第1話「光の届かない世界で①」
オキナワ上空。
キャリアの中には、怜と音、そしてそれぞれのEDが搭載されていた。
——時は少し遡る。
◆
海上保安庁から、オルフェ研究機関へ救援要請が入った。
極めて珍しいケースだった。
要請内容は——
“密猟者の撃退”。
オキナワ海域に生息する「古代クジラ」は、絶滅危惧種として厳重に保護されている生物。
全長35〜40メートルにも及ぶその巨体は、希少性と同時に大きな価値を持ち、密猟の対象となり続けていた。
だが、問題はそれだけではなかった。
ほぼ同時に
・ヒロシマ基地からの援軍要請
・シズオカの避難施設からの救助要請
も届いていたのだ。
オルフェは即座に判断を下す。
出動は、3班に分けて行う。
まず、オキナワ海域へ向かうのは怜と音。
海中戦において、この2人の相性は抜群だった。
次に、ヒロシマ基地へは烈が単独で向かう。
そして最後に、シズオカへ向かうのは閃と訓練生4名、オペレーターとしてクレアが同行する。
シズオカでは、避難施設や病院の電力停止という深刻な問題が起きていた。
さらに、支援物資を積んだ支援用SD「ヒキャク」や、救助隊が未だ到着せず、インフラが完全に麻痺している状態だった。
訓練生にとっては、これが初めての“実地任務”となる。
クレアは、彼らのオペレーターとして同行することになった。
こうして、それぞれの班はキャリアに乗り込み、現場へと向かっていった。
◆
伶と音を乗せたキャリアは、海上保安庁から送られてきたデータをもとに、指定された海域へ到達した。
そこは、見渡す限りの海のど真ん中だった。
「……音、サポートお願いね」
怜が静かに言う。
「うん!まかせて!」
音は、いつも通りの明るい笑顔で応えた。
それぞれのEDに搭乗し、キャリアのハッチが開く。
そして、シラユキとツムギは同時に海へと飛び込んだ。
◆
海中。
エーテルを集中させている影響で、シラユキとツムギはそれぞれ眩い光を放っていた。
それは、暗闇を照らすための灯りであると同時に、機体強度を高めるためでもある。
古代クジラが生息する水深は、通常800〜1000メートル。
一般的な機体であれば、耐圧の限界を超える深さだ。
しかし、元々高性能なEDは、ファクターのエーテル出力によってさらに性能が引き上げられる。
動力や推進力の主軸もエーテルであり、たとえ宇宙であっても換装無しで活動可能な、場所を選ばない汎用性を誇っていた。
エーテル素材の装甲とエーテルによる強化を併用すれば、理論上は水深1500メートルまで問題なく行動できる。
古代クジラの深度に到達すること自体は、問題ではない。
問題は——
古代クジラと密猟者の正確な位置だった。
要請が出た理由も、密猟者の反応を捉えながら、位置を完全に見失ってしまったためだった。
◆
水深800メートル付近。
周囲は、ほぼ完全な闇に包まれている。
視界にあるのは、エーテルで発光するシラユキとツムギだけ。
ツムギは脚部から、計6基のビットを展開し、それらを広範囲へ散開させていた。
ツムギのビットは、攻撃だけでなく、防御・撹乱・偵察にも対応する万能型エーテル武器だ。
今回、音は広大な深海で古代クジラと密猟者を探し出すため、普段以上に集中力を要していた。
そのため、役割は完全にサポートに徹している。
「……うーん。見当たらない……」
音が、小さく呟く。
2人は、さらに深く潜っていった。
◆
水深1200メートル付近。
音は、変わらずビットに意識を集中させていた。
——そのとき。
「……いたっ!」
音が、数機のSDの反応を捉えた。
同時にそのデータはシラユキへ共有され、伶は迷いなく進路を変える。
送られてきた情報には、SD反応が5機、そしてその近傍に大型生物の反応。
ほぼ間違いなく、古代クジラだ。
——すでに、密猟者に発見されている。
距離はあるが、シラユキの最大速度なら、瞬時に詰められる。
ツムギは距離を保ちつつ移動した。
不用意に近づけば、戦闘領域に巻き込まれてしまう。
戦闘は怜。サポートは音。
慣れない環境だからこそ、役割を徹底する必要があった。
◆
距離が縮まるにつれ、ビットから送られてくる映像は、より鮮明になっていく。
「……っ!?」
音は、思わず息を詰まらせた。
映像に映っていたのは、古代クジラの腹部に深々と突き刺さった10本近い巨大な銛。
あまりにも痛々しい光景に、音は強いショックを受けた。
その映像は、同時にシラユキのモニターにも表示されていた。
怜の表情が、氷のように凍てついていく。
「……クズどもめ」
低く呟き、シラユキはジャベリンを構えた。




