13.千里眼が捉えた敵
前回はシュミットから訓練を受け、今回はヴァルターから訓練を受ける。緩い指導ぶりだったシュミットと違って、鎧を着ているくらいだから、厳しい指導ぶりなのだろうか。
やや不安なレイアだったが、よろしくと言われて「こちらこそ」と言葉を返した後、大精霊ヒルデガルトへ振り返った。
「あのー、少し聞いてもよろしいでしょうか?」
ずっと、人間界での自分の行動を監視していた大精霊だから、自分の周りで起きていた色々な出来事にまで目を配っていたはず。微笑して小首を傾げる大精霊が、無言で質問の許可を与えるので、レイアは問いかけた。
「聖遺物をクノル銀行の金庫から取り戻そうとした時、大男と商人が聖遺物を『あるべき所へ戻す』という言い方をしていました。あの人達は、一体、何者で、目的は何だったか、ご存じでしょうか?」
「急にどうしたのですか?」
「あまり人間界のゴタゴタに拘わらない方がいいというのは分かります。でも、ずっと気になっていて」
「拘わらないことが分かるのなら、知らなくてもよいのでは?」
「ですが、あの時、灰色のシュミットさんが、二人を金庫の中へ閉じ込めてしまったのですが、本当にそんな事をして良かった相手だったのか、ずっと気になっていて……。銀行の人と不正な事をしていたのを目撃したので、悪い人達だろうとは思っていたのですが」
苦笑する大精霊は、腕組みをした。
「それを『拘わる』と言うのです。……ですが、知っている事を教えましょう」
「すみません」
レイアが頭を下げるのを不思議そうに見つめる大精霊は、短く息を吐く。
「本当に、貴方は精霊らしくないですね。まあ、見習い精霊から、あり得ないほどの短期間で精霊にまで上り詰めたのですから、普通の精霊ではないのは分かりますが」
そう言って唇を綻ばせる大精霊は、自分の知っている事を語り始めた。
商人姿の中年男は、クノル銀行の頭取の親戚が経営するクノル商会を取り仕切る人物で、禿頭の大男は用心棒。レイアがエルザと一緒に目撃した帳簿の書き換えまでは、大精霊は知らなかったようだが、役所との繋がりがある事は分かっていた。
「聖遺物を使って精霊を強化し、強化された精霊を魔法使い達に憑依させるのが役所の仕事。でも、実際は、ほとんどクノル商会にやらせていたみたいですが。その際に、聖遺物を金庫から取り出して、聖遺物の使用料を受け取るのがクノル商会」
「だから、『あるべき所へ戻す』だったのですね」
「役所に知れたら破滅だと、行員が言っていたそうですが、使用料を誤魔化す、例えば、憑依の成功回数を誤魔化して役所に請求していたのではないかと思います」
「成功回数を誤魔化す?」
「精霊の憑依は、簡単には成功しないのです。相手との相性がありますから」
そこまで情報を集めている大精霊を尊敬の眼差しで見つめるレイアは、千里眼の能力に震えるほど感動する。精霊界にいながら、人間界の細部まで見えている。それは、超越的な力だ。でも――、
「大精霊ヒルデガルト様は、何故そこまでお詳しいのでしょうか?」
「それは、何故人間界のゴタゴタにそこまで拘わるのですか、という質問ですね?」
「……ええ。そうなって、しまいますが」
「簡単です。精霊を悪用しているからです」
真剣な眼差しになった大精霊の言葉に、部屋の空気が凍り付いた。
「まあ、人に憑依したがる精霊が多いので、半ば黙認状態でしたが、嫌がる精霊を強制的に憑依させる行為もあったので、見過ごせないのが現状です」
「精霊を強制的に憑依って、人が出来ることなのでしょうか?」
「出来ません」
「なら、誰が?」
「クノル商会が使役している精霊です」
言われてみれば、精霊の仕業だと納得がいく。第一、聖遺物を手にできるのは、精霊しかいないのだから。
「その精霊は、大精霊グローベの側近です」
「――――」
「つまり、我々の敵だ」
背後からヴァルターが補足したので、レイアは振り返ると、彼が首を縦に振っていた。
「そいつの名前は、黒のガイガー。――桃色のヘレナを消滅させた奴だ」
「――――」
「めっぽう強いぞ。だから、レイアにも頑張ってもらわないといかん」
ヴァルターは右手を伸ばし、緊張するレイアの左肩をポンと叩く。
「早速、弔い合戦だ。戦力として期待しているぞ。その前に、訓練だがな」




