↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

[超短編] 缶コーヒーを持った救世主

作者: 細波ゆらり
掲載日:2022/12/24

 月曜日の朝7時半。

 都心に向かう地下鉄は満員だ。2か月前、痴漢らしき人物に遭遇したのを境に、乗る車両を変えた。


 私の駅からでは、吊革には掴まれない。ハイヒールで揺れに堪えるのは辛いため、最初の乗り換え駅で降りる人が掴まっていた吊革を狙う。

 この車両の住人になって1週間ぐらいで気がついた。仕立てのいいスーツのサラリーマンが、そこで下りると。だから、毎日すぐ後ろで待機する。


 今日も、彼が下りるものと思い、電車が止まると、扉までの道を譲るために、少し場所を空ける。


 が、動かない。驚きと残念さと恨めしさで、その後頭部を眺めたとき、その頭が振り返る。

「どうぞ?」

 吊革を譲られたと気づき、礼を言って代わってもらった。背中しか見てなかったが、同じぐらいの年の青年だった。



 それから1週間、ほとんど毎日、その謎の交代劇があり、さすがに、少し気味が悪い。2か月前は痴漢だったが、これはストーカーなのでは…


 翌週から、また車両を変え、吊革には掴まれないが、心穏やかな日々が始まった。

 会社のある駅で降り、足早に改札に向かう。


「あの…」

 無言で歩くスーツの群れの中で、誰かの声がする。


「あの!」

 もう一度聞こえた声は、さっきよりも近く、私に向かって言っているようだ。振り返ると、あのサラリーマンだった。


「はあ…」

 やはり、ストーカーか…

「これ。」

 ストーカーは、いきなり名刺を差し出してくる。

 思わず、両手で受け取ってしまうサラリーマン魂が悲しい。人の波に乗って歩き続けるが、周囲の人も訝しげだ。


 名刺には、誰でも知っている旧財閥系の商社の名前。住所は私の会社のすぐそばだ。


「あなたと知り合いたいです。身元は怪しくありません。もし良ければ、昼食を。」


 なんと言えばいいのやら。

 そこに、50代の男性が首を突っ込んできた。救世主か!


 人の流れを妨げない場所に誘導される。

「彼の同僚です。」

 彼もまた名刺を出してくるので、両手で頂戴する。事業部長 鈴木義孝とある。さらには、バッグから缶コーヒーを取り出すと、それも渡してくる。


 いまどき、常温の缶コーヒーを、満員電車で持ち歩く意味がわからないが、その奇妙な感じに警戒心は消えてしまった。


 その日の昼、三人でランチをし、2年が経つ。


 今日は、鈴木さんが仲人として私たちの結婚式に参列してくれる。あの日、常温の缶コーヒーがなければ、ストーカー認定されていた私の婚約者を見ると、幸せそうな笑みをこぼした。

2022年12月〜2023年1月 連載中

「喪服の乙女の異名をもつ嫁き遅れ令嬢が恋に落ちるまでの七日間」


異世界恋愛、魔法なし、ざまあなし、1月中に完結です。


あらすじ

家族大好き、自分の街が大好き、仕事大好き、悲壮感のない嫁き遅れ令嬢18歳。

恋が何かも知らない状態から、真っ逆さまに恋に落ちるまでの七日間。

全身が震えるほどの恋? 人生を変える恋?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。