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-Frost- 魔女領主の性悪令嬢と入れ替わったら異世界で王子様付き領主候補になった話  作者: わなな・BANI


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本物のお嬢様は世界を越えてもお嬢様




「……私の体を返せ!ニセモノめ…!」




 知世(ちせ)は自室のベッドの上で目を覚ます。ゆっくり身を起こすと、夢の内容を思い返す。

 今日は初めて、謎の声の内容がはっきり聞こえた。そしてその声は、知世もまだよく覚えていた。


「………セレスティア………」


 向こうの世界で何が起こっているんだろう、知世は胸騒ぎを覚えた。





 知世が令嬢ならぬ領主になって早三ヵ月、まだまだ慣れないことも多く、人々から時に厳しいご指導を賜りながら、忙しく暮らしていたある日。

 適度な休憩をきちんととるのも仕事のうち、とロニに教えられ、知世はお昼休みのティータイムが欠かさぬ日課になっていた。

 日の差し込むテラスで真っ白いテーブル席につき、紅茶をたしなむ時間は何よりも知世の心をホッとさせる。

 隣ではロニが静かに傅き、最高の紅茶とお茶菓子を提供してくれる。このときのロニは本当に凛々しく、美しい限りである。

 もうメイド長ではなく領主秘書なのだから、一緒に紅茶を飲んでくれてもいいのに、と知世は言っているのだが、本人曰くまだしっくりこないらしい。

 彼女の中で折り合いがつくまでは、お茶友女子会はお預けのようだ。それはそれで静かで悪くはないのだが。


 知世がティータイムにて何度目かのため息を吐き出すと、普段は一切話さず仕えてくれるロニが口を開いた。


「お疲れかい?」


「ううん………ねぇロニ、私最近夢を見るの…。

 今日初めてその声がはっきり聞こえたんだけど…、セレスティアの声だったの…」


「へぇ、お嬢の?お嬢は何て?」


「私の体を返せ……ニセモノめ…って」


 途端ロニは持っていたティーポットをガシャンとテーブルに置くと、横を向いて口を押えて笑い出した。


「あっははははは!!!お嬢、そうか、お前不幸になってたか!!!」


「……不幸、なのかな…?」


「不幸になってなきゃ体返せなんて言ってこないって!

 …あー、笑った。性悪令嬢にはお似合いの結末かー?」


「………体、奪い返しに来るのかな…」


「へぇ?来れるもんなのかね?

 チセのいた世界ってのは魔力はあるもんなのかい?」


「え?…な、ないけど…」


「ならあの自分のためになることには全力以上の力が出せるお嬢でも、無理なんじゃね?

