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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第4章 精霊

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18.反撃

 ヴァルターは(かつ)(ちゆう)の重さを感じさせないほどの速度で走り、二十メートルの間合いをどんどん詰めてくるが、レイアは彼の行動に疑問を持った。


 ――おかしい。瞬間移動が出来るはずなのに。


 自分を倒すのが目的なら、もう目の前にヴァルターが現れて、得物で自分の胸を突き刺しているはず。


 ――これは、接近する敵への対処の訓練だ。


 ならば、リベンジで風の魔法を使いたいが、突風攻撃は(ことごと)(かわ)されている。だとしたら、これはどうだとばかり、レイアは突き出した両手を、やや下へ向けた。


 両手の前に直径一メートルの金色の魔方陣が出現し、(ごう)(おん)を伴う狂風がヴァルターの数歩先の地面を(えぐ)る。地下に仕掛けられた爆薬が発火したかのような威力に、大量の岩石と土砂が後方へ巻き上がる。


 土色の煙幕に隠れたヴァルターは、姿を現さない。もちろん、やられたのではなく、勝利を確信して気が緩んだ隙を狙っているはず。


 レイアは、金色の魔方陣を消して、今度は同じ大きさで水色の魔方陣を出現させた。


 と、同時に、(ふん)(じん)の真ん中から割って出て来るようにヴァルターが姿を現し、突進を再開した。


 だが、五歩進んだところで、彼は前のめりになり、サーベルが地面を突き刺した。


「なるほど。そう来たか」


 サーベルを杖代わりにして上体を起こす彼は、地面に青白い氷で固定された両足が(ふく)(はぎ)まで氷結しているのを見る。


「それで?」


 氷は、無抵抗のままレイアへ(かぶと)(とが)った部分を向ける教官を、(たちま)ちサーベルごと包み込んだ。


 しかし、ヴァルターの実力では、氷漬けなど攻撃のうちに入らない。厚い氷にひび割れが生じたかと思うと、一気に氷は破砕して、四方に光の粒となって霧散した。


 間髪入れず、彼の周りに長さが二メートルの氷の槍が三十本以上出現し、一斉発射。ここまでの波状攻撃は予想していなかったのか、(きよう)(がく)する教官は、目にも止まらぬ速さで振るう剣で粗方の槍を折ったものの、冷たく光る五本の槍が(よろい)の背中部分に突き刺さった。


「むぅ!」


 ヴァルターが力むと、槍が光の粒となって消え失せたが、今度は四方に二メートルを超える岩石混じりの土の壁が出現した。


「馬鹿めが。天井が空いているぞ」


 棒立ちになって上を見上げるヴァルターが笑うと、


「何!?」


 急に、立っている地面が(ぬか)(るみ)になって、体がみるみる沈んでいく。必死に()()いても抜けられない。どうやら、魔法による底なし沼のようだ。しかも、下から足が引っ張られる感じがする。魔法で、確実に、沼の中へ引きずり込もうとしているようだ。


()(しやく)な」


 鼻を鳴らした彼が首まで沈み込んで舌打ちをすると、それが合図でもあるかのように、周囲を囲んでいた土壁が突然に崩落した。



 生き埋めとなったヴァルターが、土と多めの岩石の混じった(れき)()の山の(てつ)(ぺん)から、両手と頭を出したのは、二分後だった。肩まで()()た彼は、兜の泥を両手で払う。


「フーッ。風、水、土と来て、次は火の魔法でも試す気か?」


 (つぶや)いた彼は辺りを(うかが)うが、無数の岩が転がる灰色の大地に、レイアの姿を認めることは出来ず、気配も感じられない。


「透明になったか、岩に擬態したな。気配まで消しているとは、()(ざか)しい」


 自分が土の中から抜け出る事に集中している隙をレイアは狙ってくると考えて、(こうべ)を巡らせては、両腕の力を使って慎重に体を礫土から引き抜き、また首を巡らすを繰り返す。


「おかしい。動きがない」


 腹まで抜け出たヴァルターは首を(かし)げる。


「さては、遠方から仕掛ける気か?」


 そうなると、今の状態は、どうぞ狙ってくださいと言っているようなもの。ならばと、彼は一気に体を引き抜こうと考える。そうして、腕に力を入れた瞬間、礫土の山の表面全体がズルッと動いた。


 突如として、感じる気配。


 動いた礫土全体が、精霊の気配なのだ。


 全くの想定外の出来事に、ヴァルターはギョッとして体が固まった。


 すると、瞬く間に礫土が彼の眼前で集結し、凝縮して人の姿になって行く。


 礫土の擬態を解いて白のドレス姿に戻ったレイアは、宙に浮いたまま、空中から青白い氷の短剣を取り出して右手で柄を握り、(あつ)()にとられるヴァルターの喉元へ得物を突きつけた。


「魔法を発動したら、この短剣が鎧を貫きます。さっきの槍のように」


 兜の中で長い息を吐いたヴァルターは、悔しそうに呟く。


「遠方から火の魔法で不意を突くと思っていたが、間近で土に擬態していたとはな」

「攻撃は、距離があると、避けられる可能性が大きいです」

「それを察しての、擬態による潜伏。しかも、間近で、気配まで消して」

「はい」


 ヴァルターは、兜を左へ小さく傾ける。


「誰から教わった?」

「さっき、考えました」

「――なるほど」


 一本取られたはずなのに、ヴァルターはなかなか合格を告げない。沈黙する彼にレイアがイラッとしていると、


「一応、言っておく」

「――?」

「お前の胸の事だが――」


 何を言い出すかと思えば、胸の大きさの指摘かと思ったレイアが赤面しかけると、


「まだ治療が終わっておらん。早く治せ」


 教官から指摘されたレイアは、今更ながら気付いて(がく)(ぜん)とした。偽アドルフに切り落とされた左腕の接合ばかり気を取られていて、まだ槍に貫かれた胸の治療が終わっていなかった事を。


「つくづく思うが、(あき)れた量だな、お前のマナは」

「――――」

「いいから治せ。(わし)は治療中のお前に手を出さん」


 そう言うヴァルターを見て、レイアは、彼が兜の中で苦笑しているのを想像した。

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