第7話「集結」
怜とアーク、烈とクリス。
その決着は、ほぼ同時だった。
閃と激闘を繰り広げていたイノは、その瞬間、明確な“喪失”を感覚で受け取った。
(アーク……クリス……?)
念の属性の特性上、その断絶は、何よりも早く正確に伝わっていた。
ほんの一瞬の動揺。
だが、閃はそれを見逃さなかった。
一気に間合いを詰め、《雷衝》を放った。
渾身の一撃が、エンプティアを直撃した。
「ぐあっ……!!」
イノは吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「ハァ……! ハァ……! 状況は……!?」
息を荒げながら、閃は即座に通信を入れた。
『怜と烈が……ほぼ同時に勝ったわ!!』
リオの声。
その報告を聞いた瞬間、閃の胸に去来したのは、安堵と悲しみだった。
(そっか……イノ、それを感じ取ったんだな……)
さきほどの動揺の理由を、理解した。
「……音は?」
短く問う。
『……!? まって、これって……!!』
リオの声色が変わる。
その異変を察した閃は、返答を待たずに駆け出した。
雷を纏い、音のいる方向へと。
◆
少し前に遡る。
音とサムは、一定の距離を保ったまま、攻防を続けていた。
だが、そこには両者ともに明らかな迷いがあった。
致命傷を避けるような、どこか歪な戦い。
(このままじゃ、ダメだ……)
サムは思う。
だが同時に、交流会で見た音の姿が脳裏をよぎる。
笑っていた彼女。
優しかった彼女。
(ボクは……彼女を傷つけたくない……)
その気持ちは、音も同じだった。
それでも、戦場は待ってくれない。
モニターに表示された文字。
《ドレティアLOST》
《セレティアLOST》
つまり、アークとクリスの死。
「ア……アア……アァ!!」
サムの声が震える。
音も確認していた。
(怜と烈くん……勝ったんだね)
けれど、胸は重い。
目の前で、サムが壊れかけている。
わたしは、どうすれば――
その時、通信が入る。
「音……ボ、ボクがボクである限り、キミを傷つけることはできない……アフフ」
「サム……?」
「な、なら……ボクは……もう、“ボクじゃなくていい”……」
ぞくり、と嫌な予感が走った。
「“カルマ解放”」
ラフティアから、禍々しい黒いエーテルが噴き出した。
“カルマ解放”とは——
ゼクストとDDに埋め込まれた特殊インプラント“カルマシール”。
本来は機体性能を引き上げるためのリミッター解除機構。
だが安全に扱えるのは最大40%。
ゼクストは強敵との戦闘時、常時20〜40%を維持していた。
だが今、サムが解放した数値は――80%。
完全な危険域。
「サム!!落ち着いて!!」
音は即座に《安静のウィンド》を展開する。
だが、まるで効かない。
「オ、オ、オォォォォ……!!」
人のものとは思えぬ咆哮。
溢れ出す、漆黒のエーテル。
音は直感した。
(もう……きっと、サムは……戻れない)
その異常をモニター越しに見たリオが叫んでいた。
『……!?まって、これって……!!』
◆
漆黒のエーテルは、天を貫くほどに立ち昇っていた。
(あの方向……音だ!!)
怜はスピードを上げる。
(間に合って……シラユキ!!)
◆
その異変に、烈も気づいた。
「……!!サム、なのか!?」
即座にレンゴクはビーストスタイルへ変形、音の元へ駆け出した。
(音が……あぶねぇ!!)
◆
『閃!!怜も烈も、音のところに向かってる!!』
「よし!!」
バサラヲも雷を裂き、さらに加速する。
(ゼクストの“切り札”……サムだったのか)
◆
『音!! 逃げて!!』
リオの叫び。
「……逃げません」
震えながらも、音は答える。
次の瞬間——
ラフティアは、40メートル級の大きさに巨大化していた。
サムのスキル《虚像》によるものだった。
だがそれは虚像ではない。
質量を持つ、暴走した怪物。
モニター越しに見ていた一同は、もはや言葉を失っていた。
ラフティアは、即座にツムギを鷲掴みにし、地面へ叩きつけ、続けざまに踏みつける。
『音!!』
リオは叫んだ。
だが音は、寸前で《エアクッション》を発動し脱出。
しかし次の瞬間、巨大な尻尾が直撃する。
「うっぐ……!!」
たった一撃で、視界が揺れる。
再び突き出される尾。
その刹那——
氷の壁が、攻撃を受け止めた。
「……怜!!」
「おまたせ」
怜とシラユキが到着した。
◆
直後、ラフティアは上空へ。
高速で突き出される尾撃。
回避に徹する怜と音。
そこへ——
炎の大剣が、尾を断ち切った。
「烈……!!」
「烈くん!!」
レンゴクが《大炎剣》を構える。
「2人とも、大丈夫か!?」
ラフティアは地上に降りると、真っ直ぐにレンゴクに向かって突進した。
真正面から受けとめるレンゴク。
しかし、圧倒的パワーの前に押されてしまう。
怜は《氷槍》、音は《斬撃のウィンド》をそれぞれ放つも、攻撃は通らない。
3機は吹き飛ばされ、壁へ叩きつけられた。
暴走したラフティアが、再び跳躍し、今度はシラユキへ襲いかかろうとした瞬間——
天空から巨大な雷が落ちた。
「《雷鳴拳》」
閃のバサラヲだった。
雷を纏った拳が、まるで稲妻のようにラフティアの頭上を撃ち抜いた。
「おそいじゃない……」
怜は冷静に閃に言った。
「何とか間に合った。とりあえず――全員集結だな」
「問題は……これからだ」
烈はラフティアを見ながら言った。
「私たちなら、絶対に倒せる」
怜の声は静かだが、強い。
「みんな……!!」
音の目に、光が宿る。
気づけば、激しい雨は止んでいた。
雲の切れ間から、細い光が差し込んでいた。




