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-Frost- 魔女領主の性悪令嬢と入れ替わったら異世界で王子様付き領主候補になった話  作者: わなな・BANI


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7/21

本物のお嬢様は容れ物が何でもお嬢様



 知世(ちせ)は上がる息を落ち着け、流れる汗を服の袖で拭った。

 屋敷中の魔術書を私室にかき集めたのである。相当な量が揃うまでかなり時間がかかった。

 でも休んではいられない。知世は立ったまま早速魔術書を読み始める。

 本に触って「セレスティアの経験」から中身がわかるものは放り投げ、中身のわからないものを探す。


 セレスティアの本気を感じ取った知世は、体を取り返されて消されないために対策を練ることにした。

 そのためにこの魔術書の山がどれくらい役に立つのかはわからない。それでも何か動かずにはいられなかった。

 さすがに魔術のこととなると、ロニに相談しても意味がない。屋敷の中でその相談ができるのは、この本たちだけなのだ。

 知世はがむしゃらにページをめくる。少しでもセレスティアのあの才能に、努力に、追いつかなければならない。


 知世は三日三晩眠らずに、昼は職務、夜は読書で時間を過ごした。あの夢以来、眠るのも怖いのだ。

 だがそんなやり方ではすぐにほころびができる。肉体の不調が知世の気力を弱らせ、つけこむ隙になってしまった。



 そこはすでに夢の中だった。弱り切った知世はふとした拍子に意識を失ってしまったのだ。

 周りは灰色のもやがかかり、足元には水が満ちている。不気味な空間から脱出するために知世は走った。

 その足元に魔法陣のような丸い輪が出現する。その輪は血のように赤く、そこに書かれた文字は漢字のようにも見えた。


 魔法じゃない、これは――――


 知世の意識はそこで途切れた。






「…来た!来た来た来たあぁぁぁぁぁ!!!!!」


 知世の体の中の「セレスティア」が、豊敷 知世(とよしき ちせ)の私室で叫んだ。

 あの夢で知世を脅して以来、セレスティアは霊力を高めるグッズを身に纏い、知世の隙をずっと伺っていたのだ。

 眠らずとも「知世」の状態をぼんやりと把握できるほどに高まった霊力を感じ、セレスティアはぐっと拳を握った。


「チセは衰弱して眠った。眠りの世界なら私たちの繋がりはさらに濃く強くなる。

 加えて今の、私の霊力の高まり…いける!タイミングはまだ早かったけど今しかない!!


 待って待って、まずは呪術陣の確認…よし!捧げもの…よし!

 術は完璧とは言えない…やっぱり、相互の転送は無理、一方向しかできそうにない…。

 霊力を高めるグッズは持っていけないけど、私の魂は元気そのもの…今のチセに負けるとは思えない…!

 あとは…呪術転送の際に死者の世界を経由することが不安ではあるけど…死者に魅入られたり引っ張られたりすれば、もう二度とどっちにも戻れないわ。

 リスクは避けられない…。ううん、ここは自分を信じぬかなきゃ。きっとそれが強さになる…!


 …体から放り出されたチセの魂はどうなるか…そこまで研究してる暇がなかったけど…。…あっ」


 知世が眠りから覚めようとしているのが感じられた。このままでは機を逃してしまう。


「………ええい、ままよっ…!」


 セレスティアは呪言を唱え始める。血で書いた呪術陣が力を帯びて部屋中に広がる。供物が青い炎で燃え始めた。

 そして――――


 知世の体は突然糸が切れたかのように力なく倒れた。






「来た来た来た来た来たあぁぁぁ私の世界~~~~~!!!!!」


 霊体となったセレスティアは見事死者の世界を通り抜け、知世の夢を介して元居た自分の世界、自分の部屋へ帰ってきた。

 目の前にはベッドの中で苦しそうにもがく知世の姿。

 セレスティアも胸が痛まないわけではない。自分の勝手でここまで巻き込んでしまったのだから。その自覚はある。

 でもそれでも、セレスティアは負けるわけにはいかなかった。どうしても叶えたい幸せの形があるのだ。

 迷いを振り払い、セレスティアは自分の体に強引に入ろうとした。


 ぼよよよよよよ~~~~ん。


 そんな音がしそうな勢いで、セレスティアの霊体が弾き飛ばされる。

 セレスティアはもう一度体に入ろうと試みる。同じように弾き返された。


「……何でよ……何でよ!!なんっでよぉぉぉぉ~~!!!!!」


「…アンタ、霊体でも声がうるさいってどうなってんの…レス嬢…」


 呆れたような声が部屋の扉の方から響く。そこにはいつの間にかロニが立っていて、こちらを見ていた。


「何よあんた!?ていうか誰?!」


「あたし?あたしはヴェロニカ。元メイド長で元アンタのお目付け役よ。よぼよぼだったのは昔のことだけどね!」


「は?!ロニ?!ロニなの?!…あんた、私の体に何したのよっ!!」


「大したことはしてないけど…、ただ、レス嬢が魂の移動がどうこう?をやったって話は聞いてたから、なら魂でこっち来るだろうし、弾き返せるようにしちゃおうかなと。

 相互うんちゃらだったらチセの魂も行っちゃうし、手も足も出なかったけど、ま、結果的に良かったわー。

 あ、方法だっけ?霊力よ霊力。教会のやつらの祈りと聖水の力で、霊や悪いまじないを寄せ付けない服を作ったの。

 チセにはあの夢以来、ずっとそういうのばっか着せてたのよー」


「……こ、こぉの有能メイドォォォ~~~~!!!!!!」


「お褒めにあずかり光栄」


「くっそしくじった…!そうか、こっちの世界にも「霊力」はあったんだ…!!わかってたのに見落とした…!!

