給水塔・2
「給水塔へ入る前に、隊列を確認しておきたい」
ギローが口を開いた。マルカブリはどうでもよさそうに、隣で腕を組んでいる。
「水門から塔内までの水路は一本道だ。二人くらいは並んで歩ける。俺たちが前を担当しよう」
騎士の二人は短い槍を持ち、腰には剣を提げていた。
「討ち漏らしは二列目。バジーレとアルノー少年だ。後衛はアステルと、ランボー」
「魔法使いに吟遊詩人が最後尾……背後がガラ空きじゃないか?」
マルカブリが異を唱えた。
「洞窟のような横穴はあるまい。背後からの奇襲は考えにくいな」
ギローの回答に、アルノーも付け足した。
「ランボーは剣だって使えますよ!」
「吟遊詩人の剣の腕など、たかが知れる」
鼻で笑うマルカブリにアルノーはいきり立ったが、この赤髪の男はなおも続けた。
「ランボー、吟遊詩人ランボー……聞いたことがある名だ……? おお! そうかランボー! 『不帰の森』の吟遊詩人ランボーだ。 こんな所でご一緒できるとは光栄だな!」
わざとらしい物言いに、大げさな身振り。心にもない賞賛。この男に好意的になれる人間はいるのだろうか。アルノーはランボーを見たが、彼は気に留めていないのか、ギターを肩から下ろした。
それがマルカブリには気に入らなかったらしい。ギローが制止するのも聞かない。
ギターの包みを解き始めたランボーに、なおも絡んでくる。
「おいおい、歌うなよ? 塔を崩されちゃ敵わんからな……」
見かねてアルノーが言い返そうとしたところで、バジーレが口を挟んだ。
「ギヨム伯爵と言えば……最近『討伐』に出陣されたと聞いたが……はて?」
さっきのマルカブリの口調を真似ているらしい。赤毛の騎士の痩せた頬が引きつった。黒毛の騎士は頭を抱えた。
「確か、大勢の騎士を連れて行ったらしいが……おやおや、お二人は置いて行かれたんですかい?」
「留守を任されたんだ!」
マルカブリが歯をむき出して言う。毛の色と同じくらいに、顔を赤くしている。バジーレは髭に覆われたアゴを、高く突き出してながら、なおも続けた。
「足手まといだったんじゃないかなあ?」
ヘラヘラ笑うバジーレに掴みかかろうとする同僚を、ギローが抑えた。
「よせ! あんたも止めてくれ、気にしてやがるんだ! 俺から謝るから! 」
長身の二人に挟まれ、もみくちゃになっている黒髪の騎士を見て、アルノーは彼が気の毒になってきた。少なくともギローの方はまともそうだ。相棒のせいで随分苦労していそうだけれど。
その時、もみ合うマルカブリの頭上に、黒いアクスの刃先が振り下ろされた。彼は慌てて飛び退いた。
「な、なんだ!」
鼻先に着きつけられたのは、黒いギターのボディだった。ランボーがネックを掴んで振り下ろしたのだった。
「さっさと探索を始めようぜ」
「……足手まといにならないようにな!」
マルカブリはそう言って、水門へと向かって行った。ギローが慌てて追いかけていく。パーティの出だしとしては、最悪だとアルノーは思った。同列となったバジーレが声をかけてきた。
「いざとなったら置いて行こうぜ、あんな奴。後ろから不意打ちでもいい」
最後尾となったアステルは、ランボーを見た。ランボーは屈託なく言った。
「行こうか」