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-Frost- 魔女領主の性悪令嬢と入れ替わったら異世界で王子様付き領主候補になった話  作者: わなな・BANI


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20/21

元凶との対決、迎える結末



「ごめんねニア…、私の希望ばかり叶える形で付き合ってもらっちゃって…」


「かまいません。それにきっと…これからの話し合いは、チセにとってとても大切なことですから…」



 時刻は夕方、知世(ちせ)は久しぶりの自宅の前にいた。

 こちらにいたときの荷物はセレスティアがここにいたときに使っていたとは思うが、今は手元にない。家の鍵もだ。

 だから知世は、昔覚えさせられた母親の携帯番号にショートメッセージを飛ばすことにした。

 震える手でスマホを持ち、一文字一文字ゆっくり書き進め、送信する。返事は意外にもすぐに来た。


「鍵を開けて待ってる。帰っておいで」


 何の感情も伺えない、それだけのメッセージだったが、身構えていた知世にはありがたかった。

 知世とイーニアスはタクシーを呼び、つい先程知世の自宅前に着いた。


 これから…、母親と最後の対決をする…。


 話し合いという言葉は知世の頭には浮かんでこなかった。これは最後に勝敗が決まる、対決なのである。

 知世は隣に立つイーニアスに向かって頷いて見せると、玄関のドアを開けた。



 家の中に灯りはついていなかった。薄暗い室内、リビングの方でぼうっと光る何かだけが見える。母親はそれの前に座っていた。

 こちらに背を向けて座っているので、何をしているのか近づかないとわからない。

 知世は意を決し、靴を脱いでから上がるようにイーニアスに告げてから、自分も靴を脱いで家に上がった。


「…………………ただいま…」


 知世は母親に声を掛けた。だが言葉の途中で母親の笑い声が重なった。

 あの人が笑っている。知世は軽く衝撃を受けた。ここ何年も、母親の笑う声なんて聞いたことがなかった気がする。


 知世は光るものの正体を確かめた。パソコンの画面だった。そこには一~二歳の幼児が楽しそうに動き回る様子が映し出されている。

 その幼児が画面内で笑うたび、母親は嬉しそうにフフフと笑う。

 画面の中にいるのは、おそらく知世なのだろう。こんな映像が残っていること自体知らなかったが。



「………「世界を知る」なんて名前、つけるんじゃなかった…」


 画面から目を離さないまま、ぽつりと母親がこぼす。知世は何も返せず、黙って聞いていた。


「…だから私から離れていっちゃうのよ…。私を大事にしてくれないのよ…、知世は。

 ずっとずっと私のそばにいてくれるような、そんな名前にすればよかった…。

 そうね…「雛」だったら、ずっと雛のまま、私のそばにいてくれたかしら…。

 ずっといい子で、私の言うことをちゃんと守って、いつまでもしあわせに暮らせていたんじゃないかしら…」


 母親の独り言のような言葉が続く。でもこれは現実の知世に向けて話している。知世にはそう感じられた。

 知世は声が震えないよう気を付けながら、母親の問いに返す。


「…私が「雛」だったら、ずっと一緒でいつまでもしあわせなのは、お母さんだけだよ。

 …ううん、お母さんだって気づいてるはず。ずっと一緒でも、私たちはしあわせになれなかった。

 私たちは、お互いのしあわせについて、ちゃんと向き合ってちゃんと話し合うべきだった。

 そしたら…ちゃんとしあわせになれる道を、二人で探せたのに…」


「探す気なんてないくせに…、わかったようなことを言って…。

 あなたもお父さんと同じよ。私を置いて、自分のしあわせだけ探しに行ってしまう…。

 皆に置いて行かれる…、私はずっと一人…」


「私だってずっと一人だった…!ずっと寂しくて辛かった!

 お母さんはどんどんおかしくなっちゃうし、お父さんは帰ってこないし、誰も頼れないから毎日お母さんの言うことだけ聞いて…!

