湖底のドライアド
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深い 余りにも深い古代の湖底。
深い 余りにも深淵世界が私の棲み家。
長い 長い時間を私はじっと泥沼の底で生きている。
ここは静かで心地よいけど、どうにも退屈だ。
ただでされ泥沼底の冬はとても冷える。
ベントス(底生生物)たちがワラワラと寄って来た。
私の大きな腹に蹲る。
この子らのいつもの日課だ。
ドライアドのお腹はあったかい あったかい。
ぬくぬく ぬくぬく ああ、あったかい。
ぬくぬく ぬくぬく 眠たくなるよ。
安心おし弱き小さな友よ。
私はプランクトンしか食べないからね。
お前たちが眠っても突然ガブリと食べたりはしない。
※
時々、湖上と湖底を行き来するネクトン叔父さんが言った。
私は彼の話がとても好き。
湖上の話を沢山教えてくれる物知りネクトン叔父さん。
湖上には人間がいるんだって。
人間は水中では生きられない。
湖畔の廻りでいつも歩いている。
歩いてるってなあに?
ネクトンは言った。
人間は鰭がない。だから腰から出てる二本足で左右交互に前進するんだ。
二本の足?
そうだ、水中では生きれないから地上へ出て歩く。
地上ってなあに? わからない わからない。
ドライアド、君も直ぐにわかる時がくるさ。
けれど人間にはくれぐれも気を付けるんだ。
人間は怖いぞ。
人間は魚を嫌う、すぐやみくもに殺して食う。
あら、がっつき亀たちみたい。
もっと凶暴だ。湖上に出たら気をつけろよ
人間は僕らを知らない。特に御霊の奴らには気をつけろ!
御霊の人間は危険だ、飲み込んだらやつらに飲み込まれるぞ!
湖底の力も 僕らの魔力も効かない。
そうなの?
そうだよ。
でも逢ってみたいな 姉さまに良く似た顔の人間。
先に湖上へ出た姉さまが教えてくれた。
一人とても可愛い人間を湖に引きずり込んだそうよ。
お前の姉は馬鹿だ、人間は湖中では死んでしまうのに。
あら叔父さん、私はそんな残酷なことはしないわ。
だって私の憧れ、ずっと夢見てた人間。
一目でいいから逢ってみたいな。
ドライアド、お前も馬鹿だ。
俺はお前がとても心配だよ。
※ この詩は「私は誰なの?」の物語から生まれた詩です。