三番手・黒髪の騎士ギロー・1
「大歓迎ですよ!」
それは魔人だけではなく、人間側も同様だった。一人を除いては。
「俺は頼んでないぞ!」
マルカブリである。立ち上がり、槍の柄でギローを押し返す。
それでギローは押し切れる。ここに来ると言った時も、一度は止めたくせに引き下がった。申し訳なさそうな面をしながら、『俺も行く』とだけ言って。
だがギローは退かなかった。
「なんだ、ギロー」
赤毛の騎士はギローを睨んだ。黒髪の騎士も睨み返したが、長くは続かず、一瞬目を伏せる。
マルカブリの頭に血が上った。ギローを蹴飛ばすと、そのまま敵に討ちかかっていく。槍騎士が正面から槍を繰り出してきた。高速の槍衾に飛び込む格好になった。勢いをそがれたところを、横から剣騎士が襲う。
ギン!
その剣を、ギローの槍が防いだ。マルカブリも、槍騎士の槍を抑え込んだ。
「マルカブリ、独りで戦うな!」
「……」
「こいつらの連携は強力だ。こちらも連携しなけりゃ、勝てんぞ!」
マルカブリは槍を押し返し、退がる槍騎士を追撃した。
「マルカブリ!」
だがギローも、剣騎士の斬撃に見舞われ、言葉を続けることは出来なかった。
「マルカブリさんが騎士たちを引きはがして、一対一。これで互角だね」
アルノーは少しホッとした。だがランボーは首を振った。
「そう、狙い通りにはいかないだろうさ……」
戦いの場となっている踊り場を、分け合うようにして戦う二組。それぞれが別の場で戦っているようだった。アルノーは二つの戦いから目を離さないようにと、忙しく首を動かした。そうしているうちに、気づくとアロ・アダイの両騎士は、隣り合って立っていた。当然、対するマルカブリとギローも、横並びになっている。
「なんで……?」
「体さばき足さばきってやつだね」
戸惑うアルノーに、バジーレが解説口調で言った。
「あいつら打ち合う度に、徐々に移動していったのさ。身体の向きを変え、足を踏みかえて、な。マルカブリたちも、うまく誘導した。武器でいなしたり、隙を作って誘ったりしながら」
アロはギローを、アダイはマルカブリを相手しながら、時には相方の闘いにも手を出していた。アロはギローの槍を大きくかわすと、アダイへ向けられたマルカブリの槍を盾で弾いてやる。アダイはマルカブリの槍を払った勢いで、その槍をギローへを突き伸ばした。
そのまま入れ替わるとアロはマルカブリへ剣を振り、アダイはギローの脇腹目がけて槍を突き出した。赤毛と黒髪の騎士は、どちらもこれに対応できないでいた。
(いきなり得物が変わると、間合いも変わる……)
(見た目が同じだけに、入れ替わりを意識しないと、対応できん)
「マルカブリ、バラバラに戦っても、こいつらには勝てない! 息を合わすんだ!」
ギローの呼びかけに、マルカブリは答えないでいた。
「お前は十分、強い。並みの騎士以上だ。だが、ここは一人じゃ勝てない!」
マルカブリは手を止め、ギローを睨んだ。
「名誉や誇りを重んじるのが、騎士じゃないか? 人の手を借りて勝ったって、恥にしかならん!」
「だから、お前は騎士になれないんだ!」
ギローは横からマルカブリをぶん殴った。マルカブリへ討ちかかろうとしていたアロが、手を止めた。
「アッキャッキャー!」
突然の光景に、ステュクスは頭を抱えて上げた。
倒れたマルカブリの目の前に星が飛んで、チカチカする。首を振る彼を見下ろしながら、ギローが言った。
「目的を同じくする者同士が協力するんだ。何の恥がある? それで民が救われ、領主の名誉と国の秩序が守られるなら、それこそ騎士の誇りではないか」
星の消えたマルカブリの目に、ギローが映る。見上げながらマルカブリは睨んだが、今度こそ、ギローは目線を外さなかった。そして、手を差し伸べて言った。
「俺に協力しろ。勝って、騎士に推薦させろ」
マルカブリは、歯を食いしばった。血の味が広がる。殴られた頬は、まだ熱い。顎もジンジンした。だがそれ以上に、ギローの言葉が心に響く。素直には、受け入れられなかった。だが……
「協力してやる。勝ったら、推薦しろ」
幼い頃のことが思い出された。
『騎士になろうぜ、一緒にこの街から出るんだ』
(あの時、手を差し出したのは俺の方だった……)
赤毛の少年は、黒髪の少年の手を取り、立ち上がった。




