大使館にて
三好大造と名を変えた嵯峨惟基は手荷物を受取るとそのまま央都の甲武国大使館に出頭した。
遼帝国と甲武国は同盟関係にあった。戦意の低い遼帝国軍は各地で甲武国の属する『祖国同盟』の足を引っ張り続ける存在だった。各地で戦線を拡大しては敗退し、『祖国同盟』の甲武国軍やゲルパルト帝国軍の手を煩わせる『お荷物』のようなものと認識されていた。
この甲武国大使館も厭戦気分が漂う遼帝国にあってはテロの最重要目標とされ、その出入り口には金属探知機をはじめ、様々な防御用機材が運び入れられていた。
三好はそのまま厳戒態勢の大使館に入るとそのまま一等武官の執務室に足を向けた。
「三好大造少佐。ただいま着任しました」
どこか抜けた調子でそう言う三好にカイゼルひげを蓄えた武官は執務机でキーボードをたたきながら迎えた。
「君は……まあいい」
おそらく自分の経歴書が軍上層部により捏造されたものであることくらいは腹芸で知ってはいる。そんな雰囲気の武官を立ったまま三好は見つめていた。
「遼帝国の治安の低さはすでに限界点を突破している」
「でしょうね。同盟国の大使館がハリネズミのように武装しているなんて、普通の状況じゃないことくらい分かりますよ」
三好はそう言って笑った。そして、おそらくここで告げられる任務が治安維持部隊の指揮官としてゲリラを狩れと言うことだと理解した。
「君には身分を隠して央都警察の武装隊の指揮をしてもらう」
「やっぱりそれですか?」
間抜けな三好の答えに明らかに不服そうに武官は顔を上げた。
「央都西警察に指揮所がある。そこで……『少し変わった経歴の部下』を使っての治安維持活動が主任務だ」
「『少し変わった経歴の部下』?」
三好は思いもかけぬ武官の言葉にその言葉をおうむ返しに繰り返していた。
「そうだ。少し厄介な連中だが……君は諜報畑の経験がある。コミュニケーション能力は自慢なのだろ?」
笑いかけてくる武官を三好は鋭い目つきでにらみつけた。
「まあ、いい。それとこの作戦行動の指揮権は、遼帝国にあるんだ。我々甲武は人材は貸すが、指揮権は持たない」
「?」
武官の言葉に三好はけげんな表情を浮かべて上官の表情を覗き見た。
「つまりだ。君等の行動に関しては甲武国は一切関知しない。当然、それによる危険や作戦上の……その……なんだ……」
言いよどむ武官の表情を見て三好はある程度この任務の性質を察した。
「戦争法上違法になることであっても……滅びゆく遼帝国と一蓮托生で沈んでくれと……言いたいわけですか?」
三好の言葉を聞くと武官は咳ばらいをしてにやりと笑う。
これ以上話をしてもいいことは何もない。そう察すると三好は敬礼をして一等武官の執務室を後にした。
「捨て駒か……遼の治安は地に落ちたか……まああの親父の国だからな」
三好はそんな独り言を言うと廊下に置いていた荷物を手に大使館の廊下を出口に向かって歩き始めた。