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-Frost- 魔女領主の性悪令嬢と入れ替わったら異世界で王子様付き領主候補になった話  作者: わなな・BANI


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おうちへ帰ろう 一緒に帰ろう


 知世(ちせ)豊敷邸(とよしきてい)を出てからずっと、涙が止まらなかった。

 イーニアスが心配そうに寄り添うが、これは大丈夫な涙だから、と知世は答えた。


「…私、…わたし…、ちゃんと望まれて生まれた命だった…。

 ずっとずっと欲しかったもの、ちゃんともらって生きてこれてた…。

 子供の頃の私、見たとき、わかった。わたしは、あいされてた…」


 安堵の涙だから大丈夫だと言う知世を、イーニアスは優しく抱きしめた。



 小さな子供のように泣く知世を抱きしめながら、イーニアスは空に向かって呟いた。


「…キルス、いるんだろう?出て来い」


 空間に切れ目が入る。真っ黒の裂け目からキルスが顔を出す。


「なかなか楽しめたようだな」


「ああ。…有意義な旅だった。帰るぞ」


「うむ、そろそろ潮時かの。掴まれ、チセを離すなよ」


 イーニアスは律義にカードをキルスに返してから、キルスに掴まり空間の切れ目に入った。



 そして一瞬で元の世界、マクファーレン家のエントランスに戻る。

 そこではセレスティアとロニが二人の帰りを待ちわびていた。


「イーニアスさっ…え、なに?向こうの恰好、めっちゃ似合うんだけど…?!」


「…そっちの泣きはらしてる黒髪は誰だい?まさかチセとか言わないだろうね?」


「あ、うん。そっちは本物のチセよ。私しばらくその体で向こうで生活してたもん」


「うわー、ちんちくりんの一般人だねぇ、庶民すぎて気に入ったよ、チセ」


 涙は止まったが、まだ鼻をすする知世の手を取り、ロニが楽しそうに外見の批評をする。

 知世が小さな声で「…ただいま」というと、セレスティアとロニは大きな声で「おかえり!」と返した。


 この外見でも、ここが帰る場所でいいんだ。知世はほっとして表情をほころばせた。




「さて…、チセの世界のお土産話を聞く前に、取り急ぎ私の本当の体をどうするかなんだけど…」


 セレスティアが深刻そうに問題を提起するが、ロニの笑い声がその空気をぶち壊す。


「ぎゃはは!お嬢ってば本体が余ってやんの!!だっさ!!」


「あんたっ…!だっさ、って何よ!?しょーがないでしょ、余ったもんは余っちゃったんだから!

 ちょっとキルス!暇そうに浮いてないで何とかしなさいよっ!!何とかしないと「お父様」って呼ぶわよ!!」


「ひー。それはこわいのだぁ~~~。こわいからなんとかしてあげよぉ~~。

 テンテケテーン、こちら一日の猶予で出来上がった、名付けて「ワンタッチ魂装置~~」」


 知世の脳裏に日本国民の誇る青狸が浮かぶような言い回しで、キルスは何かを取り出した。が、手には何も持っていない。

 一同がぽかんとしていると、キルスはその手を知世の胸の真ん中にポンと当てた。次いでセレスティアの胸の真ん中にも。


「ちょっと、気安く触らないでよ。というか何したの?」


「まあ耳の穴かっぽじってよーーく聞け娘よ。今二人の魂にある囲いをした。疑似的に魂が同一のものに見えるようになる囲いだ。

 囲いがされ、魂は取り出しやすくなっておる。定着と逆の原理だな。

 そして定着においては、魂が疑似的に「セレスティアであり知世でもある」状態になったことで、どちらの体もその魂を離さないよう働く。

 本来の体に魂が吸い寄せられる原理を利用してみたのだ。

 つまりどちらかの魂が入っている体には入れないが、空の体ならワンタッチで入れるようになっておる。

 これで人形の体も入れて三体、好きに使いまわせ、ということだ。これで業務にも支障は出んだろう」


「…待って、それってつまり、チセが私の本体に入って、今まで通り領主の仕事をすることもできるけど、私がチセの本体に入ることもできるってこと?」


「まあ結果的にそうなってしまったな。入りたければ入れば良いのではないか?

