第6話「交差する想い」
戦闘から戻ったファクターズを、訓練生たちが出迎えた。
「すっげぇ! 完全に圧倒してたな!!」
光井が目を輝かせる。
「閃先輩、皆さん! めっちゃカッコよかったです!」
みのりが興奮気味に叫ぶ。
「戦術も連携も、見事の一言に尽きます」
東が真面目な顔で言う。
「アレ、もうちょっとで倒せてたんじゃね?」
アンジュも笑顔で続けた。
「ありがとう」
閃が軽く笑う。
——だが、その表情はどこか複雑だった。
怜も、烈も、音も。
みな同じように、晴れない顔をしている。
「ど、どうしたんだよ……?」
光井が不安そうに尋ねる。
「……あれだけの攻撃を食らってるのに、どれも決定打になってねぇ」
烈が冷静に言う。
「気絶すらしてなかったな。手加減したつもりはないのに」
閃も続けた。
訓練生たちは、その言葉に黙り込む。
——そして、もうひとつ。
ファクターズの表情を曇らせている理由があった。
イノの言葉だった。
◆◆◆
ヨハンとのやり取りがあった翌日。
ファクターズは、DD対策の作戦会議を開いていた。
だが、閃はどこか引っかかるものを感じていた。
「……何かあるなら、言いなさい」
怜が、じっと閃を見る。
「そうだ。らしくねぇ」
烈も腕を組みながら言った。
閃は、静かに口を開く。
初戦の天使型——エンプティアの行動。
あれが、どうしても引っかかっていた。
閃の《雷撃》。
怜の《氷弾》。
それらを、エンプティアは能力で“上方向”へと逸らした。
「もし、攻撃の軌道を変えられるならさ。それを利用して、俺たちに返すことだってできるだろ?」
閃は続ける。
「それを、わざわざ真上に。しかも二度も。……どうにも“周りに被害を出さないようにしてる”ように見えてさ」
烈も思い出しながら口を開いた。
「……あの不気味なエーテルも、ファクターからってより“DDの方”から出てたな」
音も、ぽつりと続ける。
「あのっ……。実はね、わたしも……。鳥人型から精神攻撃を受けたとき、本当はすぐスキルで防げたの。でも、その攻撃の中に“罪悪感”みたいなものを感じちゃって……。それで、動揺しちゃって……」
話し合いを重ねるうちに、いくつかの仮説が浮かび上がっていく。
そして怜が、結論のように口を開いた。
「……だから、撃墜じゃなくて捕獲を提案したのね」
「そゆこと」
閃は頷く。
ヨハンに向かって
「ゼクストを無理やり戦わせているのか」
と言ったとき——
すでに閃の中には、疑念があったのだった。
◆◆◆
イシュタール財団・格納庫。
「ラフティアの尻尾は、ちゃんとくっつくから問題ないよぉ〜」
低く太い声が、のんびりと響く。
話しているのは、全身の皮膚が紫色に変色し、
まるでフランケンシュタインを思わせる外見の男——
Dr.アガレス。
恐ろしい見た目とは裏腹に、その口調は穏やかだった。
「“魔獣細胞”なら、多分二日もかからないんじゃないかなぁ〜」
“魔獣細胞”とは、彼が生み出したDD用人工筋肉に使われている、独自の細胞のこと。
強靭さに加え、異常なまでの再生能力を持っている。
「そう。“D-core”の方も、特に異常はないわ」
ナンシーが端末を見ながら答える。
“D-core”。
それは彼女が開発したDDの中枢コア。
用途としてはEDの“E-core”に相当するが、その構造はまるで別物だ。
魔獣細胞が自己進化を繰り返す中で生まれた、
“ブラックマターの結晶体”。
それがD-coreの正体だった。
2人は、各機体の状態を淡々とチェックしていく。
◆
一方その頃、休憩スペースでは——。
イノが、先ほどの戦闘で閃と交わした会話を、仲間たちに話していた。
アークも、クリスも、サムも。
誰もすぐには言葉を返せない。
全員の表情には、少なからず迷いや戸惑いが浮かんでいた。
ゼクストもまた——
ファクターズと同じように、揺れていた。
(第2章 完)




