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鋼核使いの降格者  作者: 作間 直矢
3/4

降格者と呼ばれた死神 3


 「なにッ!?」


 動揺し声を荒げるは鎖の男。

 それもそのはず、確実に殺せる威力の鎖を打ち出したはずが、それを弾いて健在するは格下と思われた警備兵。


 だが、その警備兵が、何故か、姿を変えてそこに居た。


 ―――その姿は漆黒のマントを腰に携え。


 ―――黒鉄の外装を纏い。


 ―――赤い瞳孔を隠す仮面を被っていた。

 

 まさに死神の様相を模した姿、屑鉄と呼ばれた能力が共鳴して具現化した、漆黒の降格者がここに顕現する。


 「てめぇッ!?鋼核者だったのか!!」

 「―――残念ながら、俺は鉄屑使いだ」

 「ぬかせッ!!そんな奴聞いた事ねぇぞ!!」


 怒り狂いながら鎖を操り、自由自在に展開するそれは赤原目掛けて穿つ。

 先端に返しの付いた錨状の刃が繋がり、高速で突き進んで鎖は音を立てる。


 ――――ジャララララッ!!


 縦横無尽に軌道を変えて、壁や天井を軸に鎖は繋がれる。


 「っぐ……!?」


 その奇抜な攻撃方法は蜘蛛さながらの糸であり、回避が遅れる。


 「おせぇッ!!」


 右腕を引き抜くと、鎖が大きくたわんで黒い外装を掠めて捕縛する。


 「このまま引きずり殺してやるッ!!」

 「―――っ……」


 赤原の腕に巻き付いた鎖は、尋常では無い力を伴って引き付けられる。


 ―――ガギャギャギャッ!!!


 漆黒の降格者は、ボロ雑巾の様に引きずられて壁に打ち付けられた。


 「がはっ……」

 「大した事ねぇな、お前軍の鋼核者じゃねぇのか?」

 「っぐ……ごほっ!がはっ!……言っただろ、俺は人口鋼核を使っている唯の警備兵だ」

 「またそれかよ、つまんねえ冗談だな、事前の調査ではこの研究所には鋼核者は居ないって     話だ、お前はどこの組織の人間だ?」

 「―――お前も、話を聞かない奴だな……俺は―――」


 片腕に巻かれた鎖は、僅かに音を立てて動く。

 残った片腕には鉄屑の残滓、抽出された鋼核粒子が集まって一振りの黒剣が出現する。


 「―――俺は、降格者だッ!!」



 ―――瞬間、繋がれた鎖を勢い良く断ち切ってその呪縛から解き放たれる。



 「なにッ!?」

 「蜘蛛野郎がッ!!こっちだッ!!」


 わざとらしい煽りを口にして、外壁を破壊しながら外に出る。

 それは相手の能力である鎖が屋内での戦闘を有利にするため、少しでも不利である外へ誘導するための挑発。


 「このゴミがぁッ!!」


 激しやすいその性格が災いし、乗せられるがまま屋外へ飛び出ると三本の黒剣が同時に投擲され鎖の男を狙う。


 「うざってぇッ!!」


 イィンッ……!!


 黒剣が弾かれ、鎖は地面を這って赤原を追う。

 直線的な動きで接近する鎖は、三つの錨刃を差し向けて追尾する。


 ―――ジャララッ!!


 だが急激に交差する鎖は、その直線的な軌道を読ませない為に熟練の操作技術によって自由自在に動き回る。


 「死ねぇ!!雑魚がぁッ!」

 「―――流石に……強いな」


 遮蔽物の少ない外であっても、鎖蜘蛛と呼ばれる彼の攻撃は緩むことなく続く。

 しかし、先程とは違い回避出来ない程の攻勢ではなく、赤原は僅かな隙を掻い潜って反撃を仕掛ける。


 「はぁッ!!」

 「ッ……!!この雑魚の分際でッ!!」


 鎖蜘蛛と呼ばれるこの男は、確かに焦っていた。


 (なんだ……コイツ、……動きこそ人間的だが、鋼核者らしい能力が何一つ無い)


 不気味な程深い漆黒、その外装とは裏腹に静かすぎる戦い方。


 (あの黒い装甲は身体機能を上げる為だろうが……、能力が鉄屑みてぇな剣を生成するだけな訳がねぇ……、何か、あるはず)


 警戒しながら中距離を維持し、鎖を展開してジリジリと追い詰める。

 

 合間に黒剣の投擲を許しつつも、鋼核能力の圧倒的な差を利用した戦い方は単純故に強力であり、次第に勝敗が見えてくる。


 「もらったぁッ!!」


 ―――勝機。


 それを確信した鎖蜘蛛は出し惜しむことなく六本の鎖を展開して四方から刃を向ける。

 左右、後方、どの角度からも避けられぬ一撃は、必殺の威力と確実性を持って赤原を襲い、その命を奪う。


 「――――な、に……」


 ―――はずであった。


 「―――それが、お前の限界か蜘蛛野郎ッ!!」


 刹那の判断であった。

 勝機と思ったその攻撃は、一瞬の内に死の予感を巡らせる。


 「はあぁぁぁッ!!!」


 狂気的な判断で前進する黒き死神。


 逃げ場を失った赤原は、鎖の僅かな隙間を縫って這うが如く、前に進みその距離をインファイトの間合いにする。


 「……くそがぁッ!!」


 射程を全開にした鎖は鋼核生成の限界であり、鎖の再生成、もしくは引き戻すのにも隙が出来る。


 ―――その無防備な状態に、無慈悲な程強烈な一撃を叩きこむ。


 「はぁッ!!!」


 黒い手甲を纏った右手は、鎖蜘蛛の顎を捉えて振り抜く。


 「っご……!?」



 ―――顎、粉砕。



 中、長距離の戦闘ばかりの鎖蜘蛛には、至近距離での格闘戦術など経験は無く、強烈な殴打を貰ってはふらついて崩れかける。

 しかし、意識が途絶えそうな中でも必死に鋼核能力を操作し、起死回生の反撃を繰り出して赤原の背後に鎖を回す。


 「がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 粉砕された顎をだらりと開けて、血だらけの口で声にならぬ声で叫ぶ。


 「――――終わりだ」


 が、その気迫を冷静に読み取り、落ち着き払って背後の一撃を躱す死神。


 「―――がはッ!!」


 両手に生成された黒剣、それを両肩に刺し貫いて鎖骨から腕を斬り抜く。

 飛び散る血潮、切り離された腕、そして舞い散る鋼核粒子。


 ここに、戦いの勝敗は決し、血に染まった一人の降格者が誕生した。



 「………」



 しばしの沈黙。

 その余韻が身体に響き渡ると、漆黒を纏った彼は片膝を着いて呼吸を荒くする。


 「―――っぐ……はぁ…はぁ…流石に、五つ同時使用は……無謀…だったか…」


 共鳴して黒く光る鉄屑。

 それは徐々に光を失い外装が剥がれ、黒い粒子を空に還していく。


 『こちら鋼核犯罪対策課、現在鋼核者二名が現場に到着する』


 そこに間の抜けた報告が入り、彼の緊張は一気に緩んでその意識を黒く染めて倒れ伏す。


 「………相変わらず、遅すぎだ」


 仕事が遅い鋼核犯罪対策課、通称“鋼鉄”に頭を痛くして、彼は静かに目を閉じては後の仕事を彼らに任せたのであった―――。


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