 ああ、そうそう、人形の体に入るときは注意が必要だぞ。

 体から魂が引っ張られない分、転がり出やすくなっておるからの。ぽろん、といかんようにな」


「え?なんかめんどくさいことになってる?

 でもまあ…、私の本体をほっとくわけにもいかないし、領主仕事はチセに任せたいし、人形の体も気に入ってるし…。

 …よし、いろいろ入れ替わって遊べばいっかぁ!!」


「そうそう、遊べばいいのだ!楽しいこと万歳!!」


 知世はげんなりしながら、セレスティアとキルスの話を聞いていた。

 良くない。人の体をとっかえひっかえ、一体なんだと思っているのだ。


 確かに領主仕事をするために、セレスティアの外見は必要だ。いきなり領主が知世の外見になったら、町民も国も困惑する。

 セレスティア本人に領主仕事をさせる手もあるが、正直彼女の、好きなことにしか力を発揮できないところをみると、少し難しい気もする。

 セレスティアは自分の外見にこだわりはなく、むしろ茶髪の人形の外見の方が気に入っているように見える。彼女の母親似だからだろうか。


 そういうことを考えると、確かにワンタッチシステムでやっていくのがいいようにも思えるが、あの二人には倫理観とかそういうものはないのだろうか。

 知世が難しい顔で考えていると、盛り上がっていたキルスが、イーニアスに向かってとんでもない発言をする。


「そうだ第三王子よ、そなたにもチセの入れ替わりは朗報なのだぞ。

 昼はセレスティアの体で領主仕事、夜はチセの本体で過ごして、そなたと夜の営みもできるわけだからの。

 そなた、黒髪のチセの方が気に入っておるだろう。やはり抱くなら好きな方でないとな。ほっほっほ」


「…!」


「待って!ニア、なんで「そういうことか!」みたいな顔してるの!?

 キルス!そういう話じゃないでしょ?!ほんとにあなたの倫理観どうなってるの?!」


「儂に人間の規範など求めるなー。世の中なんぞクソくらえーぃ」


「ええいこの、クレイジーマジシャンクソジジイ!!!」


 知世が恥ずかしさのあまり叫ぶと、セレスティアからさらに大きな絶叫が放たれる。


「…あんたたちっ!いつの間にそんなに仲進展したのっ…!!!

 え、もう営みとか言っちゃう段階?!ええええええずるぅいいいいい~~~~!!!!!

