第2話「消えない火種」
オルフェ研究機関・訓練エリア。
閃と怜は、訓練を終えたばかりだった。
「どう? 新しい“エーテルスキル”《雷導》」
閃がソファにごろんと寝転がる。
「…いいんじゃない?」
怜は向かいのソファに座って、淡々と答えた。
「怜も新しいスキル、考えてる?」
「…ちょっと凝ったの考えてる」
「へぇ〜」
2人はタオルで汗を拭きながら軽口を交わしていた。
その時、訓練エリアに付いているモニターから声がした。
『閃ちゃん、れーにゃん、おつかれ様ー』
オペレーターのリオの声だ。
宝生 リオ——通称「リオっち」。
オルフェ研究機関のオペレーターで、明るくフレンドリーな性格で親しまれている。
「お、リオっち。おつかれ〜」
『ぼちぼち2人は待機しといてね〜』
「了解」
怜が短く答える。
『何かあったらすぐ連絡するから。何もないといいんだけどね…』
通信が切れた。
「……ホントにね」
閃がぼそりと呟く。
怜も静かに頷いた。
◆
同じ頃。
烈と音は、オルフェ専用のエレカに乗って市街地をパトロールしていた。
「今日も静かだな」
烈が窓の外を眺めながら言う。
「うん、平和だね」
音が穏やかに微笑む。
エレカの自動運転で、ゆっくりと街を巡回していた。
買い物客や通勤する人々が行き交い、平和そのものの景色が広がっている。
だが、烈の目は警戒を緩めていなかった。
世界的には大規模な戦争は終わったとされているが、個人レベルの争いは今もなお続いている。
特に軍事大国“ 天華”の組織、“天華連盟”が裏で支援する組織は、日本国内でもたびたび問題を起こしていた。
「……あれ?」
音が眉を寄せ、窓の外を見つめた。
「どうした?」
「なんか……風が、変な感じ」
音は、空気の乱れを感じ取った。
烈もその方向に視線を向けた。
その瞬間——
遠くで爆発音が響く。
黒煙が上がる場所は第10区画の商業地区中心部だ。
「リオっち、状況は!」
烈がスマカで呼びかけると、すぐに応答が返ってきた。
『こちらリオっち! 第10区画でSD2機の戦闘を確認! 2人は民間人の避難誘導を優先して!』
「了解!」
運転が緊急モードに切り替わり、最短ルートへ切り替える。
「またかよ……!」
烈が苦々しく呟く。
「……わたし達は、やるべき事をやろう」
音が静かに言った。
◆
数分後、2人は現場に到着した。
商業地区の中心で、2機のSDが互いに武器を構えて対峙していた。
濃茶色の“ブロックス”——アメリカ製の汎用型SD。
青灰色の“クリューガー”——ドイツ製の重装型SD。
どちらも旧式だが、無人機ではなく有人機。
さらに、カラーリングも正規のものではない。
「また有人機か……」
烈が舌打ちをする。
無人機なら容赦なく破壊できるが、有人機は中の人間を殺さぬよう戦わなければならない。
音は風のエーテルを広げ、民間人に呼びかける。
「ファクターズです! こちらへ! 急いでください!」
人々が慌てて走り去る。
その間に、SD同士の戦闘が激化した。
ブロックスがアサルトライフルを構え発砲。
クリューガーは盾で受け止め、火花が散る。
「せめて、市街地ではやるなよ……!」
烈の声は届かない。
クリューガーが盾を構えたまま突進。
ブロックスが受け止めきれず、ビルの壁へ叩きつけられた。
崩れた壁の破片が、人々に降りかかろうとする。
「っ——!!《エアフィールド》!!」
音のスキルが風の壁を作り、破片を弾き返した。
その光景を見ていた烈は、歯を食いしばった。
◆
館内アナウンスが入った。
『第10区画で有人SD2機が交戦中! 烈と音だけじゃ対応しきれない! すぐに出撃を!』
閃と怜は同時に立ち上がる。
2人はトレーニングウェアを脱ぎ、黒いタンクトップとショートパンツの“フォーム”姿になる。
フォームとは——
黒地に各ファクターのラインカラーが入る、露出の多いファクター専用のパイロットスーツ。
“エーテル干渉を避けるため、肌に近いほど効率がいい”——
研究結果とはいえ、最初は誰もが抵抗があった。
ただ、非常に軽装のため、ファクターズは普段から制服の下に着込んでいた。
すぐに戦闘準備に入るためである。
◆
オルフェ研究機関・格納庫。
閃と怜は2機の“エーテルドール”——通称EDに乗り込み、意識を集中させる。
エーテルの光が、EDの全身を駆け巡る。
雷の武士、“バサラヲ”。
氷の巫女、“シラユキ”。
2機のEDが射出され、空へと飛び立った。
◆
市街地。
烈と音は避難誘導を続けていたが、SDの動きは止まらない。
ブロックスが再びライフルを構える。
クリューガーも突進の構え。
その瞬間——
空から、轟音とともに影が降下してきた。
烈と音が顔を上げる。
雷の輝き。
氷の煌めき。
バサラヲとシラユキが、今、戦場へと降り立とうとしていた。