 あの子が精通してるのは魔法、魔術の一分野。いくら勉強はできる方だからって、異世界で魔力もないんじゃ文字通り手も足も出ないでしょ」


「私もそうは思う。――――でも」


 知世は初めてセレスティアに会ったときのことを思い出す。

 対面したとき恐怖を覚えたほどの執念、自由への渇望。並大抵ではない思いがそこにはあったように思った。

 その彼女が、思い描いたような自由と幸福を手に入れられていなかったとするなら…簡単にはあきらめない、のではないだろうか。

 知世はまた、幾度目かのため息を吐き出す。


「…チセ。先代オルガナ様は薬学やそれにまつわる魔術の天才だった。

 この世界では「魔法」ってのは生まれ持つ素質であって、あんまり強い力じゃない。だからそれを生まれ持った人は、みんな魔術を磨くのさ。

 お嬢も同じ、自分の魔術を磨いて異世界への扉を開き、魔法陣を介して魂の入れ替えを成し遂げた大した「魔術師」だ。

 本人はオルガナ様に遠く及ばないと思っていたようだけどね」


 一旦言葉を区切り、ロニはテーブルに置いたポットを手に取ると、知世の空のティーカップに紅茶を注いでいく。


「…危険かもしれないと思うなら、本棚の上から二段目、背表紙に何も書かれていない赤と青の本の場所を三度入れ替えな。

 それでお嬢の秘密の蔵書が入った棚が出てくるはずだ。

 あたしゃちんぷんかんぷんだろうから読んだことないけど、アンタならわかるんじゃない?」


 確かに「セレスティアの経験」が上乗せされている知世なら、蔵書を読み解くことは可能だろう。

 知世は教えてくれたロニに礼を言うと、紅茶を飲み干し仕事に戻った。早く切り上げて私室で蔵書を読むために。





 『異世界相互転送の魔術』

 ――――表紙に何も書かれていない本の最初のページに、そう走り書きがあった。タイトルらしい。

 本に触れただけで「セレスティアの経験」から記憶が拾えるが、詳しい内容はよくわからない。

 知世はぱらぱらとページをめくって目を通していき、そして本を閉じた。


 字が汚い上に訳が分からない。


 読むことも理解することも一応可能だが、何が何にどう繋がるのかがしっくりこない。

 「セレスティアの経験」で理解はできても、天才の発想が知世の頭では組み立てられないようだ。

 知世は深呼吸した。そして思い切ってもう一度本を開く。

 そのページに書いてあった「魂の定着」、その単語が引っかかって難解な文字列を読み解いていく。


 曰く、魂の交換直後は気を付けた方がいい。魂が体に馴染んでいないうちは魂は何かのはずみで離脱しやすい。

 離脱後、自分の体ではない「入れ物」にきちんと戻れるかどうかは定かではない、らしい。


 知世がこの世界に来てから三ヵ月経つが、これが魂の定着に十分な時間なのかはわからない。

 本を片手で持つと、もう片手で軽く頬をつまみ、引っ張る。

 ――――もし今セレスティアの魂が現れたら、入れ替わられてしまう可能性があるのだろうか。

 弾き出された知世の魂はどうなるのだろう。頬を引っ張る手を離した。頬は元に戻った。



 知世は本を閉じると机に置き、備え付けられた椅子に座って頬杖をつく。

 ――――そういえば、元居た世界のことを思い出して、感傷に浸った覚えがない。

 忙しすぎて暇がなかったとも言えるが、そのぐらい忘れていたということだ。知世は目を閉じる。


 向こうの世界に置いてきたもの。

 何の話も聞いてくれず要求ばかりで、それらが叶わないと怒鳴る母親。

 面倒なのはわかるけれど、何の責任も果たさず家に帰ってこない父親。

 勉強勉強勉強の日々。学校と塾の先生。いたかどうかもあやしい友達。

 人に決められたレールだけの世界。それから逸脱できなかった、壊せなかった自分。


 思い返しても嫌なことばかりだ。でも、それで捨ててしまっていい世界だっただろうか。

 文明と化学にあふれた煌びやかな街並み。

 塾帰り、遠回りして寄った商店街のコロッケ屋のおばあちゃん。

 参考書と一緒に時々こっそり買っていたミステリー小説。

 そしてきっと望んで授かって、生まれたばかりのときには可愛がって、愛してくれていたのだと思う、両親。

 これから知世が、変えて行けたかもしれない未来――――それは捨てていいものだったのだろうか。


 知世は目を開け、窓の外の星々を見た。

 きっとこの思考は、あのとき死ななかったから、この世界で充実した思いを味わうことができたから考えることができた「余裕」だ。

 正直、こちらの世界の方が「生活」は大変だけど、「人生」は楽しむことができている。

 セレスティアに返せと言われたからと簡単に返せるものではなくなっている。


 ――――この生活を手放したくない、だけど…、その権利が私にはあるだろうか。



 堂々巡りで答えの出ない問いを抱え続けるのは疲れる。

 知世は手早く就寝準備をする。ベッドに転がると、胸のモヤモヤを抑え込むように丸くなりながら眠りに落ちた。






 この夢は、その心の隙が生み出したものかもしれない。



 知世は知世と向き合っていた。だが相対する「知世」の表情は、勝ち気で鼻息の荒そうな傲慢な顔つきだ。


「セレスティア…」


 知世の呟きに、ふふんと顎を逸らし、人を見下すような態度をとってみせる、知世の体の中の「セレスティア」。


「やぁっとはっきりお互いの姿も見えるようになったわね。言葉も交わせるようになったし、まずは順調かしら?

 久しぶりね、チセ。私の世界を私の体で過ごすのはどう?楽しんでいるかしら?」


「…そっちこそ、なんで連絡を取ろうと思ったの?私の世界で…何かあった?」


「何かあったも何もぉ!!!!」


 セレスティアが前のめりに知世に顔を近づけて大声を上げる。何となく察しはついた。


「どうもこうもないわ!見たこともない文明と科学の世界はすごく面白いけど、なんか人間が死んでる!!生きてるのに死んでる!!

 腐ってるって言った方がいいのかしら?楽しそうに生きてるやつが少ないのよ!特にあんたの親はひどい!!」


 思わず知世はプッと吹き出してしまった。予想通り過ぎて笑えた。


「ちょっと何笑ってんのよ!!あんたよくあんな親の元で生きてこれたわね!?うちのお母様以上にやりづらいったら!!

 ああもう、これじゃ何のために異世界相互転送なんてやったんだかわかりゃしない!やるんじゃなかった!!」


「…後悔、してるの?」


「してるわよ!思いっきりね!だから!!

 私、そっちの世界に帰るわ!そしてその体もあんたから取り戻すからそのつもりで!!」


「そう言われても…どうやってそれを成すつもりなの?

 そっちには魔力もないから、あなたの積み上げてきたものじゃ何もできないと思うけど」


「それよ!!それには本当に絶望したわ!!

 でも私、簡単にあきらめるような人間じゃないの!特に自分のしたいことについてはね!!

