秘密
第2話です!
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「ひとまず、下に降りようぜ」
そう言って俺は周囲を見渡した。俺たちはまだビルの屋上にいた。
空を見上げると、春の優しい陽光がゆっくりと世界を温めている。吹き抜ける風には、どこか懐かしい桜の香りが混じっていた。
(本当に、四月なのか……?)
確かに暖かいが、それだけで季節を判断するのは早計だ。だが、目に映る景色はどう見ても春だった。
「どうやら、階段の形は変わっていないみたいだな……」
屋上の非常階段を見下ろしながら、俺は呟いた。
「行こうか」
茜が俺の隣で静かに言った。
俺たちは並んで階段を降り始めた。足元のコンクリートがひんやりとしていて、どこか現実味が薄い。
階段を降りながら、俺たちはぽつりぽつりと言葉を交わした。
「ねぇ……私たち、なんで過去に戻ったのかな?」
茜が不安げな声で囁く。
「……分からない」
俺も正直、全く見当がつかなかった。
これは何かの奇跡なのか? それとも単なる夢なのか?
そもそも、目の前に国民的女優がいること自体が夢のような状況だ。
「俺も理由は分からない。でも……これは、もしかしたらチャンスなのかもしれない」
俺がそう口にした瞬間、茜が小さく肩を震わせた気がした。
(そうだよな……さっきまで、死のうとしてたんだもんな)
いくら過去に戻ったとはいえ、気持ちの整理がつくはずもない。
「茜、もしもこれが夢じゃなくて……本当に、もう一度人生をやり直せるなら、何がしたい?」
俺は彼女を元気づけるつもりで、そっと問いかけた。
茜は少し考え込んだ後、ふっと微笑んだ。
「私は……学園生活を楽しみたい。そして、友達といっぱい思い出を作りたい」
その瞳は、希望に満ちて輝いていた。
(これは……夢じゃない)
いや、夢であってほしくない。
こんなに真剣な眼差しを向ける少女が目の前にいる。俺が絶対に、この奇跡を無駄にはしない。
「そうだよな……俺ももう、勉強に縛られた学生にはならない。たくさん友達を作って、青春して、悔いのない学園生活にする」
絶対に、もう死を考えるような未来にはさせない。
俺はそう固く決意すると、ふと足を止めた。
ようやく階段を降り終え、地面に立った俺は、スマホを取り出して時間を確認する。
「……金曜日の、午前九時?」
まだ、朝なのか。
そして、ふと制服の感触を確かめる。ブレザーの上から胸元に手を当てると、そこには見慣れない校章があった。
(俺、制服着てる……?)
嫌な予感がする。
「茜、俺もお前と同じ高校みたいなんだけど……ここ、なんて学校?」
「えっ? 本当だ! えっとね、私の通ってる高校は**星湊高校**っていうんだ。ここからめっちゃ近いよ!」
「……星湊高校!?」
思わず声を上げる。
星湊高校とは、このあたりで知らない人はいない超人気校だ。自由な校風と高い偏差値を誇り、倍率は毎年3倍を超える。
俺の学力でそんな高校に受かるはずがない。
「どうかしたの?」
茜が不思議そうに俺を覗き込んでくる。
タイムスリップして少し混乱していたが、4月10日って確か........
「……今日、俺たち、たぶん入学式だ」
「……え?」
一瞬の沈黙の後、俺たちはお互いの顔を見合わせた。
頭の中で情報を整理し、ようやく理解が追いつく。
「走ろう!」
「ついてきて! 私が学校まで案内する!」
「……ああ、頼んだ!」
俺たちはビルを飛び出し、茜を先頭に猛ダッシュを開始した。
春の風を切りながら、桜が舞い散る道を駆け抜ける。
息が上がる。でも、なぜか楽しかった。
「ついた!」
丘の上にそびえる校門を見上げ、俺は膝に手をついた。
「……あ、ありがとな」
息を整えながら礼を言う。
「たぶん、入学式は体育館だから急ごう!」
茜は全く息を乱していない。容姿端麗な上に運動神経まで抜群なのか……?
俺たちは急ぎ足で体育館の扉を開いた。
すると....
「1年2組1番、蒼井俊!」
担任らしき教師が、まさに俺の名前を呼ぶところだった。
「……はいっ!」
本能的に返事をしてしまった瞬間、会場の視線が俺たちに集中する。
いや、俺ではなく、茜に。
究極美人の茜が、息ひとつ乱さずそこに立っている。
彼女の姿は、走った後とは思えないほど整っていて、どこか儚げな美しさを纏っていた。
(……やばい、恥ずかしい)
俺の隣で、茜も頬を赤らめている。
ごめん、茜……
結局、少し注意を受けたものの、無事に自分の席へ座る。
そして、俺はほっと息をついた。
(同じクラスでよかった……)
これで、学園生活を一緒にやり直せる。
入学式は無事に終了したが、俺たちはすでに裏で噂されていた。
「茜、帰るぞ」
「えっ? ちょっ……」
俺は軽く手を引き、その場を離れる。
居続けるには、少々目立ちすぎた。
校門を抜け、ようやく落ち着ける場所に辿り着く。
「さっきは……ちょっと強引だったな。悪い」
「ふふっ、いいよ。私たち、すごい噂されてたもんね~」
「……ああ」
少しの沈黙の後、俺は切り出した。
「明日、一緒に学校を見て回らないか?」
茜は一瞬考え口を開く。
「うん! いいよ!」
その笑顔に、俺は心の底から安堵した。
「ああ、そうだった」
俺は脱いだブレザーからスマホを取り出す。
「連絡先交換しようぜ」
「もちろん!」
茜のプロフィールには可愛いうさぎのアイコンに「あかね」とひらがなで登録されていた。
「それじゃ!また後で連絡する」
俺は茜を家まで送ると、手を振って別れの挨拶をする。
その日は1度お互いの家で状況を整理して、次の日また会うことになった。
俺は一人暮らしをしていて家はごく普通のアパートだ。
高校生の頃からバイトばっかで家賃を払うのも精一杯だった。
茜は家族と暮らしているそうで、ここから家が近いらしい。
その日の夜はなかなか寝付けず、新しい生活に心躍らせていた。
俺は入学式のことを思い返しながら、意識を夢の中へと移動させた。
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あっという間に次の朝が来た。
空は綺麗な快晴で4月とは思えない陽気に包まれていた。
茜の家の前で待ち合わせということでさすがに緊張が隠せない。
休日に女の子と2人きりで会うことなんて今までに経験したことがなかった。
とりあえず、誰にとっても当たり障りがないような、カジュアルな服を着て、歯磨きを済ませ、俺は時間に余裕をもって家を出た。
少し迷ったが茜の家までたどり着くことが出来た。
五分ほど待っていると家の扉が開き、中からはワンピース姿の茜が出てきた。
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続く
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