第5話「鉄の心臓③」
サキの目から見ても、烈のエーテルが尽きたことは明らかだった。
サキは一気に攻めの姿勢に入る。
『烈!!カイバに切り替えて!!』
カリンの叫びが響く。
その声に烈はハッとし、即座にオートモードを起動。
「カイバさん!!耐えてくれ!!」
烈の指示に、機械音声が即座に応じる。
『リョウカイシマシタ。マモリニテッシマス』
レンゴクは完全に防御態勢へ移った。
だが、サキの攻撃をどこまで耐えられるかは分からない。
その瞬間——
レギオンΩに向けて、ライフル弾が飛来した。
放ったのは、沖田の操るザンテツだった。
命中はしなかったが、注意を逸らすには十分だった。
すぐにレンゴクへ通信が入る。
『ファクター……選手交代だ』
短い一言だったが、烈は即座に理解した。
「了解です!」
◆
(部下を二人も失い、目の前の戦いをただ見ているだけとは……)
沖田は、力量の差を痛感していた。
(たとえ勝てずとも、時間稼ぎくらいは——)
沖田に退くつもりはなかった。
命を賭してでも、足止めする覚悟だった。
サキは、標的をレンゴクからザンテツへと切り替えた。
守りに入ったレンゴクよりも、危険だと判断したのだ。
ザンテツが再びスナイパーライフルを放つ。
サキはそれをかわし、高速で間合いを詰めると、刀で銃身を斬り落とした。
さらに続けざま、ザンテツの左腕を切断する。
それでもザンテツは、レギオンΩに組み付いた。
残った手足で、正確に関節部を捉え、ロックする。
だが、パワーの差は歴然。
頭部を掴まれ、無理やり引き剥がされる。
しかし、その反動を利用し、奪われていた刀を強引に取り返した。
サキは一旦、間合いを取った。
(次の一撃が……最後か)
ザンテツは、残った右腕で刀を構え、ゆっくりと踏み出そうとする。
その時——
通信が割り込む。
『沖田よ。死に急ぐな』
その声を聞いた瞬間、沖田は叫んだ。
「さ、榊先生!?」
◆
上空から、一機のSDが降下してきた。
通常のザンテツとは違う。
頭部に刻まれた「天」の文字。
——ザンテツ・天。
日本唯一のアイアンハート、榊 修の専用機。
(あれは……アイアンハート……!?)
モニター越しに見ていたカリンは、思わず息を呑む。
外部情報を遮断し、回復に専念していた烈も異変に気づき、モニターを起動する。
「……!?あれって、たしか……」
烈の脳裏に浮かぶのは、東が何度も語っていた“剣豪”の存在。
「……先生」
沖田にとって、榊は師だった。
『沖田よ。過ちは生きて、次に活かしなさい』
落ち着き払った、澄んだ声。
ザンテツ・天の両手には、すでに二本の刀が抜かれていた。
サキは、機体越しにも分かるほどの圧を感じていた。
(……今までとは、まるで違う)
そう思わせる存在感だった。
「さて——お引き取り願おう」
榊がそう告げると同時に、ザンテツ・天は流れるように間合いを詰める。
サキも即座に応戦するが、榊の二刀流は、速さだけでなく、恐ろしく正確で、そして静かだった。
サキは一度上空へ退く。
その瞬間、レンゴクから《火炎弾》が放たれ、レギオンΩの目前で爆発する。
爆風が、サキの機体を揺らした。
エーテル回復速度に優れる烈は、すでに半分近くまで回復していた。
烈は連続で《火炎弾》を放ち、爆発を重ねる。
ダメージ自体は通らない。
だが、目眩と体勢崩しには十分だった。
サキが回避した先には——
すでに、ザンテツ・天が刀を構えて待っていた。
空中に跳躍し、放たれる居合斬り。
完全にはかわしきれず、レギオンΩの右手首が切り落とされた。
サキは即座に不利と判断し
、そのまま撤退した。
◆
レギオンΩの退却を確認し、カリンとヒロシマ基地のオペレーターは安堵の息をついた。
「あのレギオンに……初めて、まともなダメージが入った……」
烈は、アイアンハートの実力を目の当たりにし、驚きを隠せなかった。
榊は、静かに刀を納める。
沖田が、深く頭を下げた。
「先生……私は、自惚れていました。結果、部下を失いました」
榊は穏やかに答える。
「沖田。次をどうするか——君自身、もう分かっているね?」
「はいっ!!」
力強い返事に、榊は優しく微笑んだ。
やがて、烈の元へ通信が入る。
『初めまして。私は日本防衛軍所属、榊 修大佐です。君が、ファクターズの新井 烈くんだね?』
思ったよりも年配で、物腰の柔らかい声だった。
「アッ……はい!そッスね……」
烈は緊張で、ぎこちない返事になる。
『もしよろしければ、少し直接お話がしたい』
烈は戸惑い、モニター越しにカリンを見る。
『行きなさい。滅多にない機会よ』
カリンは微笑んだ。
「……わ、わかりやした……」
◆
烈と榊は、それぞれの機体を降り、歩み寄った。
「……すんません。こんな格好で……」
フォーム姿の烈は、少し照れくさそうだった。
榊は、写真で見たよりもずっと年を重ねているように見えた。
白髪混じりで、小柄な体格。
身長だけなら、烈の方がずっと大きい。
それでも、榊の存在感は圧倒的だった。
「ファクターズの皆さんの日々の活躍は、常に耳にしております」
榊は、柔らかな表情で語る。
「立場は違えど、“守りたい”という想いは同じ。これからも守っていきましょう。共に」
そう言って、榊は両手を差し出した。
烈も、緊張しながら両手を差し出す。
固い握手。
その手は、大きく——
そして、驚くほど温かかった。
◆
その後、烈はキャリアへ戻り、オルフェへ帰還した。
(……榊さん、か。ああいう人もいるんだな……)
握手を交わした自分の手を見つめながら、烈は思う。
(もしグンジンがいたら……多分、失神してたな)
静かに、そう思いながら。




