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8.目覚め

誰かに揺さぶられている感覚で意識が浮上する。目を開けると、ソワールが心配そうに顔を覗き込んでいた。


「ん、あれ…俺……」


「お目覚めになられたのですね。よかった」


日が傾いてきましたし、そろそろ本邸へ戻りましょうか、とソワールが言う。

たしかに、夢を見る前はまだ明るかったはずの空が、すっかりオレンジに染まっていた。

ソワールの話によると、彼もつい先程起きたばかりで俺が隣で寝ていたことに酷く驚いたそうだ。彼の夢の中にいる間、俺も隣で寝ていたのか…。もしやあれはただの夢で、特にこれといった意味はなかった…?


「その、こんなこと急に言うのは変だと思うのですが……」


ソワールが緊張したような面持ちで、一呼吸置いて口を開く。

何を言われるんだろう。まさかまた身嗜みが整ってなかったか?あれだけ気を配ったんだ、流石にそんなことは……うん、多分無いはず。

内心わたわたしている俺を尻目に彼が言ったのは、意外な一言だった。


()()()と、沢山お話したいです」


迷惑でなければですが、と彼は付け足す。漫画でも消極的だった彼がそう言ってくれるとは思わず、驚きで一瞬固まってしまう。

距離が縮まったようで、なんだが嬉しくなった俺は、夢で話した内容と同じように彼に向かって言った。


「ああ、何度だって、幾らでも話そう。勿論話すだけじゃなくてもいい。いつでもお兄ちゃんを頼ってくれ」


はい!とソワールは元気よく返事を返した。そこには原作のような陰りはなく、年相応の屈託のない笑みが浮かんでいた。

やっぱりせっかく家族になったんだし、兄弟同士仲良くやれる方ががいいもんな。


……あれ、なんか忘れてるような気が……。


「あっ、そうだ!!ティパーはどこだ!?」


何のことかとソワールが首を傾げる。そういえばソワールにはまだ紹介してなかったな。

俺は身振り手振りを混じえながら、ティパーの容姿や大きさについて説明した。ソワールは俺の拙い説明でも理解してくれたようだ。


「魔法生物はあまり詳しくありませんが…う〜ん…色は少し違いますけど、もしかしてこの子のことですか?」


ソワールが抱き抱えるその子は、彼の言う通り色が少々黒っぽくなっていたが、間違いなくティパーだった。


「ああ、そうだ!ありがとうソワール」


「いえいえ、大したことではありません」


ティパーはソワールの腕の中で大人しくじっとしている。黒いの、洗ったら落ちるかな……なんてことを考えながら、2人と1匹で本邸へ帰宅するのだった。


──────


見慣れた住宅街に、見慣れた帰り道。手元には大好きな漫画の最新巻。早く家で読みたくて、早足で街中を駆けていく。

横断歩道の青の点滅が視界の端に映る。走ればまだ間に合うと、白線を踏んだ。


近づいてくるトラックに気づかなかったのは、きっと、漫画のことで頭がいっぱいで反応が遅れたせいだ。


トラックとの距離は、1メートル。

突然訪れた死の恐怖に体が動かなかった。

トラックとの距離は、50センチ。

周りがゆっくりに見えるのは、死期が近いからだろうか。

トラックとの距離は、30センチ。

家族や友人との思い出が、走馬灯みたいに浮かんでは消えていく。

トラックとの距離は、10センチ。

目の前の恐怖から逃げたくて、ギュッと目を瞑る。

トラックとの距離は、もうわからない。

ただ、死にたくないと強く願った。


次の瞬間、衝撃を感じて____


──────


バッと目を開けると、見慣れた屋敷の天井が見える。自分の部屋を見渡して、ようやく先程の出来事が夢だと気づけた。着ていた下着は汗でじっとりと湿っていて気持ち悪い。

やけにリアルな夢だった。アスファルトを踏む感覚も、車のエンジン音も、あの景色も。

胸はまだどくどくと煩くて、腕の震えも止まらない。


(……さっさと忘れてしまおう、あんな夢)


きっとそれがいい。

枕元でスピーという音がして、視線を向けるとティパーがすやすやと眠っていた。

少し黒ずんでいた毛は元の白黒の模様に戻っている。もしかしたら時間経過で戻るタイプなのかもしれない。魔法があるくらいなんだし、多分ありえるだろう。


ベッドから出て身支度をする。

本来なら執事がやるんだろうけど、前世の感覚的に他の人に着替えを手伝わせるのは気が引けてしまって、なんやかんやで自分がやることにしている。

いつもはのんびりでも構わない身支度だが、今日は違う。なんたって、弟のソワールと庭で遊ぶ約束をしているのだ。朝食も庭で一緒に摂ることになっている。前の時からこんなに仲良くなるとは思わなかったが、嬉しい誤算と言うやつか。待たせたりしたら悪いし、早く行くに越したことはない。

きっと今世ではどうしたって離れることになるだろうから、なるべく今のうちに彼がして欲しいことを叶えてやりたいのだ。


ティパーを起こして、部屋のドアを開ける。

そういえば、最近あの赤髪の執事?護衛?君を見てないな。仕事が忙しいんだろうか。

結局名前を聞きそびれたままだし、早めに聞いておきたいけど…まあ、まずはソワールと遊ぶのが先だよな!


遅れないようにと、俺は早足でソワールの元へと向かった。


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