第4話「鉄の心臓②」
レンゴクのモニターが、サキのレギオンΩを捉えた。
上空から、猛スピードで接近してくる。
レンゴクはクローを展開し、口部を大きく開き、ビーストキャノンの射撃体勢に入った。
そして、強力なエーテル弾を放つ。
咆哮のような音とともに放たれた一撃は、一直線にレギオンΩへ向かう――が、
それを、最小限の動きでかわされる。
サキは、レギオンΩの両腰からナイフを引き抜き、一気にレンゴクとの距離を詰めた。
ナイフをクローで受け止めるレンゴク、激しい火花が散った。
至近距離から、再びキャノンを発射。
しかし、それも避けられてしまう。
レギオンΩは一旦上空へと上がり、距離を取った。
サキのレギオンΩは、ヴァルキリー・ギアに特化した仕様。
つまり、空中戦を最も得意とする
“麗鳥”の異名を持つサキに相応しい機体だった。
一方、レンゴクはビーストスタイルを主とする地上戦特化機。
両者のコンセプトは、正反対。
だが、レギオンΩは近接戦しか仕掛けてこない。
つまり、必ずレンゴクの間合いまで踏み込んでくる。
◆
上空のレギオンΩに、沖田小隊のツキガゲが、スナイパーライフルで狙撃を仕掛けた。
正確な弾道――しかし、軽々と回避される。
だが、避けた先を読んで、別のツキガゲが同時に狙撃。
サキはナイフに角度をつけ、弾くというより、流すように弾道を逸らした。
サキはモニターで、弾が飛んできた位置から狙撃者を割り出す。
だが、そこにはスナイパーライフルだけが設置された状態で残されていた。
サキは冷静だった。
ツキガゲのステルス性を考えれば、むしろ当然の結果だ。
それよりも――
レギオン部隊の援軍として到着したはずのサキは、部隊がすでに全滅していることを気にしていた。
任務では、生き残った兵を撤退させるはずだった。
天華の見立てでは、サキが到着する時点で、最低でも4機は健在とされていた。
――つまり、想定よりも早い段階で壊滅していた。
レンゴクが、その戦闘に関与していないことはモニターで分かっている。
(なるほど……ハート、か)
サキは、レンゴクとは別方向にいるザンテツ、そして二方向から狙撃を仕掛けてきたツキガゲ――
それらが“ハート”であることに気づいた。
サキは、レンゴクではなく、真っ直ぐにザンテツへ向かう。
――おそらく、あれが隊長。
頭を潰せば、指揮は乱れる。
そう判断した。
『…勝負ッ!!』
沖田のザンテツは、刀を構えて迎え撃つ。
レギオンΩとザンテツは、激しい斬撃の応酬を繰り広げた。
(すげぇ……!! 正面から……!!)
烈は、驚愕しながらそれを見ていた。
下手に割って入れる隙が、まるでない。
その瞬間、レギオンΩに複数のワイヤーが絡みつく。
ステルス状態のツキガゲ2機から放たれたものだった。
一瞬、動きが鈍るレギオンΩ。
その隙を逃さず、ザンテツの刃がコクピットを貫こうと迫る――
しかし、サキは流れるように突きを回避。
同時に、両手のナイフをそれぞれツキガゲへ投擲した。
ナイフは正確に、ツキガゲのコクピットを貫く。
『麻倉ァ!! 天城ィ!!』
沖田が部下の名を叫ぶ。
体勢を立て直し、再び斬りかかるが、刃が届く前に刀を弾かれた。
弾き上げられ、空中を舞う刀を、
レギオンΩが掴む。
そのまま、ザンテツを斬り裂こうとした――
だが、レンゴクのクローがそれを受け止めた。
「……選手交代だ……!!」
サキのレギオンΩは、ゆっくりと刀を構え直した。
◆
「こっちも剣でいくぜ!!《大炎剣》!!」
高温の炎が巨大な剣の形に形成された。
元はエーテルだが、熱による物理的斬撃効果も併せ持つ大剣。
純粋なエーテル攻撃が効かないレギオンΩへの対策として、烈が編み出した新スキルだった。
だが、通用するかどうかは、使ってみなければ分からない。
武器を構えた両者の間に、僅かな静寂が流れる。
先に動いたのは、レンゴクだった。
背中のロケットブースターを噴かし、勢いよく斬りかかる。
レギオンΩは斬撃をかわし、突きでレンゴク本体を狙う。
レンゴクは紙一重で回避し、大剣を薙ぎ払うように横へ振る。
レギオンΩは姿勢を低くし、ギリギリで避けつつ、刀を逆手に持ち替えて脚部を斬りつけた。
レンゴクはすぐに後退するが、わずかな斬撃痕を残される。
よく見ると、レギオンΩの片方のアンテナも斬り落とされていた。
《大炎剣》は、確実にレギオンΩへ届いていた。
だが、烈は焦っていた。
烈のエーテル容量は、ファクターズの中で最も少ない。
その分、回復速度は最速だが――
短期決戦向きで、長期戦には向かない。
(やべぇ……!通用するのは分かったが、消耗が予想以上に早えぇ……!)
新スキル《大炎剣》も、まだ練度が浅く、消耗が激しかった。
レンゴクは、荒々しくレギオンΩへと突進する。
『烈! 焦りすぎよ!』
カリンにも、その焦りは見えていた。
サキは適度に距離を取りながら、
カウンターで少量ずつだが確実にダメージを与えていく。
そして――
ついに《大炎剣》は消えた。
烈は慌ててクローを展開するが、レギオンΩはすでに背後を取っていた。
致命傷こそ避けたものの、鋭い斬撃がレンゴクの背面を襲う。
これまでのダメージの蓄積、そしてエーテル切れ。
レンゴクは、明らかに弱体化していた。
たとえファクターのエーテルが尽きても、エーテルコンデンサーが
予備バッテリーのように機能するため、動力そのものに問題はない。
しかし、スキルや機体強化は、ファクターのエーテルに依存しているため、今の状態では、どちらも使えない。
(くそっ……!完全に、俺の判断ミスだ……!)
烈は、心の中で強く後悔した。
その時――
ヒロシマ基地上空へと近づく、日本軍のキャリアの姿があった。




