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冷たい声

 「今日昼一緒に食べてもいいか?」

 「いいけど、なんで?」

 「たまには可愛い先輩や後輩と食べたいんだよ」

 

 千尋は冗談めかして言った後、渋面を作って続ける。


 「あと、部活のやつらと少し気まずくてな」

 「千尋が気まずさを覚えるとかあるんだ」

 「俺のことをなんだと」


 最近、千尋とその周りの雰囲気が良くないのには気づいていた。とはいっても、なんとなくいつもより教室が静かだな、と思ったくらいだからその理由まではわからない。でも千尋が気落ちしているのは珍しいから、結構な事情があるのだろう。


 「今日は僕もパン買おうかな」

 「あぁ、この前ちゃんと昼も食べろって小白ちゃんに言われっ……」

 

 廊下に出たあたりで、後ろからついてきていた千尋が言葉を詰まらせる。なんだろうかと振り返ると、千尋の視線は隣のクラスから出てくる一人の男子生徒にむけられていた。

 千尋と同じく大柄で、しかし目つきが悪い点が大きく違う。いや、恐らく千尋のことを睨みつけるようにしているからそう感じてしまうだけなのかもしれない。


 「千尋、置いてくよ」

 「えっあっおい!少し待ってくれてもいいだろ!」


 僕の顔を覚えられてはたまったものではないから、購買までの道を少し遠回りして、その生徒の近くを通らない道を歩く。一度そういう心配をしてしまったものだから、背中に視線が突き刺さってる感覚がして、急ぎ足になる。背中で視線を感じることはできないはずなんだけどな。

 

 「今の、何?」

 「何って……部活仲間だよ」

 「僕にまで視線が突き刺さってる気がしたんだけど」

 「……すまん」

 「いいよ、でももし僕に突っかかってきたらなんとかしてね」

 

 自分でもわかるくらい、冷たい声を出していたと思う。






 ガラリ、といつものドアを開ける。すでに僕と千尋以外、つまり千尋の言うところの可愛い先輩と後輩は先に教室で待っていた。


 「あ、千尋くん久しぶりじゃん」

 「えぇ、飯取ったりしないでくださいよ?」

 「あれはついはしゃいじゃっただけだし、私が食いしん坊キャラみたいな言い草はやめてほしいな」

 

 自業自得じゃん、と思いながら僕は僕で席について、購買で買ってきたパンをかじる。狭い教室だから、すぐ近くに義妹と後輩が居て、少し訝しげな視線を向けてくる。


 「にいさん、その……」

 「今日はほら、パン食べてるよ」

 

 パンを口に含んでいるのもかまわずに、しろちゃんに被せるように喋ったところで、やってしまったと思った。


 「お兄さん、何か怒ってますか?」

 「いや、そんなことない」

 「嘘です!機嫌悪そうですし、普段といろいろ違います!私に心当たりは無いんですけど、何か悪いことをしてたらごめんなさい……」

 

 すごい、土足で踏み入ってくるとかそういうレベルじゃなくぶっこんでくる。普通気になってもしろちゃんみたいに聞きにくそうにするか、さっきから僕に視線を合わせないようにしてるここ先輩のように関わらないかのどっちじゃないのか。


 「機嫌悪いのはそうかもだけど、りつちゃんのせいじゃないから安心していいよ。にしても僕そんなにわかりやすいかな」

 

 毒気を抜かれて、気が抜けた声になる。機嫌が悪いことなど、人に悟られたいものではないし、ましてや後輩を怖がらせるなど好ましくないことこの上ない。だから今までそういう気持ちの時は隠そうとしていたし、隠せていると思っていたけれど、今の様子からして一言も会話をしていないここ先輩にまで気づかれているようだった。


 「光くん、不機嫌な時はわかりやすいよ。めっちゃ怖いし……」

 「不機嫌なときでなくとも何を考えているかわかりやすいです」

 「すぐに気付きました!」

 「今回は俺のせいだから言いづらいが、俺でもなんとなくわかるぞ」

 「申し訳ない」

 

 しろちゃんが僕の心を読むことは今更だけど、千尋にまで機嫌が悪いことを察せられるって相当だと思う。反省しなければならないけど、自分で周りへの態度を変えているつもりはないから、どう直していいものかわからない。これも人とのかかわりを避けてきた弊害だと思う。


 「俺のせいって言ってたけど、千尋くんなにしたの?」

 「教えてもらった勉強の内容全部忘れたりした、とかであればまた私が一から教えますよ!」

 「千尋くんりつちゃんに勉強教えてもらってるの……?」 


 ここ先輩にとって気になるワードが出てきて、りつちゃんとここ先輩の意識がそれる。それも気にせず、僕に話すようにして千尋が事情を説明してこようとする。


 「待て、僕は別に知りたくもないぞ」

 「お前も相談してきたんだから俺の相談も聞けよ」

 「にいさん、何か悩みがあるんですか?」


 いや、そんな大きな悩みでもないよ、と言ってしろちゃんを誤魔化す。悩みの種の本人がいる前でそんなことを言われると、別に問題はないはずだけど心拍数が上がるのを感じる。最近、僕は小心者であるということを否応なく感じる場面が多い。

 それはともかく、千尋の言うことはもっともだから、聞いてあげることにした。気になっていたのも確かであるから、無理に聞きたくないわけでもなかった。 

 

 「あれは―――」

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