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スケッチブックを探せ!

「じゃあ、図書室の近くで、レネのお兄さんが何かを抱えているのを見たのね?」

「はい……」

「手がかり見つかったね! この家の図書室に司書さんとかいる?」

「し、司書はいないです。でも、今日は兄もお茶会に参加しているから、手が空いた家庭教師がいる……かもしれないです」

「じゃあ次は図書室近くで聞き込みだ!」


 私は男の子……レネの手を引いて走り出す。


「ユフィリア様!? あの、手を……!」

「ほら、早く行こ!」


──私達はレネのスケッチブックを探して屋敷中を走り回っていた。私の予想だと、レネのガイというらしいは、陰湿なんだよなあ。誰かが見つけてレネに届けないように分かりづらい場所に置いてそう。


「こ、ここが図書室です…・…」

「よし、探そうか!」


 手を引いて走り出したはいいものの、私は始めてくるお屋敷の図書室の場所とか知らないから、結局レネに案内してもらった。


「探すって……でも、結局図書室には誰もいませんし……」

「大丈夫! このくらいの広さなら手分けして探せば見つかるよ!」

「そ、そこまでしなくても……!」

「泣くほど大切なものなら一緒に探す。そういったじゃん!」


 先に首を突っ込んだのは私だ。だから、レネが申し訳なく思う必要はない。それに、可愛い推しには笑っていてほしいもん!


「レネは右側からね! 私は左側から探す!」

「は、はい…!」


 そうやって逆回りで探していったが見つからない。ふむ…本の間じゃないなら、棚の後ろか上か……。


「ユフィリア様!探してくれてありがとうございます! でも、もう大丈夫ですから!!」

「多分、棚の上か後ろなんだよねぇ……レネ、その椅子使ってもいい?」

「え……? は、はい、大丈夫ですが、……何をするんですか?」

「こうするの!」


 私は本を積み上げた椅子の上によじ登った。本来なら他所の家でこんなことしてるとか大変はしたないが、まあレネしか見てないしいいだろう。えーっと?


「あ、あった!」

「本当ですか!?」


 そう声をあげると、レネはすぐに嬉しそうな顔で私の方を見上げてくる。やはり大切なものなんだろう。私は本棚の上からとって、レネに見せてあげようと屈んだ……ところで、椅子の上に立っていたのを思い出した。そのままバランスを崩してレネの方に倒れこんでしまう。


「ひぁ!?」

「わっ! ……ごめん! レネ、大丈夫!?」

「あ、大丈夫です……。ユフィリア様こそ、お怪我は?」

「私は頑丈だから! ええっと、スケッチブックは……」

「そ、その前に、もう少し離れてください……!」

「え……あ、ごめんね?」


 そういえば、倒れこんだ衝撃でレネの上に覆いかぶさってしまったのだった。とりあえずレネの上をどいて、投げ出されたスケッチブックを探す。まあ、椅子から落ちるときに手から離れただけなので、すぐに目に入ったわけだが。


「はい、これであってる?」


 改めてそれを拾い上げてレネに渡してやる。


「そ、そうです……! 見つけてくれて、ありがとうございます!」

「気にしないでよ、放っておけなかっただけだから。……ところで、中の絵がチラッと見えちゃったんだけど、」

「……!? ごめんなさい! 下手で見苦しかったですよね!?」

「全然? 上手だな~って。色使いとか、画風とか」


 これはお世辞でもなんでもなく、事実だ。スケッチブックの中の上は淡い色使いと綺麗な線で描かれていて今の私と同じ、六歳程度であろう男の子の物とは思えない程だった。


「あ、ありがとうございます! えっと、あの……ユフィリア様は、母上のお茶会の招待客ですよね? 僕と同じくらいに見えるのに、もうお茶会に出れるんですか?」

「ああ……、レネがいくつかは知らないけど、私は六歳だよ。私は公爵家の長女だからねぇ、色々叩き込まれてるんだ」

「六歳なら僕と同い年で……って、え!? 公爵家!? ですか!?」


 そういえば私って名前だけ名乗ってたか?


