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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第4章 精霊

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19.出陣

 地上に降りたレイアが、途中までだった胸の治療を再開して、傷跡が完全に消えたことを確認すると、それまでの攻撃の最中に何となく感じていた違和感がなくなって、(あん)()した。攻撃の最中に傷口からマナが漏れ出ていても、平然と戦闘を続けられる自分に、ヴァルターが(あき)れるのも(うなず)ける。


「もういいのか?」

「はい」


 (れき)()の山から抜け出て、頂上で胡座(あぐら)()き、右肩にサーベルを乗せていたヴァルターが立ち上がると、レイアは次の訓練に備えて身構える。


 彼は(かぶと)を脱がないので、表情が(うかが)えず、何を考えているのかは動きでしか判断できない。立ち上がったままジッとしているが、こちらの動きを見て、作戦を考えているのか。


 何となく、山の上からサーベルを振りかぶって飛び降りてくる気がするが、そうと見せかけて、今度こそ瞬間移動で間合いを詰めてくるに違いないと警戒していると、


「訓練は終わりだ」

「えっ?」


 突然の訓練終了宣言に、レイアは(どう)(もく)する。


「何だ、その顔は?」

「いえ。合格をいただいていないように思ったので」

「お前の実力は良く分かった。だから、訓練は終わりだ」

「それって、訓練と言うよりは、実力を試していただけ――」

「違う。ちゃんと訓練はしたぞ」


 ヴァルターが肩の上でサーベルを弾ませる。きっと、兜の中の表情は、「そのくらいは察しろ」、だろう。


「……ああ、治療の訓練ですね」

「そうだ」

「それで、結果は――」

「お前は、結果だの合格だの、そればかりを気にし過ぎる」

「――――」

(わし)は、大精霊ヒルデガルト様から、ある程度はお前の魔法の実力を聞いていたが、それを実際にこの目で見たかったのだ。治癒魔法の訓練も兼ねてな」


 それならそうと、先に言って欲しかったと、レイアは()(わい)(ほお)を膨らませる。


「でも、こんな私でいいのでしょうか?」

「駄目なら、訓練終了とは言わん」

「火の魔法も――」

「見るまでもない」

「それって、駄目って事――」

「当たり前だ」


 駄目なら訓練終了ではないと言っておきながら、火の魔法に駄目出しする。教官の発言の矛盾に、レイアは首を(かし)げた。


「相手を倒すのに、得意な魔法を先に使うのが自然だろうが? 火の魔法を先に使わなかったと言うことは、自信がないからだ」

「なら、火の魔法が駄目なのに、訓練終了なのですか?」

「そうだ」

何故(なぜ)ですか?」

「黒のガイガーには、火の魔法が通用しないからだ」

「――――」

「儂が何のために、こんな場所まで連れて来て、お前の相手をしたと思う? 黒のガイガーを倒すためだ」

「――――」

「何を(ほう)けている? 『早速、弔い合戦だ。戦力として期待しているぞ。その前に、訓練だがな』と儂は言ったぞ」


 訓練のその先にある目的がすっかり頭から抜けていたレイアは、彼の言葉で()に落ちた。


「桃色のヘレナの敵討ちだ。さあ、行くぞ」

「もう――ですか?」

「グズグズしていると、(やつ)が逃げてしまう。大精霊ヒルデガルト様が奴の居場所を突き止めたから、儂らがそこへ急行するのだ。先に、()()()()()()()()()()()()()()向かっていて、足止めする手はずになっているが、長くは持たないだろう」

「もしかして……」

「何だ?」

「栗色のランゲさんのお付きって、ユミッチですか?」

「ああ、そんな名前だったな」


 ユミッチに再会できる! 自分と同じく、精霊にまで成長したのだろうか? どんな姿になっているのだろう?


