アンジュ。通称「アンジュ」。
外見はギャル風だが、本質は器用で冷静な万能型。
クレアは観察室で小さく息を吐いた。
「……順調ね。光井以外は」
タブレットを確認する横顔は、どこか楽しそうだった。
閃も4機を見て頷く。
「じゃあ、次の課題いくぞー」
◆
訓練後。
休憩室では4人がソファに沈み込んでいた。
「ち、ちかれた〜……」
「ミチ、GGピザ3枚コースだね」
「無理だっつの!?」
アンジュの軽口に、みのりが笑う。
「でもみんな、本当に上手くなってきたよ!」
「その通りです。努力は必ず身を結びます」
東の真面目な言葉に空気が少し柔らぐ。
光井がふと、窓の外を見ながらぽつりと言った。
「……なぁ。俺たちって、いつ本物の“ファクター”になれるんだろ」
その言葉に、場が静かになった。
訓練生たちはまだ完全に覚醒していない。
エーテルファクターへの途中段階——「ハーフファクター」。
エーテルを見ることはできても、スキルは使えない。
EDには乗れるが、本来の力は出せない。
「ま、慌ててもしょうがないっしょ」
アンジュが肩をすくめる。
「ええ。必ずその日は来ます」
東は真剣に頷いた。
「あたし、雷属性がいいな〜。かっこよくない?」
みのりの無邪気な声に、皆の顔に笑みが広がった。
◆
その頃、研究エリアでは。
壁いっぱいのモニターには、訓練生たちのエーテル適性が映し出されている。
「順調だな」
静かに呟いたのは、オルフェ研究機関・総帥代理
トーマス・テイラー。
温厚で理知的。総帥・エドワード不在の間、日本支部を支える存在だ。
隣ではクレアがデータを真剣に見つめている。
「でも光井はてんでダメよ、パパ」
「クレア。焦らせてはいけないよ。人には人のペースがあるんだ」
「……分かってるってば」
そのとき、研究室のドアが開いた。
「失礼します!」
キリッとした声。オペレーターの陳佳琳が入ってくる。
真面目で几帳面。同じオペレーターのリオとは対照的なタイプだ。
「トーマスさん、“オーキュラム”が妙なエーテル反応を拾いました」
オーキュラムとは、オルフェ機関研究所が使用する、マザーコンピューターの名称だ。
差し出されたタブレットには、見慣れない波形が揺れていた。
「……これは?」
「不明です。SDでもEDでもない……生物寄りのパターンです」
クレアも画面を覗き込み、息を飲む。
「……ほんとだ。まるで脈動してる」
「…ああ」
トーマスは冷静に頷いた。
「監視を続けてくれ。何か掴めるはずだ」
「了解!」
カリンがすぐに駆け出していく。
静かになった研究室で、モニターの波形だけが脈を打つように揺れていた。
——世界の裏で、何かが動き始めていた。




