降格者と呼ばれた死神 2
「降格者、お前の持ち場はここだ、せいぜいサボるなよ」
「―――了解」
―――数日後、鋼核犯罪対策課から降格し、新たな配属先からも嫌味が如く呼ばれる。
降格処分という前例の無い事態に無能のレッテルを貼られ、この場所でも孤立し虐げられる鉄屑の赤原。
「しかし……警備先が鉄屑の研究所、……流星の欠片を研究する場所とは……これも嫌味のつも りか、まぁ…仕方ないか」
鉄屑とは、三十年前に落ちた流星の欠片。
その調査を進めると同時に、兵器運用としての研究も進んで鉄屑と呼ばれる身体装着型兵装が開発された。
「研究所の警備も案外暇だな……、降格処分も悪くないかもな、………ん?」
広い敷地を隔てる入口、そこを警備する赤原は青い空を見上げてその違和感を察知する。
高速で飛翔する人影、それは尋常ではない速さで敷地内の中央に急降下して、墜ちる。
―――バガァンッ!!!!
凄まじい破壊音を立てて建物に衝突するそれは、落下の勢いを利用して屋内に侵入する。
と、同時に緊急アラートを告げるインカムが鳴り響き、現場に危機感と焦燥感が走る。
「―――鋼核者かッ!?」
配属初日に訪れた緊急事態、その現実を受け止める余裕すらなく対処に追われる。
『研究所の上空から鋼核者が出現ッ!!現在交戦中ッ!!至急応援をッ…!』
悲痛な叫びに似た応援要請は、誰にも返答される気配が無く一拍置いて無音となる。
その間に耐えられず、役職の権限を越えた発言を返して赤原は現場に向かう。
「こちら入口側警備ッ!今本部に応援要請の信号を送った!俺もそっちに向かう!なんとか耐え てくれ!!」
『――ッザ……ザザ……』
しかし、その返答は虚しくもノイズと共に消え去って答えない。
煙の上がった施設中央に近付き、徐々に戦闘が発生した現場に近付くと警備兵の死体が転がり始める。
「―――っつ……」
―――その惨状に過去の記憶が重なり、気分を悪くして歩を進めて考える。
屑鉄の装備を纏った警備兵を突破する鋼核者は、その行動を裏付ける様に強力な能力を有している。
故に辿り着いた先で戦いが始まれば、一方的に殺されるは必然であり、無駄死をするために走っている、そう思考が巡る。
「……悪いな、借りるぞ」
現状の装備では太刀打ちできない事を読み、倒れ伏した兵からそれを取る。
―――流星の欠片を。
正式名称を装着型人工鋼核。
蔑称を鉄屑、奴隷の首飾り。
その二つ名に違わぬ見た目の、鈍く光る鉄輪をはめ込む。
一人、二人と次々に拾って装着し、両腕と両足、そして最後に首に着けて四人の亡骸から自身の物を含む計五個の鉄屑を飾る。
「流石に今回は……死ぬかな」
鋼核犯罪対策課での経験を踏まえても、ここまでの奇襲は無く、かつ異様な戦闘風景を見て死の覚悟を決める。
――――ギャリッ……!!ギャリ…!ガガガッ…!!
徐々に聴こえる鎖の音。
それは擦れた鉄の摩擦音、などと言える程優しい物ではなく、暴走した自動車がのたうち回るかのような残響。
臆さずに進み、天井が崩落して開けたホールに辿り着くと、そこに異形が一人。
「あぁん?なんだ、もう一人ゴミがいたのか」
蔑んだ視線をこちらに向け、身体の周りに鉄の鎖を渦巻きながら佇む男。
鋼核者特有の能力、術者の深層心理を写した様々な姿形をした物質具現化能力。
―――その力こそが、鋼核。
「この鎖……そうか、“鎖蜘蛛”と呼ばれる鋼核者がいたな、それがお前か」
「だったらなんだ?雑魚風情が俺様の正体知ったところで、何の意味がある?」
「―――それもそうだな、意味なんて、無い、な……」
「なら、……さっさと死ねや!!」
―――ヒュンッ!!
鉄がしなり、高速で叩きつける風切り音を轟かせては鞭の様に向かう鎖。
赤原の頭を叩き割るそれは、回避不可能な速度の軌道を描き、接近する。
もはやこれまで、誰が見てもそう思える状況に、装着した五つの鉄屑が共鳴して黒い光を撒き散らし、戦いの火蓋を斬って落とす―――。