第1話「天華の影」
オルフェ研究機関・教育エリアの教室。
「れーにゃんさ、それ新しいやつっしょ?」
アンジュが怜のリスバを指差して言った。
「……うん。限定モデル」
怜は少しだけ頬を染めながら答える。
「ねぇ、もちのすけのリスバ、何個持ってんの?」
「んー……30以上」
「すごっ!」
アンジュが素直に驚いていると、反対側から元気な声。
「閃くん! 新作できたよ!」
音が胸を張って差し出したのは、彼女の自作4コマ漫画。
「おっ!見せて見せて!」
閃の目がキラキラと輝き、アホ毛がハート型になる。
閃は音の漫画のファンだった。
隣で光井とみのりが、その様子をこっそり見ていた。
光井は音の方を、みのりは閃の方をそれぞれ見つめている。
小声で光井が聞く。
「……やっぱあの2人、付き合ってんのかな?」
「いや、それは無いと思う。でも仲良しだよね〜」
みのりはちょっと羨ましそうだった。
◆
「この前、“榊さん”特集があってですね…」
東が烈に嬉しそうに話していた。
「へぇ。どんな内容だった?」
SDのパイロット——通称“ハート”。
今やSDの8割がAI“ブレイン”で動く無人機だ。
有人で戦場に立つことは、それだけでエースの証。
その中でも世界に5人だけの特別な存在。
——“アイアンハート”。
そして日本唯一のアイアンハートが 榊 修 である。
“剣豪”の異名を持ち、専用機“ ザンテツ・天”を駆る英雄。
そんな彼に東は強い憧れを抱いていた。
◆
そんな賑やかな教室に、小柄で丸い体型の男性がちょこちょこと入ってきた。
きっちり七三分けの丸メガネ。
加藤 進——通称「カトちゃん」。
オルフェ教育担当であり、誰からも愛される“マスコット”的存在だ。
「皆さん、おはようございます」
「おはよーカトちゃん」「おはようございます」
色んな声が返る。
「さて、今日は“ローカル語”の続きですよ」
「ローカル語むずかし〜……」
アンジュの嘆きが教室に響いた。
◆
天華連盟・司令部。
重厚な会議室に2人の男が向かい合っていた。
最高司令官——周 宝。
強化兵開発部最高責任者——張 羅。
「“Ωチーム”、いつでも出せますよ」
張が冷淡に告げる。
「よろしい。そろそろ……挨拶をしてやろう」
ジョウは薄く笑った。
◆
天華連盟の格納庫から、3機の機体が上昇する。
クリムゾンレッドの機体。
ヴァイオレットの機体。
ライトピンクの機体。
——“レギオンΩ”。
目指すはオルフェ。
◆
とある日の昼下がり。
『敵襲です! 天華連盟のレギオン3機を確認!…ただ、反応が……今までの機体と違います!』
リオの声が緊迫した空気を一瞬で作り出す。
ファクターズは即座に出撃準備に入った。
◆
上空——。
ライトピンクの機体から、甲高い声が響いた。
「あの“マヌケ面”は、絶対メルのだからね!」
少女漫画のように可愛い顔立ちとそばかすが特徴の少女、メル。
「わ〜かってるって。もー何十回聞かされたか…」
クリムゾンレッドの機体のパイロットが、気だるげに返す。
猫っ毛の髪、猫目、浅黒い肌——艶っぽい雰囲気の女性、リーア。
「んじゃ、最終確認。メルは“マヌケ面”ね」
「了解っ♡」
「サキは“ライオン”と“太もも”」
「了解」
落ち着いた声で答えたのはヴァイオレットの機体のパイロット。
濃紺のベリーショートに切れ長の瞳、中性的な美形、口元のほくろが印象的な女性、サキ。
「んで、ウチは……“デンキネズミ”」
“Ωチーム”が——
いままさにオルフェへと降り立とうとしていた。




