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3.人生計画

季節は移ろい、緑が生い茂る時期になった。

雲ひとつない空には、太陽がうざったいくらい輝いている。


「セミがうるせぇ……」


汗を拭いながら世話焼きの使用人が用意してくれたジュースを口に含む。机の上の、試験用の教材たちと格闘して1時間半。パンクしそうな頭を冷やすため、溶けかけの氷が入ったグラスを額にくっつけた。


余談だが、義弟のソワールは相変わらず、父親が雇った家庭教師に魔法を教わりながら訓練しているらしい。学園に入学する前から魔法を習い始めるなんて大変そうだが、義父の言うことには逆らえないのだろう。


学園に入学するまであと約8ヶ月。俺は未だに少しも進展しない今後の計画について悩んでいた。


まず、1つ目の“自立計画”。

本来貴族の、特に長男のお坊ちゃまは、輝かしい将来が約束されている。親から爵位を譲られるか、王家の人間から任命されればそれで就活は終わりだ。

しかしながら、父親は俺に爵位を譲る気は毛頭ないだろうし、生憎王家の人間の知り合いなんて1人もいない。


だから俺は国お抱えの役人や官僚あたりの職に就こうと思う。そういう仕事はこの世界では()()が必要だ。

試験は身分関係なく誰でも自由に受けられるから、逆に言えば、資格さえあれば年齢や家柄など関係なくそういう仕事に就くことができる。

父親やほかの貴族から疎まれるような、たいした備蓄もない世間知らずのお坊ちゃまが独立できて、尚且つほかの貴族に有無を言わさず就ける仕事はそれくらいしかない。


問題は、その資格をとるための試験の難易度がえげつないほど高く狭き門であるということだ。試験の範囲は魔法から政治のことまで多岐にわたる。したがって、前世の大学受験を彷彿とさせるような、あの恐ろしい勉強量を自力でこなさなければならない。

うわ、考えただけでも気が滅入りそう……。今から死に物狂いで勉強すれば、少しはできるようになるはずだ。多分。

金銭面では大丈夫なように、お小遣いも貯めるようにしよう。


義弟くんには大変申し訳ないが、この家で俺の代わりに父の相手を頑張って頂きたい次第だ。なんてったってこちらは生まれた時から人生ハードモードなので。多分俺みたいな扱いはされないし、大丈夫大丈夫。


閑話休題。


そして、2つ目の“危機回避計画”。

ノーチェの主な破滅の原因についてだ。


この話をするには、まずこの世界のルールについて話さなければならない。

そもそもこの世界では、魔導書を通して魔法を扱う。魔法は1人につき大体1属性。そして、魔導書は持っている魔力の属性に対応する。

たとえば、炎系の魔力の持ち主からすれば、水系の魔力にしか反応しない青の魔道書はただの紙の束に過ぎない。


そして、この世界で不吉の象徴とされる、四つ目の黒い龍の絵が表紙に記された、禁忌の魔導書。対応する魔力を持つ者が触れるのは法律で禁止されている。触れた時点で近いうちに亡くなるのが確定するレベルでやばい代物だ。

漫画“夢現(ユメウツツ)”の記述では正体不明の黒幕が甘い言葉でノーチェを手玉に取り、ノーチェもその本自体に魅入られていた。そしてそれが引き金となって、ノーチェは破滅、と。

……無理ゲーでは???第一、触った時点でアウトなのにどうやって回避しろって言うんだよ。しかも、本編で禁忌の魔導書を手にする前に、そもそもノーチェ自身問題を起こして実の父親に勘当されてるし。

はー、引きこもりたい。切実に。


こういうわけで、たいした対策も思いつかないままぼけっとしているのだ。しいていえば、怪しい人には気をつけましょうということと、試験勉強を頑張りましょうということだけ。


話が長いって?オタクは好きなこととなると話が長くなるもんだ、許せ。


(……ちゃんと、生き残れるかな…)


ああ、だめだ。弱気になるな、俺。

頬を両手でペチンとたたく。

残ったジュースを飲みきって、俺は再度机に向かおうとした。


トントンと扉を叩く音がして、振り返るとそこには使用人が居た。


「ノーチェ様、フォンセ様がお呼びです」


……え?

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