新たな任務
大使館で指示された央都西署は央都の旧市街地の中心部にあった。石造りの古めかしい建物の群れを抜けた先にその監獄を思わせる不気味な建物はあった。
「これは……また……」
三好は苦笑いを浮かべつつ、重武装の警備員の脇をすり抜けるようにして警察署の建物に入った。
どうにも古めかしい建物の中は静寂に包まれていた。
そのまま受付に置かれた呼び鈴を押すと、白髪交じりの老警察官が現れる。
「央都警察武装隊に用があるんだけどね」
間抜けな調子でそう切り出した三好を明らかに迷惑そうな表情でその老警察官は見つめた。
「三階にあるよ、指揮所が。まあ、前の隊長が死んで、『あの男』が席に付いとるがね」
そう言ってそのまま奥に下がろうとする老警察官の背中を見送ると三好はそのまま奥にあったエレベータに足を向けた。
古めかしいエレベータのボタンを押し、静かに立ち尽くす三好はぼんやりと立ち尽くしていた。
「『あの男』……ねえ」
エレベータの扉が開き、三好は一人でそこに乗り込む。
そのまま三階に到着すると、そこには人の気配が無かった。
三好はそのまま珍しいモノでも見るように部屋を一つ一つ覗き見ながら廊下を進んだ。
一番奥に『武装隊隊長室』と書かれた札が出ている部屋があった。
「ここか」
三好はそう言うとそのまま扉をノックした。
『入れ!』
甲高い男の声が響くのを聞くと、三好は静かに扉を開いた。
その部屋に入った三好は派手な応接セットに目を引かれた。
そこには一人の赤い顔のやせぎすの小男が座っていた。
「これはこれは……一体戦場で何をされてこんなところに?」
下卑たその口調に三好は思わず顔をしかめた。ソファーに腰かけた男の口元は緩み、手には洋酒の入ったグラスが握られていた。
「なあに。少々当てが外れたもので……情報将校としては面目ない限りです」
三好はそう言うと隊長の机と思われる大きな机ではなく男の座っているソファーに腰かけた。
「俺は林達夫大尉。貴様と遼帝国内閣官房とのつなぎをやるのが仕事だ……まあ、仲良くやろうじゃないの」
林と名乗った大尉が震える右手をゆっくりと三好に差し出した。
「握手ですか?敗色濃厚のこの戦況の中、昼間から酒とはずいぶん暢気なものですね」
三好は握手の手を伸ばしながら嫌味を言ってみる。
「俺が指揮してるわけじゃないからな。戦争の勝敗は偉い人に言いな」
そんな無責任な言葉を残して林は部屋を出て行った。
取り残された三好はじっと林の出て行った出口の扉を眺めていた。
「糞ったれ……」
吐き捨てるようにそう言うと、三好は自分の机になる武装隊隊長の執務机に脚を向けた。
そこには長いこと使っていない通信端末とモニター、それに一枚のチラシが置いてあった。
「なんだ?これは……」
三好が手に取るとそれはバーのチラシだった。
「なるほどねえ……武装隊本部には顔向けできねえ連中か……まあ、俺向きだな」
そう言って三好は手にした荷物を応接セットに投げるとそのまま武装隊隊長室を後にした。