第5話「歴史」
天華連盟・司令室。
オルフェに続き、イシュタールをも襲撃した天華。
総司令・ジョウは、ΩチームとレギオンΩの戦果に、確かな手応えを感じていた。
——今から約50年前。
技術とエネルギー分野の加速的な進歩により、各国の覇権争いが勃発した。
SDも、本来はそのために開発された兵器である。
争いはおよそ20年近く続いた。
しかし、技術力の差やエネルギー資源の奪い合いで情勢は不安定なまま、各国は疲弊し、技術も均衡。
勝者のいない膠着状態に陥る。
そして世界規模で「和平へ向かうべきだ」という流れが強まり、
小規模な停戦協定が複数結ばれていった。
——ただひとつ、天華だけがそれを拒否した。
そして、“エーテルコード”——
太古より存在していたとされるその力を持つ者たちは、歴史の節目ごとに
・戦争の道具としての徴用
・軍事目的での拉致・研究
・人身売買や囲い込み
そういった形で、繰り返し利用されてきた。
そのため、人々の間ではこう言われるようになった。
“ 古代より、エーテルコードはいつの時代も争いの渦中にいた”
それが、さらなる偏見や差別を生んでいった。
だが、天華はあくまで“本来の人間の在り方”にこだわっており、エーテル否定派である。
もっとも、「兵器として利用する価値はある」とは、はっきり考えているのだが。
オルフェやイシュタールなど、ファクターを擁する勢力に対抗するために生み出された
究極の強化兵“Ωクラス”。
そして、あらゆる最新技術を詰め込んだ“レギオンΩ”。
——これさえあれば、全面戦争などしなくても、“見せつけるだけで”世界を制することができる。
ジョウは、そう確信していた。
◆
天華連盟・格納庫。
リーアと技術者が、各レギオンΩのチェックをしていた。
「問題なし。“ギア”も良好っ♪」
リーアが軽い調子で言う。
技術者が苦笑しながら答えた。
「いやぁ…“ギア”が良好っていうより、これを使いこなせてる御三方が、凄すぎるんですよ……」
リーアたちが口にする“ギア”。
それは、レギオンΩ全機に共通して搭載されている
空間重力制御システム“ヴァルキリー・ギア”のことだった。
天華が独自に開発したこのシステムは——
エネルギーを局所的な重力干渉力へと変換し、機体周囲に微弱な反重力フィールドを形成。
重力方向の補正をリアルタイムで行う。
その結果、
・大型スラスター無しでの飛行能力
・高機動な三次元戦闘
これらを可能にしている。
特に“麗鳥”の異名を持つサキには、他の2機よりも高性能にチューンされたギアが搭載されていた。
空中戦を得意とするサキの能力を、完全に引き出すためだ。
そして、ヴァルキリー・ギアとは別に、3機にはもう一種類の“ギア”も用意されていた——。
◆
烈は自室で、スマカをホロモニターモードにし、
年配の女性と話していた。
『閃ちゃんとは、つい最近お話したよ。それに、相変わらず写真もいっぱい送ってくれて』
モニターに映る、柔らかい笑みを浮かべた女性。
彼女の名は、美晴。
烈が生まれ育った施設、たんぽぽ荘の設立者であり、管理者だ。
幼い頃に孤児となった閃も、同じくここに預けられ、烈と出会った。
言わば2人は幼なじみであり、兄弟のような関係でもある。
そして美晴は、そんな2人にとってのお母さんだった。
閃はよく、自分や烈だけでなく、ファクターズのメンバー、訓練生たち、テツやオペレーターの2人、カトちゃんこと加藤など、オルフェの人たちの写真を、こまめに美晴へ送っていた。
中でも、なぜか一番多いのは
“ 加藤とテツが戯れている写真”だという。
そのチョイスがいかにも閃らしいと、美晴は笑っていた。
「あぁ、確かにテツ、やたらとカトちゃんには懐いてんな」
烈は笑いながら答えた。
(同じ生き物だと思われてんのかな……カトちゃん)
『烈ちゃんも、いつも“手紙”ありがとうね。全部、大切にとってるよ』
美晴が、ふんわりとした声で言う。
「ロ、ローカル語の勉強ついでだし! ぜってぇ誰にも言うなよな! 特に閃には!」
烈は、あからさまに照れながら言った。
『わかってるよ』
美晴はくすっと笑って頷いた。
烈は、少し真剣な顔つきになる。
「それはそうと、美晴さん。体調……大丈夫かよ」
最近の美晴は、体調を崩しがちだった。
『大丈夫だよ。心配しなくていいよ。落ち着いたら、閃ちゃんと一緒に帰っておいで。もしよかったら、怜ちゃんや音ちゃんにも会ってみたいわ』
美晴は、相変わらず穏やかな笑顔を崩さない。
「あぁ。結菜さんとチビたちにも、よろしくな」
結菜は、美晴の娘で、現在は美晴と共にたんぽぽ荘を切り盛りしている。
そこには、今も10人の子どもたちが暮らしていた。
『結菜も子どもたちも、みんな会いたがってるよ。電話、ありがとうね』
「おう。じゃあな」
烈はそう言って、ホロモニターを閉じた。
(……いつ帰れっかな……)
ベッドに仰向けになり、両手を頭の後ろに組みながら、烈は静かに天井を見つめていた。




