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魔人・2

「初めまして」


 と、言われて返事する者はいなかった。


 身体は松明の明かりを反射して、所々に照り輝いている。そうでない部分からは、背後の暗い石の壁が透けて見えた。顔はついていても、目らしい所に眼球はなく、鼻や口らしい所に穴はなかった。


 ただただ人の形をした異形。そいつから人並みな挨拶が出て来る光景を、頭が受け付けなかったのだ。


 人間たちの無反応に気づかないのか、魔人は話し続けた。


「ここまでたどり着いたあなたたちなら、私の夢も叶えられそうです」


 魔人は片目をつぶり、固めた拳から親指を突き出した。『ヤッタネ!』ということらしい。


「俺たちが、お前の夢を叶えると言うのか?」


 やっと一人、ランボーが口を開いた。


「そうなんですよ。喜ばしいことです」


 魔人は両手を合わせて握りしめた。喜びのポーズらしい。人間に近い感情があるのだろうか。


「あ、あんた、元は、人間だったのかい?」


 バジーレが遠慮がちに尋ねた。


「私に興味がある? うれしいですねえ! 魔族共は、私の強さしか関心ないみたいで」


 魔人は両手を握ったまま、片足を上げた。これも喜んでいるということだろう。


「私は元々、どこかの泉の精だったと記憶しています。水底から滾々と水を湧き上がらせててねえ……あまりに水が澄んでいるもんだから、泳ぐ魚はまるで、宙に浮いているようでした。それが近くに人間が住み着くようになってからというもの……湧き水は枯れ、泉が池になり、やがて沼に。しまいには魚も棲まない泥地になって……そうして最後に残ったわずかな水が、私というわけです」


 魔人は両手で胸をかきむしるような仕草をした。


「人間のせいってことか。悪かったな」


 ギローが機嫌を伺うように言った。


「とんでもない!」


 魔人は両手をピシャリと合わせた。掌に挟まれたためか水がはじけ、アルノーたちの方まで飛沫が飛んだ。


「あなたたちは何もしていない。悪いのは、住み着いた連中です。でも大丈夫、もう報いは受けさせましたから」


「報い……とは?」


 ランボーの問いに、魔人ステクスは満面の笑みを返した。


「もちろん皆殺しです。殺せば殺すだけ、血を浴びれば浴びただけ、私の身体も浄化されていきました。血の代償というやつです。そこの住民だけでは足りず、あちこちと殺して回った結果! 今や元の泉の美しさを取り戻せたのです」


 アルノーはその姿を想像した。手段は分からないが、殺すたびに、その身体は透明度を増していく。人間たちは抵抗すらできなかったに違いない。なぜなら、自分が今、この魔人とまともに戦えると思えないからだ。会った時からそう感じていた。


 ランボーも、バジーレも汗をかいている。ギローは方で息をしていた。マルカブリは目を見開いていた。アステルの表情は固まっていた。


「……さて、みなさんは私に、ここから出て行ってほしくて来たんですよね? 私の夢を叶えてくだされば、出て行ってさしあげますよ。いかが?」


「その夢を叶えば、あんたは俺たちと戦わずに、出て行ってくれるわけか?」


 マルカブリがやっと口を開いた。傲慢な物言いだった男が、ここではさすがに低姿勢だ。


「そうです。そのためにここを占拠したんですから。その代わり、全力で叶えていただきますよ……」


 大げさな身振り手振りで、魔人は語り続ける。アステルが尋ねた。


「その、夢は何? 私たちは何をしたらいいの?」


 魔人ステクスの顔が笑みを描き出すと、両腕を広げた、広げた腕から霧が吹き出し、彼の足元を隠したと思うと、消えた。


 そこに五つの影――正確には四人と一体――が現れた。


「憧れだったんですよねえ、五対五のバトリング」

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