異世界召喚魔法の間違った使い方〜王子はメイド長エレナを辱めたい〜
ハイファンタジーの日常ものです。
気軽に見て頂きたいです。
ここは王都の地下深い儀式の間。
広大で高さもあるこの広間は地下にあるとは思えないような空間であった。
広間の中央には青く光る魔法陣がある。
何かの儀式をしているのか...三つの人影がそこにはあった。
しばらくすると、魔法陣の光が強くなり稲妻が広間を駆ける...
「キタァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
今までのシリアスな空気とは一転し、場違いな...
アホな雄叫びを上げたのはこの国の王子ヴィンセント。
世界最高の魔導師と言われ、人類有数の知能を持つとも言われている少年だ。
また眉目秀麗でその金色の美しい髪と澄んだ青い瞳は世の女性の憧れの的だ。
「「クソォォォォォォォォォォォ!!!!」」
残りの二人...アホどもも叫んでいた。
一人は勇者アルフレッド。
人類最強と言われるこの少年。
黒髪と黒い切れ長な目が特徴的である...
あと明らかに勇者とは思えない丸々と太った体も特徴的だ。
もう一人は魔王ガーランド。
人類を滅亡させようとする魔族の王である。
彼の紅い髪は炎のように煌めき目を引く。
そしてヴィンセント王子にも負けず劣らず美少年だ。
だが、頭には妙な鉢巻きをつけ、ローブの内側に来ている服には女性の顔が大きく描かれていた。
魔王ガーランドが口を開く。
「どうしてだッ!?なぜ拙者の推しのアイドルグループ【ヴァルキュリア】の"桜庭カレン"ちゃんの写真集が出ない!!」
何を言っているか、さっぱりだ。
続けて勇者アルフレッドも口を開いた。
「うるせーよ!アイドルオタク!それよりも新作アニメの【リストラサラリーマン異世界転生、生まれ変わったら最強勇者だったけどパーティから追放された?!】の"アリシア"ちゃんのフィギュアが先だ!」
こちらも何を言ってるかわからない。
「今回の異世界召喚ガチャは余に軍配が上がったァ!!わはははははははははッ!」
こちらの馬鹿...ヴィンセント王子は何やら薄い板のような物を持って高らかに笑う。
するとこちらの視線に気づいたのかヴィンセント王子は私に話しかけてきた...とりあえずキモい。
「キモい...って目で見るなメイド長エレナ!!」
王子は私、メイド長エレナに指を差しながら吠える。
私は王子の手に持っている物に目が行った。
その薄い板には女性が裸を晒している絵が写っている。
その絵は絵画というよりも、現実の見た目をそのまま切り抜いたようなものだった。
「ハハッ!これぞ余の女神、セクシー女優"霧島アンナ"の新作DVDだッ!」
やっぱりコイツらが何を言っているか理解出来ないし...する気もない。
呆れた私は広間を見渡す。
そこには異世界から召喚された大量の"もの"が山積みとなり散乱していたのだ。
ーーーことの発端は一年前。
世界最高の魔導師であり、この国の第一王子ヴィンセントは予言の書にあった異世界から来る救世主"聖女"を召喚しようとした。
だが異世界召喚魔法はこの王子の才覚を持ってしても単独で成功させる事は難しかった。
召喚出来たのは人ではなく、一冊の"本"だった。
魔法陣は召喚の衝撃で煙に覆われていたが、確かに魔法陣の中央に一冊の本が置いてあったのだ。
「こ、これは...」
王子はその本を手に取ると、そこには裸の女性が大勢描かれていた。
王子は更に本の中を確認する。
すると、そこには女性の裸だけでなく、男女の営みの最中も描かれていた。
「なんなんだこれはッ!?」
王子はそう言うと暫く硬直した。
「エレナ...すまん。少し腹の調子が悪いようだ...トイレに行ってくるので少し待っていてくれ」
