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エルフとの出会い・3

 陽光を照らして輝く石の塔。その下に広がる空き地。その二つを仕切る石の壁。その眺めをアルノーは、ボンヤリと眺めていた。


……すると、視界の端に人影が入って来た。フード付きのマントを羽織った、長身の女性だった。


「母さん?」


 思わず口に出して、アルノーは首を振った。見間違うのも恐れ多いと感じた。吸い込まれるように目線が外せなくなる。


「磁器のように白い肌、長い睫毛、碧い瞳、彫刻のような鼻、花びらのような唇。まるで絵物語から出て来たような……なんて表現すら、陳腐に感じるな。ランボー、吟遊詩人ならどう表現する?」


 バジーレがいたずらっぽく投げかけた。


「ただただ、神から地上へ賜りし奇跡、くらいかな……」


 しょぼくれた声が返って来た。バジーレが鼻で笑う。


「おいおい、君は吟遊詩人なんだろ……?」


 女性はこちらに気づくと近づいてきた。


 フードを下ろすと、金色の髪が顕わになった。そして先細った長い耳。


「……エルフ? の、人?」


「そうだ。エルフに会うのは初めてかい、アルノー?」


 バジーレがアルノーの肩を掴んで言った。


「彼女が、君を診てくれた魔術師さ」 バジーレが手を挙げると、彼女も手を挙げて応えてきた。そしてアルノーに気づくと、瞳を輝かせて駆け寄って来る。彼女が走るだけで、殺風景なはずの空き地が、女神と妖精の戯れる草原に変わって見えた。


 アルノーが見れるうちに、エルフの女性は目の前で立ち止まった。そして一声、


「坊や!」


 と、声をかけてきた。


「え……あ、はい……」


 ドギマギするアルノーに、バジーレが助け舟を出した。クック……と声を立てながら。


「アステル、彼はもう十五歳の冒険者だ」


 エルフの魔法使いにして治癒師、アステルというのが彼女の名前だった。


「……ごめんなさい、アルノーだったわね。良かった目が覚めて」


 アステルはアルノーの頬に白い手を当てた。ひんやりとした感触に続いて、じんわり心地よい温もりが伝わってくる。身を任せたくなるような気持になって、アルノーは思わず目を閉じた。そんな少年の様子を、彼女はまた愛おしそうに眺めた。


「アステル、君のおかげで助かった。一時はどうなることかと思ったんだ」


 後ろからランボーが声をかけてきて、アルノーもハッと目を開けた。


「あなた、大騒ぎだったわね。このまま死んじまうんじゃないか、て」


 アステルもクスクスと笑いだす。着ているローブは元の色も分からないほどに褪せて、ほつれもひどい。だがそれがむしろ、彼女の輝きをより際立たせていた。


「そうなの? ランボーが?」


 バジーレも肩を組んだまま話し出す。


「そうなんだ。宿の主人が彼女を呼んだのが、四日目だったかな? しぶしぶだったが……。それまで君の側で付きっきりさ。『このまま死ぬんじゃないか』と泣くわ、『医者だ、医者を呼べ!』と叫ぶわだ。昼も夜もだ。そりゃあもう大騒ぎだった」


 アステルが後を引き継いだ。


「私が来るまで、彼は飲まず食わずだったらしいわよ。それで私の見立てを聞いて安心して、フラフラ~と出て行ったのよね。帰りに酒場の前を通ったら、オケラになって放り出されてたけど」


 口元を隠しながら、彼女は笑い声を立てた。ランボーが慌てて早口で話し出す。


「あ、あれはだな、安心して飲んで食ってたら、ひょいと声をかけられて、で、寝不足の頭でボーっとしてたから、つい誘いに乗ってしまったんだ。普通なら、あんなに簡単に釣られることはないんだぜ……」


 サイコロ賭博したことを謝っているらしい。宿屋を出てから初めて、アルノーはランボーを見た。


「そこは、もういいよ。ありがとう、心配してくれて。アステルさんも、ありがとうございました」


 アルノーは頭を下げた。

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