降格者と呼ばれた死神 1
三十年前、この国に一筋の流星が流れた。
それは墜ちて地表を焼き尽くし、多くの犠牲者を出した。
しかし、それ以降この国では特殊な力を持った人たちが現れ始め、人々は彼らを畏怖と憧れを含んでこう呼んだ。
―――鋼核者、と。
「お前は降格処分だ、赤原洋助」
そして現在、ここ鋼核犯罪対策課、通称“鋼鉄”と呼ばれる組織にて一人の男が降格処分を言い渡され、驚いた顔をしている。
「……随分いきなりですね、理由を、教えて頂けませんか?」
「いきなり?私にはそうは思えない、報告書や君の活躍を見る限り、君はこの鋼核犯罪対策課には適していない、そう判断したまでだ」
「俺が……鋼核ではなく、鉄屑だから、ですか?
「鋼核も鉄屑も関係無い、君の能力が足りない、それだけだ」
「そう、ですか……」
鋼核と鉄屑と呼ばれる二つの能力。
その後者である力を使用する赤原は、鋼核者特有の差別意識に嵌められては、理不尽な処分を押し付けられる。
「そもそも、鋼核に対して鉄屑が有効であるはずがなかった、
君に期待した私が馬鹿だったよ、これは私のミスだ」
「………」
「明日からは施設警備にて務めを果たせ、それが鉄屑のお前にお似合いだ」
「了解、しました……」
冷たく突き放されると、赤原は暗い表情で部屋を出る。
―――その道中、廊下の道端で嘲り笑う鋼核者が二人。
彼らは赤原の元部隊員であり、上司にあたる鋼核者。
そんな彼らが赤原を見て声を漏らして笑い、わざとらしく声を掛ける。
「よぉ!赤原!随分辛気臭い顔をしてるな?ええ?」
「―――先輩……この事を知っていたのですか?」
「はッ!知っているも何も、俺らが直訴して今回の件を起こしたんだ、悪く思うなよ?」
「何故……そんな…」
「てめぇが鉄屑だからだろうがぁ!!屑は屑らしく大人しくしてろ!!」
「やはり、それですか……」
鉄屑、そう呼ばれる力。
それは鋼核と似て非なる力であり、故に鋼核者が目の敵にする非凡な能力。
鉄屑と呼ばれる装着型武装は適応者であれば使用できるが、突出した能力を備えている訳ではない為、鋼核者に及ぶことは無い、そう思われた。
「鉄屑の分際で生意気なんだよ!鋼核者でもない癖に強い振りしやがって!!」
「……俺はただ、自分に出来る事を全力でやっただけです、どうして…」
「それが気に食わねぇんだ!!真面目ぶりやがって!!」
格下と思われた赤原が、実際は並の鋼核者以上に活躍していた。
それを快く思わなかった彼らは、虚偽の報告書や嫌がらせを続け、今回の件に至る。
「まッ!せいぜい警備兵として頑張ってくれや!」
「お前にぴったりな役職だな、鉄屑!」
「……」
散々な言われ様を容認し、その場に立ち尽くして二人を見送る赤原。
「―――はぁ…面倒だ」
そして、この現状に溜息をついて呼吸を整える。
どうにも出来ない環境を悪く思うこともせず、ただ言われた通りに行動するだけ。
「……帰るか」
意識を切り替えて帰路に着き、重くなった足取りで戻り、その日を終えた。