第1話「アフターケア」
時は、少し遡る。
烈が美晴の最期を見届けてから、しばらく経った頃。
クレアは、ただひたすらエレコプターの中で待っていた。
やがて、烈が戻ってきた。
その瞳は泣き腫らして真っ赤だった。
けれど、表情はどこか穏やかで、静かに受け入れているようにも見えた。
クレアは戸惑いながら尋ねる。
「え……?もう、いいの……?」
烈は短く頷き、優しく言った。
「ああ。次は……ゆっくりできる時に、また来るよ」
クレアは小さく息をのみ、遠くを見る。
そこには結菜と子供たちが並んでいた。
きっと、見送りに来てくれたのだ。
クレアが会釈すると、結菜も深く頭を下げた。
子供たちは、泣いている子、ただ立ち尽くしている子、烈に全力で手を振る子——それぞれが、精一杯の気持ちを表していた。
烈は手を振り返し、そっと呟いた。
「帰ろう」
エレコプターはゆっくり上昇し、空へと戻っていった。
◆
帰りの機内。
沈黙の中で、烈がふと口を開いた。
「……クレア」
「な、なに?」
びっくりしながら振り向いたクレアに、烈は穏やかに笑った。
「一緒に来てくれて、ありがとな」
その一言で、クレアの思考は完全に停止した。
「ア、アタシ……!何もしてないよ……?」
烈は、どこか照れたように続ける。
「そんなこと…ねーよ」
行きのキャリアで、烈は珍しく弱気になっていた。
クレアは寄り添い、励まし、状況を誰より早く動かしてくれた。
それが烈には、どれほど心強かったか。
クレアは耳まで真っ赤にし、湯気が出そうな勢いで俯いた。
烈はそんな彼女を見て、いつもの空気が戻ってきたことにほっとしていた。
◆
一方その頃。
レギオンΩとの戦闘からしばらくして、閃と怜、そして訓練生の4人は全員気を失っていた。
救護班に回収され、それぞれ医務室へと運ばれた。
少し遅れて、音が自室で目を覚ました。
スマカを見ると、リオから着信が入っていた。
折り返すと、すぐにリオが叫んだ。
『音ちゃん!!めっちゃいいタイミング!!今すぐ医務室来て!!』
「わ、わかりましたっ!」
音は胸騒ぎを感じながら、急いで医務室へ向かった。
そこには——
怜、訓練生4人がフォームのままベッドに横たわっていた。
リオ・カリン・松永・牧の姿もあった。
驚いた音は、話を聞くより先に《治癒のウィンド》を全員に展開した。
淡い風が包み込み、5人は次々と目を覚ます。
「……あれ?生きてる……?」
光井が呟く声に、思わず皆が笑ってしまった。
怜は起きると同時に叫んだ。
「閃は!?」
怜らしからぬ勢いに、全員がびくっとした。
だが、音の顔も青ざめていた。
閃と烈の姿が無い事に。
松永が静かに、これまでの経緯をすべて話し始めた。
◆
説明が終わる頃、音は震えていた。
「わたしが……のんきに寝てる間に……そ、そんな大変な……」
泣きそうな声。
責めているのは自分自身。
その瞬間——怜が立ち上がり、音を強く抱きしめた。
「違うの、音。あなたは何一つ悪くない」
音の肩が震え、怜の胸元で息を整える。
「怜ちゃん……ありがとう……」
そう言うと、音も怜を抱きしめた。
その光景に職員たちも胸が熱くなった。
怜は松永に向き直る。
「閃のところへ行ってもいいですか?」
松永はすぐに確認を取り、頷いた。
「ええ、大丈夫よ」
怜と音はすぐに閃の医務室へ向かった。
残された訓練生はというと……
「約束です。どんな罰でも受けます!」
と東が真っ直ぐな目で言い、
松永は思わず目を丸くした。
「罰? 副総帥が正式に許可出したんだから、罰なんてないわよ?」
研修生全員が同時に固まった。
「むしろ、あなた達を引き留めようとして、本当にごめんなさい…」
松永は4人に、頭を下げた。
みのりが慌てて言う。
「違います!松永主任が、あたし達の事を守ろうとしてくれたの、ちゃんと分かってます!」
アンジュが手を挙げる。
「そうそう。マジ、皆のママっすよ」
松永は思わず微笑んだ。
「……ありがとう」
牧も満面の笑み。
「皆、本当にかっこよかったよ!」
みのりが照れながら笑う。
「えへへ……すぐやられちゃったケド……」
リオが続けた。
「ミチ!アンタの男気、お姉さん感動したからね!」
光井はうつむきつつ笑った。
「はは……気絶してただけなんすけど……」
カリンも優しく言った。
「本当にかっこよかった。でも…もう無茶はしないでね?」
「す、すんません……」
松永は思った。
(この子たち……ほんとに良いチームね)
◆
怜と音は閃の医務室へ入った。
音は《治癒のウィンド》をそっと展開したが、閃はまだ目を覚まさない。
寝顔は穏やかで、静かに呼吸している。
「……このままに、しとこっか」
「……うん」
2人は小さく微笑み合い、そっと部屋を出た。
手はずっと繋いだままだった。
◆
深夜。
閃の医務室に、怜が現れた。
抱えているのは——もちのすけのぬいぐるみ。
怜はそっとベッドに近づき、閃の額に手を当てた。
熱はない。
頬に触れると、すべすべしている。
怜の手がひんやりして、気持ちよかったのか、閃が寝言を漏らした。
「……ぐふふっ……」
怜は微笑み、椅子に座った。
もちのすけを膝に置き、そのまま、閃の頬に手を当て続けた。
静かな夜だった。