王子は何やら"本"を持ちながら落ち着かない様子だった。
私は事態を察し、王子に使い捨てのタオルを渡す。
「わかりました。用が済んだらこちらに処理して下さい」
「違ァァァァァァァァァァァァァァァウッ!エレナさんが考えているのとは絶対違うからね?!」
王子は慌てた様子で私に言う...がタオルは返して来ない。
「別に恥ずかしい事では無いかと。生理現象ですので...」
「じゃあ!せめて気づかないフリでもして、そっとしてくれないかなッ?!」
そう言って王子は足早に広間を後にした。
戻って来た王子が少しスッキリとした顔をしていたのは言うまでもない。
その日から王子は自室に篭り異世界召喚の研究にのめり込んだ。
どうやら異世界召喚には膨大な魔力が必要なようだった。
「クソッ!どうやっても余ひとりでは召喚のペースが足りない!余だけでは一週間に一回が限界だ...どうすれば」
王子はまるで世界の終わりかのように絶望していた。
この一ヶ月で行った召喚は4回。
いずれも異世界のアイテムのみの召喚で"聖女"の影も形も無かった。
「このペースでは"DVD"なるものの中身を確認するのに一生を費やしてしまう...」
王子は召喚された輝く円盤と掌くらいの大きさの黒い光る板を見ていた。
この光る板には私も少し驚いた。
光る板は"スマホ"というらしく、こちらの疑問をすべて答える小さな賢者の如くき存在だった。
王子はこのスマホに何時間も異世界の事を聞き出し、学んでいった。
しかし、別れは突然起きた。
スマホがある日、光らなくなり、そして王子の問いに答えることは二度となかった。
「決めた...」
王子は静かに呟いた。
「魔力が無いなら、補えばいいのだ...」
そしてこの地に、王子に匹敵する強大な魔力の持ち主が召喚された。
それが勇者と魔王であった。
そして今に至る...
「ふふふ...アル、ガーよ。貴様らに朗報だ!」
王子は勇者と魔王に不敵な笑みを向けていた。
「なんだよヴィンス。もったいぶるなよ...」
勇者はバリバリと音を立てながら異世界の食べ物"ポテトチップス"を口にしながら不機嫌そうに言う。
「...これだ!」
王子は懐から拳程度の光る石を出す。
これは王国の鉱山から採取される鉱石【精霊石】だ。
精霊石は魔力が宿っている天然の鉱石で人体に使用すると失った魔力が回復する代物だ。
「これで今日もう一度召喚が出来る?!」
魔王は期待の眼差しで精霊石を見つめる。
彼らは早速、精霊石を砕き魔力を回復させた。
一応、あの石ひとつで屋敷が買えるくらいの金額なのだが...
三人は再び魔法陣の前に集まる。
魔法陣に手をかざし力を込めている。
稲妻が再び駆ける。
魔法陣が光り、召喚が行われた。
召喚されたのは...
ーーー卑猥なメイド服だった。
「これはッ?!」
王子が服を手に取る。
「これは【百獣のメイドたちを従えるのは俺様だッ!】の猫耳メイド"キャロル"の衣装だ...」
口を開いたのは勇者アルフレッドだ。
メイド服はどうやら"エロゲー"なるものの衣装のようだ。
メイド服は私が着ているものとは違い、スカート部分がやたらと短く、腕や胸の露出が多い扇状的な造形だ。
全体的にフリルが多く施されており、そしてよく分からないが、猫の耳のような髪飾りもある。
三人は黙りその場に立ち尽くす。
しばらくすると三人は私に視線を向ける。
きっと、ろくな事ではない。
王子「エレナさん...」
勇者「エレナ氏...」
魔王「エレナ殿...」
一斉に男たちが口を開く。
「嫌です」
三人は崩れ落ちた。
どうやらあの衣装を私に着せたかったようだ。
「頼むエレナ。お前ならこの衣装は似合うはずだ...お前の綺麗な黒い長髪、人を見下した様な冷たい紅い瞳、そのすべてが美しい...だから頼む!」
「嫌です」
ていうか、コイツら何をしているんだ?
