雷鳴の夜に
雷鳴が轟く大雨の夜の市街地に、轟音が響いた。
ビルの壁面が砕け、破片が雨のように降り注ぐ。
逃げ惑う人々の悲鳴は、爆発音にかき消されていく。
7メートル級の鋼鉄の巨人、“スタンドドール”——通称SDが2機、武器を構えて対峙していた。
灰色の機体と黒色の機体は、どちらも軍用ではなく違法所有機だった。
閃は、崩れかけた建物の影に身を縮めていた。
まだ7歳の小さな体が恐怖で震えていた。
ほんのちょっと前まで、ここは普通の街だった。
友達と遊んで、家族と夕食を食べて。
「逃げろ!早く!」
誰かの叫び声が聞こえる。
閃は走り出そうとしたが、足がすくんで動けない。
2機のSDが激突した。
金属が軋み、火花が散る。
次の瞬間、衝撃波が街を薙ぎ払った。
周囲の窓ガラスが、一斉に砕け散る。
怖い……誰か、助けて——
突然、閃の視界が真っ白に染まった。
これは——黄金の光?
体の内側から、何かが溢れ出してくる。
「せん——」
誰かが呼ぶ声が聞こえた。
母ちゃん?父ちゃん?
でも、もう誰の声も届かなかった。
閃が立っていた建物が、SDの攻撃を受けて崩れ始める。
瓦礫が降ってくる。
閃は強く目を閉じた。
少年が知っていた世界は、音を立てて崩れ落ちた。
◆
緩やかなアラーム音が鳴る。
「……んん」
閃は目を開けた。
見慣れた天井。白くて、清潔で、暖かい照明。
また、昔の記憶だ。
もう随分前のことなのに、いまだに鮮明に思い出す。
あの日失ったもの。家族、友人、故郷。
そして、自分が“何者でもなかった頃”の記憶。
「ふぃ〜……」
閃は小さく息を吐き、ベッドから起き上がった。
部屋の隅の鏡に、自分が映る。
淡い金髪に緑色の瞳。
上矢 閃——“雷のファクター”でありファクターズのリーダー。
机の上の“スマートカード”、通称スマカが光っている。
今日の予定が表示されていた。
『10:00 - 定期訓練』
『18:00 - エコー測定』
「…よっと」
閃は制服に袖を通し、てっぺんのアホ毛をつまんだ。
「よしっ、今日もいい感じっ♪」
部屋を出る前に、窓の外へ視線を向ける。
山間に広がる巨大施設——“オルフェ研究機関 日本支部”。
地下深くまで続くこの場所は、閃にとっての“家”になっていた。
静かで、どこか温かい。
閃はこの場所が好きだ。
昔は守れなかった。
でも、今はもう大丈夫。
今度は守れる。
この場所も、仲間も。
悪夢は故郷に置いてきた。
今日も、ファクターズとしての日々が始まる。




