第3話「嵐の素顔」
オルフェ研究機関・地下4階。
帰還したファクターズのEDが、次々と整備ドッグへ搬送されていく。
アームが伸び、損傷部位をスキャンしていく。
黒須と能勢はタブレットを手に、作業ログを確認していた。
上階の観覧デッキでは、ファクターズ4人がフォーム姿のままドリンクを飲んでいた。
音がぽつりと言う。
「……わたしって、マヌケ面なのかな?」
(ちょっとだけ見た目には自信あったんだけど……)
怜がすぐに否定した。
「それはないわ」
烈が続ける。
「……ツムギのこと言ってたんじゃね?」
「え、ツムギってマヌケ面なの?」
音はさらに困惑する。
「いや……俺は思ってねぇよ?アイツにはそう見えたんじゃね?」
烈は気まずそうに答えた。
「それはそれでやだなぁ……」
音は肩を落とす。
閃が半目でぼそりと呟く。
「俺なんて“静電気”だぞ……」
怜が小さく呟いた。
「……静電気」
閃は見逃さなかった。
怜の口角が、ほんの1ミリ上がったことを。
◆
オルフェ研究機関・作戦司令室。
大型モニターにはΩチームとの戦闘ログが映し出されていた。
エドワードとトーマスが並び、険しい表情で画面を見つめる。
「……やはりデモンストレーションですね」
トーマスが言う。
エドワードは顎に手を添えたまま答えた。
「ああ。『我々はいつでも、どこへでも殴り込める』という世界へのアピールだ。オルフェは、その舞台として利用された」
「今までとは明らかに一線を画す強化兵……そして新型レギオン。想像以上です」
トーマスの声は硬い。
エドワードは苦い表情で言う。
「……間違いなく“チャン”が絡んでいるな」
張 羅。
元オルフェ研究員でもあり、精神工学・脳科学・薬物強化の天才と呼ばれていたが、成功のためなら倫理を踏みにじる男だった。
「イシュタール財団に天華連盟……事態は深刻になってきました」
トーマスが言う。
「——ファクターは“光”だ。いずれこの争いを終わらせる存在になる」
エドワードは静かに目を閉じた。
◆
天華連盟・中央基地。
Ωチームは束の間のオフをそれぞれの場所で過ごしていた。
リーアは基地の通路を歩いていると、中年の兵士に肩を叩かれた。
「ようリーア!今から皆で飲みに行くんだ。おめぇも来るか?」
「んにゃ、今日はいいや」
リーアは手を振る。
「そうか!たまには付き合えよ〜!」
兵士は笑いながら去っていった。
リーアは基地を出て、夜の景色へふっと溶け込むように姿を消した。
◆
見晴らしのいいベランダ。
サキは欄干にもたれ、スマカを耳に当てていた。
「……うん。大丈夫。フフッ」
その声は任務中とは別人のように柔らかい。
「……そろそろ切るよ。わかってる。私も、愛してるよ——レナ」
サキには同性の恋人のレナがいた。
2人は確かな愛を育んでいた。
通話を終えたサキは、夜空を見上げた。
◆
薄暗い私室。
メルはモニターを前に大声を上げていた。
「オラァッ!!死ねッ!!死ねぇッ!!」
彼女はオンラインFPSゲーム、“KILL BREAK”のヘビーユーザーで、ランキングは常に上位だった。
ユーザー名は“気狂いウサギ”。
メルの異名、“狂兎”を元にしている。
部屋の隅には、可愛いぬいぐるみが裂かれ、破れ、無造作に捨てられていた。
——メルは先天的に重度の“キュートアグレッシブ”を持っていた。
可愛いものを見ると、傷つけたくなる。
それが彼女なりの愛情の形だった。
音に対し、異常な執着を見せた理由もそこにあった。
音はメルにとって、まさに“理想系の可愛い存在”だったのだ。
◆
リーア、サキ、メル。
3人はすべて、チャンの “Ω計画” によって生み出された。
ファクターを超えるために設計された強化兵——通称Ωクラス。
その成功例が、この“Ωチーム”。
さらに3人には、Ω専用に作られたレギオンΩが与えられている。
天華の最新技術が集約された機体だ。
そして——
Ωチームの次なる標的は、イシュタール財団。
静かな夜の奥で、嵐がまた動き始めていた。