 というか私を略すなら「ティア嬢」でしょ?!違う、そこじゃない!!!

 ロニ!!若返りの秘訣…!違う!それも知りたいけど今はそこじゃない!!!」


「なんでレス嬢を裏切るのか、でしょう?」


「そうよ!!もともと私の屋敷の人間なのに、どうして私の味方をしないの?!」


「だってチセの方が素直で言うこと聞くんだもの。扱いやすいから楽~」


「は?!そんなんであんた、私のこと裏切るっていうの…?!

 …おかしい、そんなのおかしい、おかしいに決まってる!ちょっと!今すぐ何とかしなさいよ!!これは命令よ!!」


 セレスティアが金切り声でそう告げても、ロニは余裕そうな態度を崩さなかった。少し哀れなものを見るような目つきでセレスティアを見つめる。


「…アンタ、そんな偉そうな態度取ってて大丈夫?アンタの姿、どんどん薄くなってきてるんだけど」


「えっ…」


「…まあ、当り前よね、肉体のない霊魂だもの。体がなけりゃ、そのうち消えちゃうんでしょうね」


 セレスティアの顔色が絶望に染まる。透き通る手で必死に霊魂の体を抱きしめながら、声の限り叫んだ。


「…いや、いやよそんなの、消えたくない…いやああああああああ!!!!!!!」


「…自分のやったことの結果だよ、人生はいつも博打なのさ…。受け入れな」




「………にん…ょう……」



 その弱々しい声に、ロニが即座に反応した。ベッドから落ちて息も絶え絶えな様子で、透けるセレスティアに手を伸ばしている。


「チセ…!」


 ロニは駆け寄り、知世の入るセレスティアの体を支えた。


「………本、で……読んだ…。…人形があれば、形代(かたしろ)の理論で仮の魂の宿り場を作って、それに降ろした魂は消えずに済む…はず…」


「チセ…、アンタ自分のもしものときのために調べていたことをどうして…」


 知世はロニにニッと笑ってみせた。


「…スカッと…しちゃったんだ…。セレスティアが私の長年の「敵」をこてんぱんにしちゃったって聞いて…。やっぱり、スカッとしちゃったの…。

 …私ね、セレスティアのしたこと、あまり咎められないの…。

 私だって、ずっとずっと逃げ出したかった…。何を捨てても、誰を犠牲にしても、方法があるなら、きっと…。

 でも私、そういう努力もしないで簡単に死に逃げようとしたんだよね。きっと何の覚悟もなかった…今もそう。


 …こんな形になってしまったけど、私、セレスティアの積極性に感謝してるの。

 彼女が私を生かしたの。だから……

 体を渡すことはできないけど、消えてほしくは…死んでほしくはないの…ロニ、お願い…!」


 ロニは厳しい表情で知世を見つめた。


「…アンタ、半端な覚悟でそんなこと言ってると、あっという間に後ろから刺されるよ」


「そうだね…、でもそれでも、今目の前で死んでほしくない…。

 私を弱いと笑う…?でも私は彼女を見捨てられない!!私と同じ弱さを、心に隠し持つセレスティアを…!」


 ロニはため息を吐くと、首をゆっくり左右に振った。お手上げのポーズである。


「…人形だね?チセ、アンタは魔術儀式の準備をして。できるかい?」


「ロニ…!ありがとう…!!」


「ヴェロニカとお呼び!!」


 そのやりとりを見ていた霊体のセレスティアは、肉体があったら涙を流していただろう。ぎゅっと消えそうな体を抱きしめる。

 セレスティアのそんな様子は、忙しく動き回り始めた二人には見ることはできなかった。








「やだ!やだやだやだやだやだ~~~~!!!!!!!」


 魔法陣の中では水色のぬいぐるみもどきが、寝転んでバタバタと短い手足をばたつかせていた。

 それを見て知世は歓声を上げる。ロニと共に魔術の成功を喜んだ。


「ちょっと!人が嫌がってんのに何喜んでんのよ!!!!

 こんなぬいぐるみが私じゃ嫌だっつってんのよ!!しかもこいつ、微妙にぶさいくじゃない?!」


「そんなことないよ、かわいいよ」


「信じない!!チセ、あんたの美的感性なんか信じない~~~~!!!!!」


 ぶうぶう文句を言うぬいぐるみをつまみ上げ、ロニは笑いながら頭を撫でる。


「あははは!アンタにはお似合いだよレス嬢!つべこべ言わずこの体で我慢しな!!」


「ちょっと!そのレス嬢ってのもやめてって!私を呼ぶならティア嬢よ~~!!!!」


 つままれたまま手足を暴れさせていたセレスティアが急に動きを止め、短い手で顔を覆い、しくしくと泣き真似をしだした。

 少し可哀そうに思った知世が、セレスティアをロニから受け取り、両手の中に収めて呼びかけた。


「ごめんね、時間がなかったから人形の選別までできなくって。

 でも儀式はうまくいったし、魔力もたっぷり込めたし、これからも込めるから心配しないで。

 それにこれは仮の体だから。これからどうしていくかは、またちゃんと考えていこう」


 知世の優しい声かけに、セレスティアは顔を上げた。そして一度だけ、こくり、と頷いた。

 あまりの素直さに、近くで見ていたロニが拍子抜けしたような顔をしていたが、知世は満足げにセレスティアに頷き返してみせた。



 セレスティアの仮の体の名前が決まる。命名「てぃあ」。

 こうして知世の異世界生活に、謎のしゃべるぬいぐるみもどきが仲間に加わることになった。








主な登場人物もどき


挿絵(By みてみん)



主な登場人物


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



もう本文は書きあげているのでこれから毎日アップ予定。

挿絵は間に合ったら&気が向いたらつけます。

もしよければこれからも読んでやってくださいませー。

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