いい加減に世界を救うなり、滅ぼすなりしろよ。
私が心の中で悪態をついていると、殺気にも似た気配がした。
いや...殺気にしては、ねっとりとした気持ち悪い感覚だ。
私はこれでも元殺し屋だ。
それも一応、世界で指折りの実力を持つ...
そんな私でも身構える程の感覚...その正体はあの三人だ。
腐っても大魔導師、勇者、魔王の組み合わせだ。
その実力は世界最強...
「ならば力ずくだァァァァァ!!」
バカ王子が口火を切る。
王子は空間全体に魔法陣を展開。
そこからは無数の鎖が現れ、私に襲いかかる。
私は現れた無数の鎖を文字通り縦横無尽に避ける。
壁や高く位置する天井も駆使し広間を駆け抜ける。
「は、はやい!」
バカ王子は魔導師だ。
身体能力はこちらが遥かに上なので鎖の操作が私の速さを捕らえきれないでいた。
「「任せろぉぉぉぉぉぉおおお!!」」
勇者、魔王も参加してきた。
まったく...クズどもが。
彼らが本格参戦する前に手を打つ。
私は勇者の前に即座に移動した。
彼の前で私は踏み込みを強く行い、肘を前に突き出す。
東洋に伝わる"発勁"だ。
「ぐはッ!」
勇者は広間の遥か後方に吹き飛び...消えた。
私は続いて魔王の上空に跳ぶ。
空中で身体に回転を加えを魔王の脳天に踵を叩き落とす。
「んぎゃ...」
魔王は文字通り床に串刺しになる。
「な、なにかに目覚めるぅぅぅぅぅ...」
魔王が何か言っているがとりあえず放っておこう。
最後はバカ王子だ。
だが不覚にも私の足元に迫った一本の鎖に気づかなかった。
その鎖は私の脚に絡まり空中に吊るされる。
「ハハハッ!これで観念しろ!」
勝ち誇った顔でバカ王子は私に宣言してきた。
これが私の主かと思うと残念でならない...
無数の鎖は私に絡み付き身動きを封じに来る。
邪悪な笑みでこちらを見る王子を私は一瞥した。
「これだけ鎖が絡みつけば逃れられないだろう?」
ーーーふぅ...と私は息を吐く。
同時に私は肩に力を込めた。
ゴギッ...
鈍い音が私の肩から聞こえた。
すると、私に絡み付いていた鎖の塊の中に隙間ができた。
その一瞬を私は見逃さない。
私は縄抜けの要領で鎖から抜け出す。
「なにぃぃぃ?!バカなッ?!」
バカ王子が鎖を操作する前に私は王子の目の前に到着した。
「何か言い残す事は?」
「ひぃ...すまなかっーーー」
王子は恐怖で顔が歪んだ。
だが、いくら謝ろうともう遅い。
私は王子の胸ぐらを掴み、王子の腹部に腰を当てる。
そして力のまま背負い投げをした...
バカ王子は床に叩きつけられた衝撃で白目を剥いていた。
私は勇者、魔王、大魔導師を排除した。
どうやら世界を救うのは私だった様だ。
少なくとも、コイツらの魔の手から世界中のメイドは救った...
目を覚ますと余の目の前にはエレナがいた。
「少々...やり過ぎました。お許しを」
相変わらず、このメイドは無表情な顔で淡々とものを言う。
しかし、余はそれが嫌いではなかった。
ふと後頭部にある柔らかい感触に気づく。
「ーーーーーッ!?」
どうやらエレナの膝に余の頭が乗っているようだ...
恥ずかしさや照れで顔が熱くなるのが分かった。
しばらくして別な視線がある事に気づく。
勇者のアルと魔王のガーがこちらを見てニヤニヤと笑っていた。
「見るなァァァァァァァァァァ...」
余の叫びだけが広間に響いた。
ほんの一瞬だけ、エレナが笑ったような気がしたが、きっと気のせいだろうな。
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