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-Frost- 魔女領主の性悪令嬢と入れ替わったら異世界で王子様付き領主候補になった話  作者: わなな・BANI


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18/21

服買って飯食ってイチャイチャして…それってデートやん


 近辺の蕎麦屋は皆店構えが小さく、カードが使えない店が多かった。

 少し高級店になってしまうが、知世(ちせ)は通りで一番大きい蕎麦屋に決めた。

 だいぶ値も張るが、そこはキルス様の魔法のカードにお力をお借りする。知世はイーニアスと店内に入った。


「…わぁ…!」


 店に入る前からだいぶキョロキョロしていたイーニアスから歓声が上がる。

 店内に入ってからはイーニアスはもっとはっきり辺りを見回し始めた。

 さっきのデパートとは違い、和の照明や飾りが美しい店内は、彼にとってはまた異世界の扉を開けたかのように思えたかもしれない。

 そんな外国人丸出しな行動をする彼にも眉一つ動かさない、凛とした美しさを持つ和装の店員たちの、綺麗なお辞儀のお出迎え。

 イーニアスから感嘆のため息が漏れる。この国独特の美しさに、彼も心を打たれたようだった。


 通された席は、運よく中庭が見えるところだった。

 大きな苔むした庭石の周りを美しい砂紋が流れる、枯山水庭園を模した庭だった。

 イーニアスはそれを、飽きることなく眺めている。よほど気に入ったのだろう、知世が注文用のメニューを広げても、なかなか庭から目を離さなかった。


「ニア、メニューの説明をするからこっちを向いて」


「……うん、…ん?いや、チセと同じものでいいです」


「…天ぷらの乗ったあったかいお蕎麦頼んじゃおうと思うけど…食べれる?」


「テンプラ…、わからない、食べてみます。

 それよりチセ、この不思議な庭?の説明をしてほしいのですが」


「く、詳しくないんだけど…スマホで調べていい?」


「?…その板で何かわかるなら……、うわ!似たような庭の絵がたくさん…!」


 知世はイーニアスにスマホの画面を見せながら、枯山水庭園の説明をする。イーニアスは真剣に知世の声に耳を傾けていた。


「侘び寂びの世界…。慎ましく質素なものや、古さや衰えに美しさを見出す…、なるほど…。

 この庭を見ていると、とても静かで洗練された気持ちになれる気がして…、こういう美しさは、好きです」


 知世はそれににっこり笑い返すつもりだったが、先に腹の虫が返事をした。

 真っ赤になった知世はスマホを机に置き、メニューで顔を隠す。イーニアスが笑い出した。


「すみません、お昼ご飯をいただきましょう。

 どんなものが食べられるのか本当に楽しみです」


 知世は咳ばらいを一つすると、努めて冷静に店員を呼んだ。注文は天ぷら蕎麦(上)二つ。大きな海老天の乗ったものだ。

 注文が済むと、イーニアスはまた庭を眺め始めた。知世もそれに倣い、一緒に砂紋の流れを辿る。

 静かに、ゆったり流れる時間が心地よかった。




 思ったより注文の品は来るのが速かった。湯気の立つ温かい汁の中の蕎麦、そしてその上の豪華な天ぷらたち。

 久々の和食のご馳走を目の前にして、知世の心は逸った。しかしいただきますと言って箸を手に取ったところで気づく。


 イーニアスが不思議そうに知世の真似をして箸を握っている。それが何なのかわからず、箸と知世を交互に見ている。

 ここでお箸使用講座を開いて、彼はマスターできるだろうか?マスターできる頃には二人の蕎麦はのびきっていないか?