「何だか、急にやる気が出たみたいな顔だな」

(もち)(ろん)です! 早速、行きましょう!」

「現金な奴め」


 ヴァルターが肩の上でサーベルを強く弾ませる。(よろい)が発する金属音が辺りに響いた。


「黒のガイガーを倒した後で、精霊使いと契約してもいいですか?」

「自分で決めろ。儂にいちいち許可を求めるな」

「分かりました」

「契約したい精霊使いがいるのか?」


 レイアは、ヨーコの笑顔を思い浮かべる。その次に、レオも。


「ええ。います」

「なら、そいつを契約の場所に呼び出して、並み居る精霊を押しのけて契約するんだな」

「はい」

「何だかパートナーの座を勝ち取るみたいで、横で見ていると、テレビを観ているようで笑えるがな」


 精霊なのに、懐かしい単語を連発するヴァルター。レイアは、その単語を()みしめて言う。


「あのー、パートナーとかテレビとか、こちらの精霊界では聞かない単語ですが?」

「あ、お前はこっちの世界で死んだのか? なら、分からないな」

「いえ。実は――信じてもらえないかも知れませんが――異世界転生で、こっちの世界へ来たのです」

「――――」

「前世で、私、パートナーとかテレビとかの単語を知っているのです」

「まさかと思うが、ラノベとかも?」

「ええ。ファンタジーもスチームパンクも」


 突然、ヴァルターは肩を揺すって笑い出した。


「おいおい。儂――いやいや、俺だけかと思っていたぞ、異世界転生で見習い精霊になった奴は! お前もか!?」

「そうなんです」


 ヴァルターは山から駆け下りて、レイアの前に立ち、サーベルを消した。それから彼は、「実は――」と(しやが)(ごえ)ではなく若々しい声で切り出し、兜を脱いだ。


「俺は、ジャン=クロード・ヴェイユ。前世は、日本で十年以上生活したフランス人。商社に勤めていたんだが、交通事故に遭ってね。気がついたら、この世界で(ひと)(だま)になっていたよ。精霊になってから、たまたま擬態した姿で固定され、小人で老け顔の精霊になっちゃって残念だったけど」


 声に似合わず、(しわ)が深く刻まれた(しやく)(どう)(いろ)の老人の顔だが、満面に笑みを浮かべている。


「こんな顔に合うように、声を変えて、儂なんて言っていたのさ」

「私は、()()(しま)レイア。前世は、高校生でした」

「何だか、趣味が同じで、話が合いそうだね」

「ええ。そうですね」

「じゃあ、道中、前世を語り合おうか」

「はい」


 笑顔のヴァルターと、(ほほ)()むレイアが握手を交わすと、周囲の光景が一変して、星が瞬く夜の草原になった。


 不思議がるレイアが彼から手を放して辺りを見渡すと、少し離れた所でドラゴンのクリストフが羽を休めていて、近くにエルザとシュミットが待ちくたびれた様子で座って待っていた。


「あんた達、遅いわよ」

「エルザさん? どうしてここに? 灰色のシュミットさんまで?」

「大精霊が、あんた達だけじゃ頼りないから、一緒に行けって」

「黒のガイガーの討伐に?」

「それ以外に何の用があるのよ? せっかく癒やしの泉でのんびりしていたのに、違う用事なら帰るわよ」


 ヴァルターは(せき)(ばら)いをして「嫌なら帰ってもいいぞ」と嗄れ声で言う。


「その子は頼りないから、私が付いててあげるの。帰らないわよ」

「じゃあ、灰色のシュミットは? 大精霊ヒルデガルト様からの言いつけだからって、嫌々付いてくるなら、帰れ」

「僕も帰らないよ。レイアを守る責任があるからね」


 肩を(すく)めたヴァルターは、レイアへ振り返り、彼女の耳元で(ささや)いた。


「やれやれ。二人きりでゆっくりと話が出来ると思ったが、残念だね」

「いえいえ。討伐が終わってから、大いに語り合いましょう」

「……まあ、あいつら抜きで、念話でも出来るけどね」


 そう囁いて、ヴァルターはニヤリと笑った。

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