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エーテルコード  作者: エトコッコ
第6章:律動

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第2話「光の届かない世界で②」


シラユキの存在に、密猟者達はすぐに気づいた。


使用しているSDは“ブロックス・ダイバー”


ブロックスを海底調査用に改修した非武装仕様。


しかしそれらは密猟者によって戦闘仕様となっていた。


古代クジラに取り付いていた5機のうち、3機が迎撃に回る。


水中とはいえ性能だけを見れば、シラユキが圧倒的に有利。


しかし、エーテルで機体を強化し発光している影響で、位置が相手には丸見えだった。


一方でシラユキ側の視界は悪く、頼れるのは自身のモニターと、ビットから送られてくる映像だけ。


3機のブロックス・ダイバーから、魚雷が一斉に放たれたが、シラユキは即座に回避した。


その瞬間——

水を通して、低く唸るような音が響いた。


「!?」


怜が視線を向けると、古代クジラに取り付いている残りの2機が、さらに銛を突き立てていた。


一瞬、動きが止まったシラユキ。


その隙を、密猟者は逃さなかった。


3機のうち2機がスタンワイヤーガンを放ち、左腕と右脚に正確に絡め取ると、即座に高圧電流を流す。


「———っ!!」


声にならない悲鳴が、怜の喉から漏れた。


水中での高圧電流。


並の人間なら、即死していてもおかしくない。


そして残る1機が、ナイフを構え、一直線にシラユキの腹部へと迫る。


「怜っ!!」


それを見た音は、思わず呼び捨てにして叫んでいた。


ツムギのガンブレードを握り締める。


だが——

ナイフは届かなかった。


《アイスシールド》が展開され、攻撃を阻んでいたのだ。


同時に、ジャベリンが回転し、絡みついたワイヤーを瞬時に切断。


ナイフを構えていた機体は、すでに氷に侵食され、動きを止めていた。


「《氷槍》」


氷で作られた長槍が、2本。


目にも止まらぬ速さで放たれ、2機のコクピットを正確に貫く。


「……大丈夫よ」


怜は通信越しに音へ告げる。


「……うん!」


音はガンブレードから手を離し、再び探索に集中した。



残るのは、古代クジラに取り付いた2機。


遠距離攻撃は、古代クジラを巻き込む危険がある。


接近するしかないが、暴れるクジラに近づくのは容易ではなかった。


同時に、怜の中に疑問が浮かんでいた。


——SDは現在2機、元々は5機。


水中仕様とはいえ、たった5機では古代クジラの捕獲は不可能。


それに、捕獲というにはあまりに攻撃が激しい。


生死を問わない?

それでも、2機だけではどうにもならないはず。


……それなのに、なぜ撤退しない?


思考を巡らせていると、音から通信が入った。


「まだいる!3機!…それに、これって…!」


音は続ける。


「“子クジラ”もいる!!」


その言葉で、すべてが繋がった。


密猟者の狙いは、親ではなく子クジラ。


親クジラは、子クジラをおびき寄せるための餌であり、怜達を引きつける囮。


最初から、生死など気にしていなかったのだ。


子クジラなら、SD2~3機でも捕獲可能。


もし音が探索をやめ、戦闘に参加していたら、この反応は見逃していただろう。


怜はビットの情報を頼りに、速度を一気に上げた。


モニターには、SDと子クジラが離れていく反応。


そして、瀕死状態の親クジラ。


幼い頃、目の前で母親を失った記憶が無意識に重なる。


その瞬間——

シラユキの身体が、エーテルとは異なる“光の粒子”を纏った。


怜とシラユキは、完全同調を引き起こしていた。


静かなる超加速。


離れていた距離を、一瞬で詰めた。


そこには、鋼鉄の網に絡め取られた、傷だらけの子クジラがいた。


突然現れたシラユキに、密猟者達は明らかに動揺する。


だが次の瞬間、3機すべてが氷漬けになっていた。


網から解放される子クジラ。


「……子クジラちゃん。ちょっと待っててね」


そう言い残し、怜はすぐさま親クジラの元へ戻る。


そして、残る2機も同様に氷漬けにした。



戦闘終了と同時に、光の粒子は静かに消えていった。


音はすでに子クジラの元へ向かっていた。


深々と刺さった銛を抜き、氷による止血と回復を同時に行う《アイスヒーリング》で親クジラの治療を始める。


「ごめんね…少しだけ、我慢してて…!」


そう言いながら、手当を続ける。


「怜ちゃん!おまたせ!」


音が、元気になった子クジラと共に戻ってきた。


音のスキルにより、子クジラは完全に回復していた。


音も加わり、2人で親クジラの治療を終える。


やがて、親子クジラは並んで、深海へと去っていった。


その背中を見送る2人の表情は、穏やかだった。



キャリアへ戻り、海上保安庁へ連絡する怜。


状況を淡々と報告する。


『ご協力、心より感謝いたします……。本当に、本当に、ありがとうございます……』


年配の男性の声は、涙に滲んでいた。


背後からは、職員たちの安堵と歓喜の声が聞こえる。


人の醜さも、優しさも、どちらもこの世界には存在する。


怜と音は、それを静かに感じていた。



帰りのキャリアの中。


「……そういえば、音」


怜が切り出す。


「なぁに?」


「“怜”って、呼んでくれたね」


「あっ!ごめんね、つい……」


「違うよ。嬉しかった」


怜は、少し照れながら言った。


「ほんと?」


音は、ぱっと笑顔になる。


怜は頷いた。


「……じゃあ、“怜”って呼んでもいい?2人きりのときに……」


音も、少し照れながら言う。


「……嬉しい」


2人の心の距離は、さらに縮まったようだ。

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