 とても、とても困った。知世がどうしようか悩んでいると、店員が一人近づいてきて、にっこり微笑みながらイーニアスに銀色のフォークを差し出した。

 さすがの心遣いに知世は感動し、店員にお礼を言った後、イーニアスにフォークを使うよう勧めた。


「上の天ぷらはフォークで刺して食べて…、お蕎麦はくるくるって巻いて…、そうそう、上手上手」


「パスタのように食べられるのですね。なるほど、では…」


 イーニアスはフォークに巻いた蕎麦を口に運んだ。知世は彼の感想を待つ。


「…おいしい!なんだろうこの味は…、食べたことがない部類の味がする…。温かい汁の味ともよく合う…」


「天ぷらも!天ぷらも食べてみて!海老の大きいの!」


「………おいしい!!さくさくとぷりぷりの食感が絶妙だ…!これも汁の味とすごく合う…!」


 知世は自分の好物をイーニアスが気に入ってくれたことがとても嬉しかった。

 興奮しながらも上品に食べすすめるイーニアスを見習い、知世も久々の天ぷら蕎麦をゆっくり味わった。




「ニア、手を合わせて…そうそう、で、「ごちそうさま」っていうの。

 これはこの国のご飯をいただいた後の言葉。食事を用意してくれた人と、いただいた命に感謝する言葉なの」


「良い風習ですね…、「ゴチソウサマ」ですか…。発音は合っていますか?」


「うん、じゃあ一緒に」


 二人で揃って、完食した蕎麦の器を前に、ごちそうさまを言う。そして二人同時に笑い出す。

 大満足の和やかな昼食だった。知世は満たされた気持ちで席を立つ。

 イーニアスはフォークを差し出してくれた店員の肩を叩き、「ありがとう」と異世界語で伝えた。知世が訳すと店員はきれいな笑顔で応えてくれた。


 お会計は服のときと同じようにイーニアスに頼んだ。暗証番号の打ち込みを見届けてから、知世はお手洗いに行った。

 イーニアスには先に店の外に出て待っているようにお願いした。知世はお手洗いでもふと気づく。


 彼に「お手洗い」の使い方を教えるときはどうすればいいんだろう…?


 まさか知世がついて行くわけにもいかない。誰かに頼むのもおかしい。とても困った。

 そんなことを考えながら店の外に出る。直接そのことについてイーニアスと話すしかない、そう思って彼を探す。




 そして見つけた彼は、今まさに殴られるところだった。


 三人の見るからに怪しそうな人たちに囲まれたイーニアスは、一人に胸倉を掴まれ左手のパンチをお見舞いされる寸前だった。

 知世が止めようと駆け出すが間に合わず、チンピラのパンチはイーニアスに余裕で躱され、彼の反撃のカウンターパンチがチンピラの顔にめり込んだ。

 三人はイーニアスに罵声を浴びせながら距離をとると、パンチを食らった男が懐から折り畳み式のフォールディングナイフを取り出した。通りすがりの人たちから悲鳴が上がる。


 イーニアスはとても冷静だった。三人との間合いをはかりながら場所を移動し、知世から遠ざかる。

 そして隙を見て走りこんだ先は、蕎麦屋の隣のコンビニ。そのまま中に入るのかと思いきや、のぼり旗の前で止まる。

 台座からのぼり旗を引き抜くと、旗と上の金具を強引に引きはがし、一本の棒だけを手に取る。


 その棒がチンピラたちに向かって構えられて皆が気づく。それが武器であると。

 そして知世はさらに気づく。彼は王立騎士団の騎馬隊の兵士だ。多分槍の代わりに棒を使おうとしている。



 …止めないと、下手をしたら死人が出る…!



 知世は青ざめた。イーニアスにこの世界の人間を殺させてはならない。その思いが知世の体を動かした。


 三人のチンピラのうち一人の、お尻のポケットに入っているスマホに目をつける。知世はダッシュしてそれを引き抜いた。

 持ち主が振り返ると同時に、そのスマホを遥か彼方に放り投げる。これで一人は戦力を削れる。

 他二人のうちナイフ持ちが事態に気付いて振り返るが、知世が脇をすり抜ける方が速かった。

 知世はそのままイーニアスに向かって走ろうとするが、三人目の動きが素早かった。知世の髪が掴まれかける。


 しかしその手が知世の髪を掴むより早く、イーニアスの一撃が放たれる。手は棒によって跳ね上げられた。

 男は手を抑えてうずくまる。知世はイーニアスに向かって猛然とダッシュしながら叫んだ。


「ニア!!だめぇぇぇ~~~~~~!!!!!!」


 その叫びと同時にイーニアスの二撃目の突きが放たれた。

 知世の顔の横を鋭く重い衝撃が通り過ぎる。後ろで知世に飛び掛かろうとしていたナイフ持ちが、文字通り吹っ飛んだ。

 地面を何度も転がり、ようやく止まった元ナイフ持ちは、ぴくりとも動かなかった。

 投げられたスマホを回収してきた男は、場の惨状に間抜けな声を出すことしかできず、すでに戦意喪失状態だった。


 …やってしまった…。


 知世が呆然と立ち尽くしていると、パシャッというシャッター音が、そこかしこから連続で聞こえてきた。

 ぎょっとして振り返ると、スマホを構えて動画を撮影しているものもいた。まずい、ここから離れないと。


「ニア!動画撮影されてる、ここから逃げないと…!!」


「…逃げる?なぜ?」


「証拠として提出されて、捕まっちゃう!警察に!!」


「…ケイサツ?」


「あ、うーんと、王立騎士団!!取り締まられる!!喧嘩両成敗!!」


「…それはまずい!逃げましょう、知世!!」


 事態を把握したイーニアスは、棒だけになったのぼり旗を、ご丁寧にコンビニの土台に突き刺してきた。

 そして吹っ飛ばした元ナイフ持ちに駆け寄ると、息があることを確かめてから知世に手を伸ばす。

 知世はその手を取り、イーニアスとざわつく大通りを駆け出した。








主な登場人物


挿絵(By みてみん)

知世・イーニアス



今週の金曜日(2025/11/21)に完結の予定です~。

毎日アップにお付き合いくださりありがとうございます!

最終話までどうぞよろしくお願いします~。

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