第3話「鉄の心臓①」
烈とレンゴクを乗せたキャリアは、ヒロシマ基地付近の上空にいた。
ヒロシマ基地からの援軍要請。
相手は天華連盟――つまり、強化兵だ。
カリンによるサポートはあるものの、今回の任務は烈の単独出撃となる。
『オルフェです。まもなく予定地点へ到着します』
カリンが、ヒロシマ基地へ通信を入れる。
『こちらヒロシマ基地。ご協力、感謝します』
基地の男性オペレーターが応じた。
烈はキャリアのモニターで、戦況を確認していた。
日本軍
・ザンテツ 1機(有人機)
・ツキカゲ 2機(有人機)
・ブロックス 3機(無人機)
天華連盟
・レギオンα 2機
・レギオンβ 2機
・レギオンγ 1機
数だけを見れば拮抗しているが、烈が到着するまでに、すでに多数のレギオンが撃墜されていた。
――つまり、日本軍が圧倒的に有利だった。
それもそのはず。
有人機であるザンテツとツキカゲ2機、計3機で編成された“沖田小隊”の存在。
無人機が主流となった現代において、個人所有機や強化兵用のレギオン、EDやDDといった特別な理由がない限り、有人機に乗るハートは、いわばプロ、あるいはエースを意味する。
そんなハートのみで編成された沖田小隊は、当初は倍近い戦力差があったにもかかわらず、レギオン部隊を圧倒していた。
ここまでならオルフェの援軍は不要だった。
だが、問題は別にあった。
天華側の援軍、紫の新型レギオン。
すなわち、サキのレギオンΩが、単独でこちらに向かっていた。
烈の任務は、そのレギオンΩを抑えることだった。
◆
烈はレンゴクに搭乗し、出撃準備を整えた。
「こちら烈。いつでもいけるぜ」
カリンへ通信を入れる。
『まだ待機してて』
カリンはそう告げ、ヒロシマ基地のオペレーターとやり取りを続けていた。
烈は、何気なくその会話を聞いていた。
『……ご存じとは思いますが、“ΩおよびDDを含む未確認兵器”への対応は、すべてオルフェの管轄と決定しています』
カリンは冷静に告げる。
DDやレギオンΩといった特殊機体は、オルフェの担当――
それは、軍事法案によって正式に定められたばかりだった。
“毒を以て毒を制す”。
そう考えれば、自然な流れでもある。
これにより、自衛目的以外の出撃には軍の許可が必要となったが、
DDやレギオンΩの反応が確認された場合に限り、オルフェの判断のみで出撃が可能となった。
本来なら、ヒロシマ基地の援軍要請は必要無いのだが、新法案はまだ現場に十分浸透していなかったのだろう。
カリンが説明している相手――
それは、ザンテツのハート、沖田隊長だった。
『……気に食わんな。我々は、ただの露払いか?』
沖田は、新法案に強い不満を抱いていた。
――特殊機体が現れたら、オルフェに任せて撤退する。
前線で戦い続けてきた沖田にとって、それはハートとしての誇りに関わる。
まして、オルフェのファクターズは、まだ10代の子供達。
子供に任せて、大人が退くのか?
沖田は、どうしても納得できなかった。
『沖田小隊の実力に、文句をつける人はいません。ただ、相手が普通じゃないんです!』
男性オペレーターが声を上げた。
『普通の相手としか、我々は戦わぬとでも?』
沖田は、残りのレギオンを斬り伏せながら言った。
『最終的な判断は、現場に任せます』
カリンは淡々と告げる。
『……ブロックスは撤退させますよ?』
男性オペレーターも続けた。
『無論だ』
沖田は、レギオンを貫いた刀を引き抜きながら答えた。
その時点で、レギオン部隊はすでに全滅していた。
◆
そんなやり取りを、烈は黙って聞いていた。
(……確かに。さすがハートだ。あの実力、伊達じゃねえ……)
キャリアのモニターに映る沖田小隊の戦闘は、ファクターズとは違う方向性の強さ――
人間としての強さを感じさせるものだった。
正直、味方にいてくれたほうが、どれだけ心強いか分からない。
相手は、あのレギオンΩ。
1人でどこまでやれるのか――
そんな不安が、胸をよぎる。
もっとも、烈が単独で選ばれたのは、それだけの評価を受けている証でもあった。
『烈、そろそろ出撃を』
カリンの冷静な声が響く。
烈はハッとして、キャリアのハッチへと向かう。
『烈、倒すことなんて考えなくていい』
カリンは、冷静にそう言った。
「……へっ! なら、倒しちまうかもな!」
烈は強がってみせた。
カリンは、わずかに微笑んだ。
『レギオンΩ、ヒロシマ基地到達まで、あと5分』
「いくぜ、レンゴク!」
レンゴクは、キャリアから飛び出した。




