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まじめっちゃ成績悪い

 「りつちゃんだっけ、すごい子だったな」

 「同意するけど、ここ先輩のほうが千尋にちょっかいかけられてなかった?」

 「ここ先輩はあしらいやすいがりつちゃんはちゃんと相手しないといけない気分になる」

 「わかる」

 「小白ちゃんだっけ、お前の義妹はめっちゃいい子だったじゃん」

 「件のりつちゃんをけしかけてこようとしたのはその義妹様なんだけど」


 いい子だけどね、よくある冗談というやつだ。

 放課後、僕は珍しくすぐ帰らずに千尋と話している。内容は今日の昼食の席について。放課後の教室残る人は少なくない、部活にすぐ行くのが少し怠かったり、友人と喋りながら勉強したりする人が割といる。恐らく千尋も今日は部活に行くのが怠いのか、あるいは昼のことをただ話したい気分なのか。

 

 「部活、いいの?」

 「今日は休みだよ。顧問が昨日腰やっちまって、ちょうどいいからオフにするってよ」

 「えぇ……」

 

 ご冥福、じゃないや快復を祈っておこう。


 「しかし、お前いつもあの先輩と食べてたのか?」

 「たまに来ない日もあるけど、そうだね」

 「付き合ってるとかではなく?」

 「ははは」


 千尋の疑いを一笑に付す。むりむりかたつむり。

 

 「無理に決まってるでしょ、僕が誰かと付き合うとか」

 「別ンなことねぇと思うけどな……」

 

 椅子の背もたれに肘を乗せて、呟く千尋。放課後を迎えてから10分くらいこうやって話しているし、もう帰ろうかな。早く帰る理由もたいしてないけれど、しろちゃんに出迎えられるよりは出迎えるほうが少し気が楽だし。


 「帰るよ」

 「もう帰っちまうの?どうせ暇だろ、どっか行こうぜ」

 「えっ」

 「……お前、表情分かりやすいよな。嫌そうな顔してるよ」

 「褒めないでよ」


 褒めてないが、と真顔で言う千尋。誘ってくれるのは嬉しいけど、放課後から遊ぶとか帰りが一体何時になるのか。僕の心の中の門限は6時。遠慮したい意識が顔に出てしまっていたようだ。


 「はぁ……今度飯にでも誘えよ、絶対だぞ」

 「学校の昼ごはんでいい?」

 「外に決まってんだろ、当分は自主練になるだろうしよ」


 なるほど、基本的に部活が理由で千尋と遊ぶことは無く、誘ってくるのも珍しいから怪訝に思っていたけど、それが理由か。折角だからたまにはいいかもしれない。

 

 「ふーん……じゃあ今度の土曜とかどう?」

 「おっ、マジ?断られると思ってた」

 「僕もたまには高校生らしく友達と遊ばないと、義妹に心配されちゃうし」

 「休日なら飯だけってわけにもいかないだろ、何する?」

 「僕に考えがあるんだ」


 騙すようで悪いが、千尋には苦しんでもらおう。






 「光、これは遊んでいるとは言わない」

 「僕は遊ぶとは言ってないけど」

 「いや、言っていた。覚えているぞ」

 「その記憶力で公式を覚えようか」


 その週末、僕は初めて自分の部屋に友人を招いていた。いや、小学校のときは数回友達を呼んだこともあったかな、記憶が曖昧だけど、そんなものだろう。

 

 「なぜ俺は休日に勉強しているんだ……?」

 「千尋が毎回低い点数の答案用紙を見せてくるからだけど」

 「違う、そういう意味じゃない」

 

 千尋はまじめっちゃ成績悪い、それはもう驚くほどに。


 「僕はもう追試で泣きつかれるのは嫌なんだ」

 「テスト範囲の発表もまだじゃねぇかよ!」

 「千尋がテスト範囲が発表されてから勉強しても間に合うわけないだろ」


 高校最初のテストなんてさほど難しくなかったのに、平然と赤点を取ってきて僕に泣きついてくるわ、それを危惧して赤点を取る前にテスト範囲をちゃんと勉強させても普通に赤点を取ってくるわ。僕は学ぶんだ、赤点を取ってから泣きつかれるくらいならその前に勉強させた方が楽だ。


 「なんで授業中寝ていることもあるのに、お前は成績がいいんだ……不公平だ……」

 「運動極振りの君とは違うんだ」


 「小白ちゃん、ここ教えて?」

 「りつは私とたいして成績変わらないでしょう、にいさんに構ってもらってください」

 「お兄さん!私数学わかんないです!」

 「高校最初の数学とか中学とたいして変わんないでしょ」

 「じゃあ漢文!漢文は本当にわかりません!」

 

 本当にってどういうことだよ。

 我が家のリビングで勉強会が行われているが、隣では新入生組も教科書と格闘している。折角だから、とりつちゃんを呼んでもらった。ここ先輩は連絡先を知らないから、呼ぶこともできないし、そもそも今年受験生であるここ先輩を付き合わせるのは気が咎める。


 「千尋先輩、お昼あれ以来教室に来ないですよね、なんでですか?」

 「千尋は友達多いから」

 

 初めて顔合わせをした日から週末まで、何日か間があったが、千尋とはあれ以来一緒に昼を一緒にはしていない。僕は特段気にすることではないけど、しろちゃんと毎日あの狭い教室に来ているりつちゃんは気になるのだろう。僕は別に毎日千尋と一緒に食べているわけじゃないことを説明すると、驚かれる。

 

 「友達と一緒じゃなくて寂しくないんです?」

 「うーん、別に。毎日学校では顔を合わせているし」

 「私は一人でご飯なんて寂しくて死んじゃいます……」

 

 まぁ、小白ちゃんが休んだりするときは一人で寂しく食べてるんですけど。急に下がったテンションで言うりつちゃん。勉強しているときでもお構いなしに上下する情緒に僕はついていけないよ。


 「光は薄情だからなー」

 「あぁ、なんとなくわかります」

 

 友人と義妹が好き放題言ってくる。失礼な、僕は情に溢れた人間というほどではないが、薄情なつもりも毛頭ないぞ。


 「お兄さん、薄情なんですか?いきなり私と話してくれなくなったりしませんよね?そうなったらすごく悲しみますよ?小白ちゃんに滅茶苦茶に泣きつきますからね?」

 「別に僕は薄情なつもりはないけど」

 「安心しろ、光は自分に絡んでくるやつはそこそこ相手にしてくれるぞ。その代わり光から誰かに話しかけたりすることは基本ないけどな」

 「僕のトリセツ気取りはいいからいい加減三角関数覚えろよ」


 しろちゃんは言うまでもないが、見た感じりつちゃんもかなり頭がよさそう。というかしろちゃんが言うことを信じるならば、学年主席であるしろちゃんに並ぶレベルなのだから僕に聞かなくてもいいはずなんだけどな。

 

 「勉強できるようになったら友達できるかなって思ったんですけど、結局友達に勉強を教えるっていうシチュエーションは成績が先に来てるのではなく、友達の中で成績がいい人に聞いているという事実が発覚して、残ったのは何の意味のない成績だけだったんです」

 「そんな悲しいこと言わないでよ……成績がいいのはいいことだと思うよ……」


 この子、大人になったら悪い男に騙されそうで怖い。今のうちに依存癖を治しておこうね……。


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