第4話「救出②」
4機のツキカゲ・夜叉に取り囲まれた、バサラヲとレンゴク。
そのうちの1機から通信が入った。
『……よく気づいたな』
閃は周囲を警戒しつつ、答えた。
「そんな子供だましに引っかかるかっつの」
さらに言葉を続ける。
「それに、あんたら影忍隊じゃないだろ。さっきの奴も含めて、全員“強化兵”だ」
『……賢いじゃないか』
閃の中では、すでに全ての辻褄が合っていた。
おそらく、救出要請が出た時点では、彼らは本当に日本軍の兵士だった。
だがその後、天華の強化兵に襲われ、機体と識別プレートを奪われた。
もう1機の有人機は、カモフラージュのためにあえてそのまま撃破。
ファクターズより先に合流地点へ到着していた影忍隊は奇襲を受け、機体を強奪される。
そして影忍隊になりすまし、ファクターズの始末に向かった――。
閃が違和感を覚えたのは、中破したザンテツと他の機体との損傷差だった。
コクピット周辺だけが不自然に無傷。
ハート本人にも外傷はない。
それなのに、心肺機能だけが著しく低下していた。
何らかの装置を使い、自ら心臓発作を引き起こしたのだろう。
さらに決定的だったのは、
「他の連中は?」という不自然な言葉。
本来なら、元々自分ともう1人のハートしかいないはずの状況で、あの問いはおかしい。
確信に変わったのは、ツキカゲ・夜叉が“味方であるはずの自分達”に、ステルス状態で接近してきたことだった。
この違和感は、烈も同時に感じ取っていた。
あえて背を向けたのは、相手の油断を誘うため。
リストガンに気づけたのも、ドローンのカメラに映った反射を確認していたからだ。
「……元のハートたちは、どうしたんだよ……!」
烈が低く問いかける。
『……さぁな』
強化兵の1人が、淡々と答えた。
閃は烈に告げる。
「烈。相手はほぼ間違いなくγクラスだ。……確実に“殲滅”する」
「了解!!」
殲滅――それは、ハートを含め、機体を完全に破壊するという意味だ。
その直後、上空でライトを照らしていたエレキャリアが撃墜された。
同時に、2つの斬撃がバサラヲを襲う。
閃は間一髪でかわし、反撃に転じるが、すでに敵影は消えていた。
上空から、エアキャリアの残骸が降り注ぐ。
2機は即座に分かれ、それぞれ回避行動を取る。
その残骸の中に、ツキカゲ・夜叉が紛れていると読んでいた。
閃はエーテルを集中させ、機体を発光させた。
簡易的な“ライト”代わりだ。
暗闇で自ら光る行為は、本来なら自殺行為だが、すでに居場所が割れている以上、視界を確保する方が賢明だった。
敵の想定では、まず閃をEDから引き剥がし、4機でレンゴクを仕留める算段だったはずだ。
仮にED戦になったとしても、夜間の森林地帯はステルス特化のツキカゲに有利。
さらに、雷や炎を無闇に使えば二次災害で森が火の海になる。
すぐに消火の出来る、怜と音が不在なのも、織り込み済みだったのだろう。
先ほどから通信だけを仕掛け、攻撃してこないのは、精神的に揺さぶるための“間”を作り、焦らせるためだ。
状況だけ見れば、閃たちが不利だった。
――その時。
バサラヲの背後から、1機のツキカゲ・夜叉が静かに迫る。
一気に距離を詰め、ブレードを突き立てた。
……かに見えたが、狙いは外れていた。
次の瞬間、逆にツキカゲ・夜叉のコクピットが、背後から正確に貫かれた。
閃は、エアキャリアが撃墜された瞬間に《電影》を発動していた。
広範囲の電子機器に誤作動を引き起こしつつ、味方のセンサー性能を底上げするサポートスキル。
その効果で、レンゴクに迫っていたもう1機も即座に捕捉。
レンゴクはクローを突き出す。
ツキカゲ・夜叉は体勢を変え、辛うじて回避するが――
直後、レンゴクの顎部が開き、キャノンを発射した。
威力は抑えたが、至近距離でコクピットに直撃し撃墜させた。
すでに2機が沈黙していた。
そして、閃と烈は一転して、EDの出力を完全に落とした。
《電影》の影響も相まって、ツキカゲ・夜叉のレーダーには映らない。
先ほどの発光は、敵を誘導するための罠だった。
(……距離を取ったか?)
γクラスは目視で周囲を探るが、異変は見えない。
(……だが、反応がないからといって、完全に停止しているとは限らん……)
次の瞬間、レーダーに極めて微弱な反応。
ツキカゲ・夜叉は即座にその地点へ向かった。
――そこにあったのは、ブロックスの残骸だけ。
(……!? しまっ……!!)
気づいた時には、残骸に隠れていたレンゴクのクローが、コクピットを貫いていた。
2機のEDは、終始出力ゼロ。
レーダーに映っていた反応は、閃がブロックスの残骸に、僅かに《充電》を施し、囮にしていたものだった。
――残り、1機。
最後のツキカゲ・夜叉が、目の前に姿を現す。
『予想以上だよ、ファクターズ』
バサラヲとレンゴクは、静かに武器を構えた。
『こうなる事態に備えて、元のハートたちは人質として――』
言い終える前に、バサラヲの刀がコクピットを貫いた。
烈は冷静にそれを見届ける。
「信じられるかよ。お前らの言うことなんて……」
閃は刀を引き抜き、冷たく言い放った。
「……終わったな」
烈が呟く。
その瞬間、オルフェから鬼のように通信が入り続けていた。
閃が回線を開くと、リオの声が飛び込んできた。
『2人とも無事!?』
閃は、落ち着いついて、順を追って状況を説明する。
エレキャリアの反応が消えた時点で、すでに別の1機を手配していた。
そこには東と光井、そして各自のトルーパーも搭乗していた。
後日、日本軍の救出隊が影忍隊やブロックスのハートを発見したが、彼らはすでに――全員、殺害されていた。