 だから探しに探しぬいて、肌で感じて見つけたの…!「魔力」に変わる、この世界にはびこる「力」をね…!」


 セレスティアは腰に片手を当て、もう片手を人差し指を立てた形にして解説を始めた。


「まず真っ先に調べたのは科学と化学。これは魔力とは全く違った力で、代用はできそうになかったわ。

 魔力とは生き物が生きる力そのもの。それを言葉や術、想いによって編み上げたものが魔法や魔術。

 この世界にもそういった、生きる力を糧にしている何かがあると思ったの。そして見つけた…!

 まず宗教から入って、それに紐づく想いの力…霊力を見つけたわ。

 そしてそれと似て非なる強い力…人を呪う力、呪力よ」


 知世は驚いた。この三ヵ月の間、セレスティアは本当にあきらめずに、知らない世界の知らない力を研究していたのだ。

 きっと、たった一人で。

 知世は自分とセレスティアとの才能と努力の差に眩暈がした。


「…特にこの国、あんたのいた「日本」は、霊力や呪力が強く働いている。

 それらのせいとしか考えられない未知の現象も多数報告されているわ。

 「神隠し」は特に異世界移行と関りがあるかもしれない。

 ネットを活用して少し調べただけでも、信憑性のある儀式的なものがたくさん出てきたわ。

 これらの情報の裏を取って、絶対に活用してみせる…!」


 言い切るセレスティアは自信に満ち溢れていた。羨ましいぐらい輝いていた。

 ――――こんな優秀な子なら、お母さんも認めてくれたのかな。

 ちくり、と知世の胸に痛みが走る。それに気づかないセレスティアはさらに続けた。


「あとはこの夢ね、あんたと私はまだお互いの体には中途半端な定着の仕方しかしていない。

 魂が自然に生まれ持った体に引き寄せられる力が働いている状態なの。

 だからこうして自然と混線し、結びつきが強くなるのよね。

 私が少し想いを紡げば、あなたが寝ていて自我が薄いときなら頭の中に入り込むこともできる。

 これは「霊力」に近いものだと私は思ってるわ」


 セレスティアは両手を腰に当て、再び顎を逸らし、フフンと声付きで知世を見下す。


「今はまだ魂の定着は不安定。早期に片付ければ、まだ私に体を取り戻すチャンスはあるわ…!」


「………すごいね、その執念もだけど、よくそこまで調べたね…。

 その時間はどうやって作ったの?勉強もせずにそんなことしてたら、お母さんに叫ばれて殴られるはずだけど」


 その話を聞いてセレスティアはきょとんとした顔をした。

 ぱちくりと瞬きすると、内容を理解したのか笑い声をあげながら手をひらひらと振ってみせた。


「母親ぁ?はっ、そんなもの初日に制覇したわよ。

 何しろ私がずっとこだわり続けてきた自分の産みの親じゃない、目の前にいるのはただの「他人」だからね。

 殴られたから殴り返してちょっと論破してやったら、この世のものじゃないもの見る目つきで「この顔」を見てたわよ」


 その報告に知世は目をまんまるにして驚いた。殴った?あの母親を?殴れるものだったの??


「それからは何だかリビングのくらーいところでブツブツ呟き続けるだけの何かになり下がったから、ほっといたわ。

 何て言うかあれも呪いの一種よね。使えるかどうか研究しようかしら。

 そういえばあんたの父親?ほんとにいるの?ってくらい帰ってこないんだけど。まあ好都合だからこっちもほっといてる。

 攻略してしまえば、なんか二人ともあんまり怖い敵ではなかったわね」


 知世はその言葉を頭の中で繰り返した。敵…敵…敵………。

 そう、知世にはどうあっても攻略できない「敵」だった二人だ。


「…セレスティアは私が長年抱えてきたしがらみを…敵を…文字通り吹っ飛ばしちゃったんだね…」


「そうよ悪い?」


「…ありがとう、というには複雑…」


「なぁによ~、別に喜ばなくてもいいけど。

 というかそっちこそどうよ?私のお母様曲者でしょー?手を焼いてるんじゃない?」


「…私がこっちに来た次の日に、亡くなったわ…。医者によると自然死、よ」


 それを聞いたセレスティアは初めはぽかんとしていたが、やがてじわじわとその表情は怒りに染まっていく。


「…何よそれ、それじゃ私、本当に何もしなくてもよかったんじゃない…!!

 信じられない!意地でもそっちに帰って、私の体を取り戻してやるわ!!」


 ブツン!!!


 怒りに任せたまま繋がりを切ったかのように、突然夢が真っ暗になった。

 知世は驚いて目を開ける。朝の光が窓から差し込む、そこは「セレスティア」の私室だった。

 身を起こし、額に手をやる。じっとりとした汗が感じられた。

 セレスティアは十二分に本気だ。対策を立てないと、この体は取り返され、そして知世は――――消えることになるのかもしれない。

 ぎゅっと握った拳の震えが止められない。冷たい汗がつぅ…と知世の頬を滑り落ちた。









挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



もう本文は書きあげているのでこれから毎日アップ予定。

挿絵は間に合ったら&気が向いたらつけます。

もしよければこれからも読んでやってくださいませー。

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