 私より先にチセの方が旦那ゲットするなんてぇ~~~!!!!!」


 セレスティアはぺたんと床に座ると、子供の用にビエェェと泣き出した。

 その隣で同じ格好になったロニが、床に伏せてオイオイと泣く。


「…ふ、二人ともそこまで泣かなくても…」


「泣かずにいられないわよっ!!だってあんたの方が私の叶えたかった幸せに近づいたってことだもの!!」


「右に同じっ!!!」


「…ふ、二人の夢は、結婚することなの…?」


「………ちょっと違うかも」


「………右に同じ」


 セレスティアとロニは横を向いて目を合わせた。まずはセレスティアが理想を語る。


「私は…、結婚っていうか、家族…が夢なの。

 本当は家族であるお母様と、お庭を一緒にお散歩するのが夢だったんだけど、それは年々叶わない願いだってわかったから…」


「…だから、自分が選ぶ新しい家族で、その夢を実現する…。ティアの結婚は、そのためなんだね」


「うん…。こんな夢、バカにされるかと思ってたけど」


「しないよ…だってその夢、私と一緒だもん。どっかで聞いた話だなって思っちゃった」


 知世はイーニアスを見ながら笑った。イーニアスも思い出していたらしく、楽しげに笑っている。


「…なによ、そういう話を向こうの世界でしてきたのー?クッソ羨ましくなんかないんだからね」


 ベッと舌を出し、セレスティアはそっぽを向いて拗ねた。知世はロニにも尋ねた。


「ロニは?せっかく若く美しくなったんだから、きっと大きな夢が…」


「酒池肉林!!そして性欲の宴!!!ついでに結婚!」


「…それ、結婚生活向かないと思うよ…」


「向かせるんだよ!絶倫で貴族の男を旦那にすれば万事解決!!

 …でも、活きが良くていい男って、そうそういないんだよねぇ…」


 ロニは立ち上がると、大きくため息を吐き出した。セレスティアも次いで立ち上がり、同じくため息を吐き出す。

 そのセレスティアの肩を、宙に浮くキルスがちょんちょんとつつく。セレスティアが振り向くと、キルスは自分を指さして言った。


「父親、父親、まだ生きてる」


「…ああ、家族がまだ残ってるって言いたいの?

 正直「お父様」って呼んだこともない男に家族を名乗られるのは、心外以外の何ものでもないんだけど?」


「儂も「お父様お散歩しましょう」とか言われたらトリハダ」


「だったらおとなしく浮いててよ。余計なツッコミ入れないで。今家族だけで会議中だから」


「氷のように冷たい女」


「お望みなら不老不死の氷漬け、一瞬で作れるけど?」


「こわ~~~いっ、おいとまっ!」


 キルスは空間に裂け目を作り、一気にその中に入って消えてしまった。登場も退場も唐突な男である。


「さて…家族で会議の続きだけど…」


 セレスティアが咳払いをする。そしておもむろにビッと人差し指を立てて、宣言した。


「屋敷内での不純異性交遊禁止!!!」


「………お嬢、いくら悔しいからって、それは法案がせせこましい…」


「ロニうるさい!!とにかく!!私の目の届く範囲でイチャイチャすんなよお前らぁっ!!!」


 喚き散らすセレスティアを前に、イーニアスが挙手して発言許可を待つ。どこまでも真面目さんだ。


「はいっ!イーニアス様っ!!」


「それは未来永劫的なお約束なのでしょうか?それだとさすがに困るのですが」


「何が困るのだね言ってごらん!!」


「私はいずれ王位継承権を捨てて、チセに婿入りする予定だからです!

 まだ返事はもらえてませんが、完全にこちらに来てからも交遊禁止だと、さすがに困ります!」


「んはぁっ!!もうプロポーズ済みとか、向こうで何があった?!

 こうなったら断固禁止にしてやるんだからねちっきしょぉぉ~~~~!!!!!」



 わいわい盛り上がる「新しい家族たち」を前に、ツッコミどころは多かったが知世はいったん深呼吸をして落ち着いた。

 これから始まる新しい毎日も、全く退屈せずに済みそうである。


 知世は手の中にある幸せを、決してぞんざいに扱わないと、見送ってくれた父と母に誓った。

 そして揉め事の輪の中へ自分の意志で入る。もちろん本音を包み隠さず伝えるために。

 伝え合う、話し合う、折り合いをつけ合う、ができる「家族」になるために。



「はい!決定権は領主をやる私にあると思うんですが、皆さんどうでしょうか~?!

 異議なしね!!じゃあ、とりあえず皆でご飯食べてからにします!!!

 食べながら話し合おう、みんなで!!!食は万人をしあわせにする、古からの魔法だから!」




fin







挿絵(By みてみん)



最後までお読みいただき、ありがとうございました!

少しでも楽しんでもらえてたら幸いです。

いずれサイドストーリーとか書くかもしれませんが、予定は未定です。

毎日更新は大変でした!でも一喜一憂して楽しかった!!

またお会い出来たら嬉しいです!

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