既婚者の夫が若い子に嫉妬するなというズレたことを言い出すので妻は顔から火が出そうになるし女心で済ませようとする都合のいい頭に呆れる
「だから、やめてと言ったのに!」
叫ぶように責めるこちらを嫌そうに見る夫にクレアラはぷちんと頭のどこかがキレる音がした。
夫のビスマルはこちらをまるで無理解な女という顔で見てくる神経がわからない。
発端はなんてことないいつものギルド内での酒盛りの席。
最近若い子が加入したので皆で歓迎して、支えてギルドへ長く太くいてもらおうという理由で手厚くサポートしていた。
問題が発生するまでは若い子に気を使わせぬように酒盛りは控えておき、できるだけお酒の席に呼ばないようにとしていた。
そこに風穴を開けたのは夫だ。
ビスマルは空気の読めない鈍感なところがあるものの、憎めないやつと周りからも寛容に許されていた。
それがいけなかったのか。
いや、ギルドでは鈍感な夫だから彼女を誘いやすくして、お酒の席に行かせることに成功したのだろう。
なにより、妻の自分とて彼の無害さにフラッとなり付き合うようになったのだから。
独身の男は問題になるからと飲みすぎた新人の女を自宅に送ることになったのだが、その日は生憎都合よく送っていける女仲間がいない。
夫の仕事先では男ばかりで女は少ないのだ。
仕方ないと代表としてビスマルが選ばれた。
複数人で行けばいいのに、ビスマルが途中の場所に家があると答えた彼女を覚えており、送るよとみんなに言った。
親切心で送ったと彼は言ったが、そんなもの彼の言い方や誤魔化しでどうとでも言える。
そして、実行。
家の玄関で別れたと言うがそういう問題ではない。
自分たちが二回り程の歳ならば気にしないのだが、新人の彼女と己らはそこまで離れていない。
故に、不快感が湧き起こるだけである。
既婚者がなんだというのだ?
結婚しているから独身女性となにも起こらないから、安心しろとでも?
既婚者云々で安心するのは相手側であって、言われる方は結婚しているから、夫だから女を家まで送っていくなんて安心よね、優しいわねとでも褒める行為をするとでも?
バカにしてるにも程がある。
夫だから、妻だから安心できる要素なんて、根拠はどこにもありはしないではないか。
「四つ年上だからと彼女に八つ当たりの嫉妬をしてはいけないよ」
なんて一度目の時に言われたのを思い出す。
そう、一度目。
二度目がこの前で、今回は三度目。
一度目でやめてくれと言ったのに三度も同じことをした。
「歳に嫉妬するわけないでしょう!?」
見当違いな指摘にキレる。
愛しているから嫌なのだ。
興味のない男が女を送って行こうが道端の石ころですら感じ入らない。
感情を揺さ振られるのは好きな男、結婚したいくらい愛している人が独身の一人暮らしの家へバカみたいに親切で送り届けるやり方。
なにを言われようとも不快で、やめて欲しい。
「それに、最近頻度が増えたし酒盛りの間隔が短くなってるわよ」
「人付き合いだよ。はぁっ。わかるだろ?」
溜め息を吐かれたので思いっきり頬をぶっ叩いた。
「ぎゃっ!」
バルン! と音がするほどの打撃音に夫が壁に吹き飛ぶ。
何をするんだと目が問いかける。
言って聞かないなら物理的にわからせるしかないでしょ?
頭の足りない動物には痛みが一番効く。
「あのね、全部私の嫉妬で完結させようとするのやめてくれる?」
妻は腕を組む。
「三日前にその子と街であって店の髪飾り買ってあげるとか、どうなの?」
「それはっ、ただの奢りだ」
「だから、その髪飾りを買った店は私とデートしたときに買った店でしょ? なんでそういうことするかな?」
「し、嫉妬するなと」
「違う違う。これは嫉妬じゃなくて嫌悪。わかる? 気持ち悪いって言ってるの!」
「え?」
夫はまさか、女にものを買ってやったことを責められるのかと思いきや気持ち悪いと両断されるとは思わない顔をする。
「確かに好きだから買ってあげたところは嫉妬対象なんだけど、髪飾りって部分でウエッてなったんだよ? 私に買った経緯と同じだし、その子の髪に商品を当てたりなんてして、気持ち悪いって先ずは思う」
「へ」
「あのね、私が四つ上で嫉妬とか色々言うけど、私より二つ上のあなたはさらに歳が離れるわけで……若い子とデート気分で髪飾り買ってあげる自分まだいけてるな〜って悦に入ってたって聞いたよ」
「違っ」
夫は腫れた顔を振る。
「確かに愛してるけど若い子に悦顔は気持ち悪い。内心優越感に浸ったり、男心を勝手に補充しているあなたも最低」
彼は妻に嫉妬されることすら男のおれは妻を寛容に許さねばという顔つきで彼女を送り届ける様子でいた。
確かに昔は優しさでころりと自分も付き合って結婚したけど、それなのに若い子を送り届けることを妻を怒らせてまでやる神経に心底呆れてしまう。
そこに真意があってもなくても関係ない。
夫婦の片割れの言葉を軽視するということは、この関係は破綻しているということ。
「何度も言うけど若い子に嫉妬したのは一瞬で、あとは私の意見を無視して相手を優先し始めたあなたに呆れて言ってたんだからね?」
「ご、ごめん。もうやらない」
「いやいや、そこは突き通してよ。やめるって言葉が出たら、善意じゃなくて意図的にやってたって白状してたようなもんでしょ」
溜め息をこちらも吐く。
「好きにすれば良い。あなたの言う言葉もやることもどうでもよくなったの」
「どうでもいいって」
「知り合いからあなたの旦那が若い子に、鼻の下伸ばしてたって聞かされた私の気持ちなんてわかんないよね? 女に嫉妬する前に、若い子に緩んだ顔を公衆の面前に晒した男の妻として、死にそうなくらい辱められた私の気持ちなんて!」
彼は口を何度も開け閉めするが、愛が減った状態で見たら情けなさが湧いてくる。
「妻を怒らせて得られた快感にどうぞ、これからも浸って?」
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