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秘密のアトリエ

初めてのお茶会から二年。あの日に出会ったレネとは今でも交流が続いていて、よくお互いの家で遊んでいる。妹のクラリスもレネには懐いたようだった。……たまに揶揄われて慌てるレネも見るけど。それはクラリスなりの愛情表現だろう。


「あの、ユフィリア様」

「なぁに?レネ」


 そう、今日も今日とてレネに会っているのだ。会場はレネのお家でティーパーティー。別に大勢を招待した大々的なものじゃなく、個人的なもので特に作法とかも気にせずにお茶とお菓子を楽しみながらおしゃべりしたり、時によっては本が好きな私の為に図書室で本を読む時間にしてくれたり。私としてはレネの好きなお絵かきにも付き合いたいのだが、レネは私に……というか誰かに絵を見せるのが恥ずかしいらしく、出会った日に偶然見てしまって以来は一度も見せてくれていないないのだ。


「あの、きょ、今日は、一緒に行きたいところが……あって」

「行きたいところ?クレイバーグ家の敷地の外じゃなければ大丈夫だけど……」

「は、はい! それは大丈夫です!」

「それなら、案内してくれる?」


 何故だかレネが異様に緊張した様子で私を誘った。最初の頃は置いておいて、最近では割とかしこまらないで話をしてくれていたからここまでガチガチなのは珍しい。


「こ、こっちです」


レネの先導でたどり着いたのは、出会った庭園とは真逆に位置する裏庭……さらにそこから奥に進んで森の中に入るらしい。


「あの、い、嫌じゃなければ手を。この先は足場が悪いので」

「うん。ありがとう、レネ」


 素直にレネと手を繋いだ。森の中をお茶会用のストラップシューズで歩くのは流石に前世である程度森を歩く経験……というか、遠足だったから山を登る経験をしていても厳しい。ラノベとかでドレスのまんま森の中ダッシュするヒロインとかどうなってんの? どう考えても無理でしょ。


「って、わ!」

「え、ユフィリア様!?」


 と、考えていたら早々に木の根に足を取られた。


「危ない!」


 手を繋いでいたからレネまで巻き込んで転んでしまった……わけではなく、レネが手を引いてくれたからギリギリセーフだった。危ない。


「大丈夫ですか!? ユフィリア様!」

「うん! レネのおかげだよ!」


 そうお礼を伝えると、レネは安心したように溜息をつく。


「お怪我がなくて良かったです」


 いや~、ホント出会った時も図書室で椅子から落ちてレネの上に乗っちゃったのにまた同じことを繰り返さなくてよかった。森の中と図書室では比べ物にならない程危ないし。


「もう少し奥なんですけど……歩けますか?」

「大丈夫、歩けるよ!」


 その後も、私の長い髪が枝に引っかかったり、ぬかるみを踏んでドレスに泥がかかってしまいレネが物凄く謝ってきたりしながら進んでいった。……お世辞にも順調に進んでいったとは言えない。


「着きました……、ここが目的地です」


 レネが立ち止まったのは森の奥。滅多に人が来ないであろうそこには、小さな木造の小屋があった。


「すごい! よくこんな所見つけたね。レネの隠れ家?」

「はい……、そ、そんな感じ……です。えっと、今鍵を開けますね……?」


 扉の鍵を開けるレネの背中を見つめていたら、レネがこちらを振り返った。何かあったのかと小首をかしげると、覚悟を決めたようにレネは扉を開いて中に入る。私も入っていいのかと、その後ろに続くと、そこにあったのは──


「うわぁ……!」


 白紙のキャンパスに絵の具、スケッチブックや色鉛筆と……たくさんの綺麗な絵だった。前に見た時よりもずっと上手になっているが確かに二年前、一度だけ見たレネの絵だ。


「すごい! これ、全部レネの絵でしょ? ……レネの世界だ!」

「あ、ありがとうございます……。ユフィリア様が初めてなんです、ここを見せたの。ガイ兄上にバレたら壊されてしまいいそうで……」


 私の自惚れじゃなければ、「見せてよかった」と言われているのだと思う。レネの心の柔らかい部分を、素を見せてもらったようで嬉しい。


「もっと他の絵も見ていい?」

「ど、どうぞ」


 決して広くはない、けれどとても居心地がいい場所だ。ゆっくりと歩いて飾ってある絵を眺めていると、一つの絵が目に留まった。金髪に、緑の瞳……これは。


「勘違いだったら恥ずかしいんだけど……これ、私?」

「え……!? あ、カバー、忘れ!! すみません! こんな、勝手なことを……」

「責めたいわけじゃないよ。ただ、すごい可愛くに描いてくれてるから、レネから私はこんな風に見えてるんだなって」

「……ユフィリア様は、とてもその……お綺麗、ですから」

「ふふっ、ありがとう」


 うん、ありがたいよ。それは本当なんだけどね……なんか女神さまのごとく美化されてない?? 私こんなに可愛い顔してレネと接してた!? いやさ、ユフィの顔は確かに前世の私とは比べ物にならないくらい可愛いけどさ! なんかこう、眩しいというか。うん、やっぱ私の顔した「女神様」っていう別人に見えてくるよ!


「もしかして、他にも私の絵ってあるの?」


 そう尋ねてみたら、レネは顔を真っ赤にして頷いた。え、この「女神ユフィ」シリーズ(私命名)他にもあるの?

 レネが歩いて行った先には何枚もカバーがかけられたキャンパスが立てかけてあって、壁には額縁に入った、スケッチブックを切り取ったらしい絵も飾られている。


「これ、カバー外してもいいの?」

「は、はい……」


一枚一枚慎重にカバーを外していくと、そこに描かれているのは全部私だった。本を読んでたり、お菓子を食べてたり、構図は様々だが全て笑った表情だ。中でも一際大きなキャンパスに描かれて、アトリエの一番奥にしまい込まれていたのがこちらに向かって手を差し出している構図の絵だ。


「出会った時の、私……?」


どんなドレスを着てであったのかとかはもうはっきり覚えていないが、こんな感じの緑のドレスだった気がする。それに背景は先程までレネとティーパーティーをしていた庭園だ。レネと出会ったのもあそこだったし、多分あの日にレネの瞳に映った私だろう。


「僕には……こういう風に、見えたんです」


絵の中の私(というか女神様)は凄くキラキラした笑顔で笑っている。あの日の私はこんな表情だったのか? なんかとんでもなく美化されてる気がする。いや、間違いなくされてる。他の絵もそうだったけど。やっぱ、全体的に私ってより「女神様」だよ!


「レネの目にはこう映ってたんだ……なんだか恥ずかしいな」


うんまあ、こんな絵描かれたら照れるよね。でもそれは決して悪感情ではない。私としては当たり前のことをしたのにここまで美化されていて少し……結構、恥ずかしい。けれど、同時にレネはこんなにきれいに私を見てくれているのだと思うと嬉しくて、誇らしい気持ちになる。……やっぱり、美化しすぎだとも思うのだけど、そこはまあ作者の理想を詰めるもんだよね! 作品は! と思っておくことにする。


「……ここは、レネの【秘密のアトリエ】だね」


うん、話を逸らす! これ以上この話をしていたら顔から火が出そうだ! レネも恥ずかしそうだしちょうどいいでしょ。そうだよね! ね??

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