 ほんと毎日毎日死にたかった…!」


 知世の目から涙が溢れ、画面内の笑顔の知世がぼやける。私たちのしあわせは、どこで間違ったんだろう。


「…私ね、死のうとしてた日に救われたの。正しくは利用されて引っ張り込まれたんだけど…。

 …こことは違う世界を、たくさん見てきた。たくさんの苦労と、たくさんの楽しいことに出会った。

 私が生きられる世界を見つけたの…。だから、お母さんのところへは、もう帰ってこない」


「私を捨てるのね…、親不孝者…」


「…そうなるように仕向けたのは、お母さんだよ」


 母親が初めて知世の方へ振り向いた。静かな眼をしているが、その奥に言いようのない怒りが潜んでいることを知世は知っている。

 ヒステリーが来るか…、知世は身構えた。その背にイーニアスが優しく手を当てる。何があっても守るというように。



 母親が何か言おうと口を開いたとき、玄関のドアが開く音がした。知世も母親もびくりと身を竦ませる。

 この家に帰ってくるもの…知世と母親を除けば、あとは一人しかいない。


「…ただいま…、うぉ…?」


 電気をつけながら父親がリビングに入ってきた。イーニアスがいることに少し驚いたようだ。

 知世は久しぶりに父親の姿を見た。まさか帰ってくるなんて思っていなかった。言葉が咄嗟に出てこない。


「…………なんで……」


 母親がかろうじてそれだけ絞り出す。彼女も相当に驚いているようだった。

 父親は鞄を置き、スーツの上着を脱いで椅子にかけると、母親の座るダイニングテーブルの席に着いた。


「…知世が起きたと病院から連絡があった。…なんか、いろいろあったことも聞いた…。

 ………その、何となく予感がしてな…。今を逃したら知世には会えなくなる予感が…」


 言葉が途切れる。痛いくらいの静寂がリビングに漂う。知世は唇を噛み、拳をぎゅっと握った。


「…………………すまなかった………、母さん、知世…」


 父親が謝罪の言葉を口にした。途端母親の怒りが爆発する。


「…今更……いまさらぁぁっ!!!そんなっ…そんな言葉で、済ませられると思ってるのっ?!

 私がどれだけ辛かったか、私がどれだけ寂しかったか、私がどれだけ…どれだけ…!!!」


 母親が立ち上がり、座っている父親をめちゃくちゃに叩く。父親は立ち上がると、叩こうとする手を止め、母親を抱きしめた。

 母親は一瞬の硬直のあと、堰を切ったように泣き始めた。父親が辛そうな顔をしながら、知世に語り掛ける。


「知世…、すまなかった。…こんな言葉が受け入れられるとは思っていない。

 でも…、それでももし、お前が父さんを信じてくれるなら…、母さんのことは任せなさい、大丈夫だ…。

 お前が背負うのは、お前のことだけでいい…。これから先、背負うものを増やすかは…自分で決めなさい。

 ………父さんのように、逃げ回らないようにな…」


 父親は、ずっと知世の背に手を当てているイーニアスを見た。目だけでわかるものがあったのだろう、父親は小さく頭を下げる。


「…知世を…、頼みます」


 イーニアスは言葉はわからないはずだが、雰囲気を読み取ったのか、それにこくりと頷いて返した。

 これで最後になる、知世は抱きしめ合う父と母に歩み寄り、ぎこちない手つきで両手を広げ、二人を抱擁した。


「………ありがとうは、言えない…。でも、さよならも違う…。

 だから…、…じゃあね、……元気で」


「……知世…、私の知世……」


「堪えなさい美和(みわ)…、知世は世界を知りに行くんだ…。

 決して、これで終わりじゃない…」


 知世は二人から離れた。そしてイーニアスが差し出した手を取る。

 二人は振り返らず、豊敷邸(とよしきてい)を後にした。



 外は真っ暗になっていたが、空には明るい星が瞬いていた。いくつも、いくつも。








主な登場人物


挿絵(By みてみん)

知世・イーニアス


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



今週の金曜日(2025/11/21)アップの最終話は、夜(22時頃)に更新予定です~。

毎日アップにお付き合いくださりありがとうございます!

最終話までどうぞよろしくお願いします~。

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