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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第4章 精霊

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15.不覚

 ゴオオオオオオオオオッ!!


 レイアを中心として、魔獣が描く円周上に、反時計回りに高速回転する猛烈な風が現れ、魔獣を岩石と土塊もろとも巻き上げる。


 (ごう)(おん)を伴う上昇気流は、低く垂れ込める黒雲にまで達して、漏斗状の竜巻の形状を成し、巻き込まれた魔獣は次々と、気流に乗って天に昇る光の粒となった。


 巨大な竜巻の内側から見上げるレイアは、暴れるように(なび)くロングヘアを手で押さえながら、幻想的な光のページェントに目を奪われた。


 無詠唱でここまで強力な風の魔法を発動できるとは思ってもみなかった彼女は、少々やり過ぎたかしらと苦笑し、光が消えた事を確認してから魔法をキャンセルする。


 宙に巻き上げられた岩石等が地面へ(たた)きつけられるように落下する音が連続し、石混じりの(ほこり)が煙幕のように立ち上る。だが、煙は上に向かっており、魔法発動前にあれほど吹き荒れていた風に運び去られる様子はない。


 自分の魔法で風まで吹き飛ばしてしまったのかと不思議がるレイアは、首を(めぐ)らす。だが、視界に映るのは厚い雲と灰色の大地のみで、地平線に向かって目を凝らしても、訓練の結果を見届けるヴァルターの姿はない。


 ならば、まだ訓練の続行中だ。


 次は何が来るのだろうと思って辺りを(うかが)っていると、広大な空間を支配する静寂に耳が痛くなる。聞こえるのは、自分の白いドレスが肌と触れ合う音のみ。


 奇妙な沈黙が、不安を()()てる。


 地平線には何も動く物がないので、次なる敵を求めて空を見上げ、踏みしめる大地の中から聞こえてくるかも知れない音に耳を澄ます。


 すると、背後から、女の子のすすり泣く声が聞こえてきた。


 (とつ)()に声の方へ振り向くレイア。声は、十五メートルほど離れた所に転がっていた高さ一メートル半くらいの岩の裏から聞こえて来る。


 あれは、風の魔法が引き起こした竜巻に巻き込まれた岩のはずで、女の子が魔物と一緒にいたことになり、あり得ない。今度はそう来たのね、とレイアは心の中で笑う。


「助けて……」


 いつまでも動かないレイアを誘導するためか、女の子は救いを求めてきた。


(だま)されないと、訓練は終わりそうにないわね』


 苦笑するレイアは、散乱する硬い岩石を()(だし)で踏みながら、声の方へ歩み出す。


 きっと、近づいたら襲ってくるに違いない。そう確信して、対処するなら風の魔法か、氷の魔法か、火の魔法か、と攻撃方法を思い浮かべつつ、慎重に近づいていく。


「助けて……」

「安心して。今、助けるから」


 騙された振りをする自分がおかしくて、吹き出しそうになるのを堪え、岩の裏手に回ると、


「――――!」


 紫色のマントで全身を包み込み、体育座りをして膝に額を当てている、ショートボブの金髪の人物。見覚えのある姿に顔を思い浮かべると、その人物はゆっくりと顔を上げ、泣き腫らした童顔を自分に向けて、(へき)(がん)で救いを求める。


「助けて……」


 アメリアだ。でも、声は違う。


 ヴァルターは、人の記憶を(のぞ)()して、直近で印象が強い人物から偽物を作り上げたのだろう。鼻で笑うレイアは、そろそろ騙されるのも飽きたので、


「あら? 人間界で寝間着の姿で寝ていた人が、軍服に着替えて精霊界へ出張するなんて、どういう風の吹き回しかしら?」


 そう言って、警戒を強めて後方へ下がると、偽アメリアは「あんたなんか、大っ嫌い!」と叫んで右手を突き出し、無詠唱で金色の魔方陣を展開し、稲妻を放出した。


「――っ!」


 強烈な光が頭頂すれすれに通過し、咄嗟にしゃがんだ自分の勘の良さにホッとするのも(つか)()、偽アメリアは立ち上がって口を裂けんばかりに開く。


 今度は口から火でも吐くのかと思って、攻撃から回避するために後方へ三度跳ぶと、口の中から何かが出て来るのではなく、口がゴムのように伸びて何倍も広がっていく。


 何が起きるのだろうと(どう)(もく)し、(かた)()()む。


『いけない! これは、(わな)! 動かないと!』


 でも、足が(すく)んで動けない。そんな目撃者を(わら)う男の声が響く中、顔中が口となった偽アメリアから、窮屈そうに金髪の男が()()てきてジャンプし、抜け殻となった偽物は脱ぎ捨てられた服のように地面へ崩れ落ちる。


「食らええええええええええっ!!」


 レイアに向かって突進してきたのは、いつの間にか右手に短剣を持っているヘルマン。もちろん、精霊界にいるはずのない偽物だ。


 偽ヘルマンが得物を振りかぶった隙に、左へ大きく飛んで回避する。そして、風の魔法で容赦なく吹き飛ばす。偽物だと分かっているので、光の粒となって消滅するのを見ていて爽快感が心を満たす。


 それにしても、ヴァルターの訓練は、(おぞ)ましい。特に、自分の知り合いを利用する手口。これは悪質だ。


「……まあ、訓練の一環だから、仕方ないのかしら」


 そう思って嘆息していると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「さすが師匠! (すご)いです! やりましたね!」


 振り返ると、光る(ひと)(だま)が揺れながら近づいてきた。フリーダだ。いつのまに訓練を見学しに来ていたのだろう。


「いつから、いたの?」

「さあね」

「――――」

「さようなら、師匠」


 と、突然、人魂が長さ二メートルの金色の槍に変化し、レイアの胸を貫いた。

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