「改めて、ユフィリア・ルミエスタですわ。ルミエスタ公爵家の長女としてクレイバーグ伯爵家のお茶会にご招待いただきましたの」


 わざと丁寧な口調でカーテシーまでしっかりやると、レネはガッチガチに固まり、


「えっと……確か、レネ・クレイバーグでございます。本日は我が母、セシリアの茶会にご出席いただきありがとうございます。ルミエスタ公爵令嬢」


 しっかりと丁寧なボウ(貴族の男性の挨拶のこと。胸に手を当てて礼をする)を披露した。


「ユフィリアでいいよ。なんなら、愛称のユフィでもいいし」

「そ、そんなの恐れ多いです! えっと、じゃあ、ユフィリア様と呼ばせていただきます」


 ちなみに、この世界において自分より格上の相手を呼ぶのに許可もなく名前呼びをするのは本来ならとても失礼にあたる。同格、もしくは格下なら構わないので私が初対面のレネを呼び捨てにしたのは問題ないが、レネが名前で呼んだのはバレたら大問題なのだ。まあ、名乗らなかった私が悪い上に、今では少し形骸化というか……年下の貴族相手なら格上でも初対面でもいきなり名前呼びがほとんどになってきてるから、最悪は年下だと思ったで誤魔化せるだろう。それはそれで失礼だって? 聞こえないなぁ。


「ぼ、僕! 公爵令嬢に向かって、何か、無礼なこととか……」

「気にしないでよ。知らなかったんだし、私もそこまで身分とか気にしてないからさ。それより、レネは礼儀作法上手なんだね」

「そ、そんなことは……!」

「そう? 私は男の子の礼儀作法はそこまで詳しくないけど、綺麗にできてたじゃん」

「……兄上はまだまだだって」

「そうなの?まあ、しっかり学んだ人の目線だと思うところがあるのかな」


 十分に見えるんだけどなぁ……この辺りはよくわからない。


「兄上は、もう六歳なのに、こんなこともできないなんて……と」

「別に、今日のお茶会だって私達と同年代の子はいなかったしそこまで焦らなくても良いと思うよ」

「……そうですか?」

「うん。みんな、お茶会に出られない程度にはできてないんだし……、まあ下を見るのは良くないからこれ以上は言わないよ」


 ……と、そういえば今何時だろう。レネとおしゃべりしていたら遅くなってしまった。時計を確認すると、もうあと数十分でお茶会も終わりだ。


「私、そろそろ戻らないと」

「え、」

「お茶会抜け出したってお母様にバレちゃう!」

「あの、今日は……本当に、助けてくれてありがとうございました」

「どういたしまして! お役に立ててよかった」

「これだけ教えてください! ど、どうして、僕なんか助けてくれたんですか?」

「僕なんか、なんて言っちゃダメ! ただ、可愛い男のが泣いてるのがほっとけなかっただけだよ!」


 レネの顔が真っ赤に染まった。一瞬、男の子だし可愛いと言われて怒ったのかとも思ったが違う雰囲気だ。可愛いと言われなれてないからか、そもそも褒められることになれていないからか……ま、怒りから来る赤面ではなさそうだし大丈夫でしょ。


「じゃあ、また遊ぼうね!」


 それだけを告げてお茶会の会場に向かって走る。会場戻ったら走り回ってボサボサになった髪とか、埃がついてるだろうドレスとかなおさないと。……お母様と合流するお茶会終了までに間に合うかな。


 結論から言うと、一度私の様子を見ようと令嬢達に私のことを聞いたお母様は既に私がいないことを把握していた。加えて、私一人で凝った髪と綺麗なドレスを元に戻すのはちょっと無理だったので会場を抜け出してレネと走り回っていたことまでしっかりバレた。が、その代わり、私がレネと仲良くなったことをお母様が知ったから遊びに行きたい、誘いたいと強請れるようになったのだから悪くなかった……と思っておこう。


──ああ、五時間に及ぶお説教はキツかったなぁ。

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