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給水塔・5

 次の階層に上がると、今度は水棲のモンスターが二種、現れた。


 オオビルはすばしこかったが、ランボーが『重く緩やかに動く』演奏(フレーズ)で動きを封じると、デカイ分攻撃は見えやすくなった。


 厄介なのはプラナリアニュートだった。中空を泳ぐように動き、横から後ろから丸呑みにしようと襲い掛かってくる。巨体な分、攻撃は当たりやすかったが、切っても切っても傷口が再生する。バジーレが胴を真っ二つにしたら、どちらも切り口から新たな身体が再生して、数が増える始末だった。一時はみんながパニックになったが、アステルが火系魔法を使って切り口を焼き、ようやく全滅させることができた。


「この先にいる魔物か魔族は、かなりの大物なんじゃないか?」


 モンスターたちの死体を見ながら、ランボーは言った。


「ほう……なぜ、そう思う?」


 質問する時ですら、マルカブリは高飛車だった。


「オオビルもイモリも、長距離を移動できる種じゃない。『拠点』から移動してきたとは思えないからな」


「ふうん、ではどこから来たと言うんだ?」


 挑発するような尋ね方だ。うんざりしたアステルが後を引き継いだ。


「この給水塔の源泉、地下水脈に棲みついていたんじゃないかしら? 従属魔法か、それに類する術で操ったのよ。この階層を守らせるために」


 マルカブリに口を挟む余地を与えず、バジーレがその先を引き受ける。


「じゃあ、そいつは地下水脈まで潜ることができ、なおかつ魔法か何かが使えるわけだ」


「ただの残党狩りでは、なさそうですね」


 最後はアルノーが締めくくった。


「フン!」


 大きく鼻を鳴らすマルカブリを見て、アルノーはほくそ笑んだ。隣のバジーレも同様で、二人顔を見合わせてさらに笑った。


 次の階層へと上がる階段の途中で、ギローとマルカブリが同時に声を上げた。


「あぁ!」「うおぅ?」


 二人が指さす先には暗闇しか見えない。アステルが炎を飛ばしても、映るのは石の階段と壁だけだった。


「傭兵、さっき見たのは騎士だったな? 赤と緑の」


 マルカブリが狼狽えた声で話しかけてきたが、バジーレは無視した。


「ギロー、あんたも見たのかい?」


「ああ、見た。俺たちは同じものを見たらしい」


「おい、吟遊詩人。お前が何か見せてるんじゃないのか?」


 ランボーに疑いの目を向けたマルカブリに、アルノーが反発した。


「あんたはともかく、仲間を騙す趣味はないよ」


 ランボーも頷く。


「そうだな。それに幻術は俺の専門外だ」


「霊でも見たんじゃないの? 冒険者だった頃にはよく見かけたわ」


「古い塔だから、そういうのが巣食っていてもおかしくはないな」


 アステルとバジーレが声を揃えた。


「ふん……害がないなら、まあ、いいか」


 マルカブリは少し安心したようだった。


 次の踊り場には巨大なイモリがいた。ただ身体がデカイだけのモンスターで、ギローとマルカブリの二人であっさりと倒せてしまった。


「イモリか……懐かしいな」


 ギローがボソリと言った。


「お世話になってるのかい?」


 イモリは強壮剤として有名なのだ。バジーレの嫌味を受け流し、ギローは続けた。


「子供も年寄りも食べていたさ。さばくまでが、子供の仕事だった。採るのはマルカブリが上手かったな」


「二人は、同郷なのか」


「珍しいですね、イモリを食べる地域なんて」


 アルノーは少しだけ、二人に関心が湧いた。


「よせ、ギロー。つまらない話をするな」


「少しは面白い話も聞かせろよ」


 興が覚めるとバジーレがたしなめた。


 ランボーがチロチロと、曲を弾き始めた。身体を動かしたくなる、浮き立つような音楽だ。ギローがリズムに合わせて足を上げ始めた。


「よく知ってるな。俺たちの街の曲だ。足を使った踊りが特徴なんだ」


 ギローの踊り出すと、マルカブリは顔をしかめて目をそむけた。バジーレがギローに合わせて足を上げる。


「傭兵隊にも踊る者がいたんだ。戦いの練習になると言っていた」


「子供の頃から踊り始めて、身体の動かし方を学ぶ。成長したら、剣や槍を持って踊る。踊りを通して、戦い方を学ぶんだ」


 ランボーの曲が激しくなり、ギローとバジーレの動きもそれに倣う。腕の振りがパンチに、上げた足がキックとなって互いにぶつけ合うようになってきた。


「だが、その街でもかなり下層階級のものだよな?」


 バジーレが言うと、マルカブリは目を見開いて叫んだ。


「もうやめろ! くだらない物を見せるなギロー!」


「故郷と幼馴染は大切にしろよ」


 バジーレの忠告を、赤毛の騎士は耳にも入れず、逆に詰め寄った。


「あんな所は故郷でもなんでもない! こいつとはただの腐れ縁だ!」


 ギローが間に立った。さっきも見た光景だが、より殺伐としている。


「マルカブリ、今は協力する仲間だろう?」


「仲間? たかが流れの吟遊詩人に傭兵くずれ。それにガキと女エルフじゃないか。協力? こっちが使ってやってるんだ!」


 マルカブリは叫んだが、返って来た目線は冷たく鋭い。それ以上は何も言えなくなって、踊り場の隅へ歩き去った。


「すまん」


 ギローはそう言い置いて、マルカブリの後を追った。何とも言えない空気だけが残った。

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