9.レオの不思議な夢
「せいれいがいるの? わー! すごーい!」
「レオさん。そんなに大声を出さないでね」
病人だったとは思えないほど元気なレオが、満面に笑みを浮かべる。そして、上半身を起こそうとしたが、体が言うことを聞かないらしく、肘を突いて起き上がろうとするも、力尽きたように横たわり、息を吐く。
「なんで?」
「ずっと寝ていたから、疲れて起き上がれないと思うわ」
「ちがう。なんで、こえをだしたら、いけないの?」
「アメリアさんが、そこで寝ているの」
「アメリアが!?」
レオは、またもや起き上がろうと試みるも、あと少しのところで諦めて横たわる。
「ぼくと、いっしょに、ねてくれたんだね。うれしいよ」
そうではないのだが、レイアはアメリアの事情を伝えない。それは彼女の口から言ってもらった方が、相応しいと思えたからだ。
「レオさんは、精霊が好き?」
「うん。すきだよ。おおきくなったら、せいれいつかいになるんだ」
「そうなんだ」
「ねえ。きいてくれる?」
「何かしら?」
レオが、父親みたいに、大きくなったら契約して欲しいと切り出してきたらどうしようと、彼女は少し身構える。
「ぼくと、けいやくして――」
「――――」
「といったら、けいやくしてくれる?」
やはり、その話か。
「十年後の事は分からないわ」
「ちがう。けいやくしてっていったら、けいやくしてくれる?」
子供相手とはいえ、「うん」と言ってしまったら、約束になる。心に刻まれて、十年間ずっと忘れないことだってあり得る。そこで、レイアは、ヨーコの先約を担ぎ出す。
「ごめんなさい。すでに、契約してって言われている人がいるの」
「そっか……」
声の調子から、失望落胆したらしいレオが無言になると、室内はアメリアの寝息だけが聞こえていた。しばらく天井を見つめていた――と言っても、実際は闇を見ていた――レオは、右手の甲を額に当てて、時々目を閉じては開くを繰り返す。そろそろ、眠気に誘われて眠りに就くのかと思っていると、
「ねえ。きいてくれる?」
「今度は何かしら?」
まだ契約の話を引きずるのかと、レイアが警戒すると、
「へんなゆめを、みたんだ」
「変な夢?」
話題を変えてきたので安堵し、耳を傾ける。
「しらないせかいにいて――」
「うん」
「そこで、おんなのこが、ふたりいて、ぼくと、おはなししているの」
「うん」
「でもね。へんなんだ」
「何が?」
「ぼくは、おんなのこを、『ひめ』と『ゆみちん』ってよんでるの」
「――――!」
体が石像のようになったレイアは、脳内で前世の記憶が鮮やかに蘇る。
――姫とゆみちん。
それは、前世の自分――真樹嶌レイアと烏丸勇美子のあだ名。
何故、それを異世界にいるレオが知っているのだろう?
(レオ……? レオって、まさか……)
動揺して震えが襲ってきたレイアは、レオのベッドの近くまで行って、身を乗り出すようにレオに問いかける。
「レオさんは、自分の事をなんて名乗っていたか、分かる?」
「なのるって、ぼくが、ぼくのことを、なんていってたかってこと?」
「うん」
「それも、へんなんだ」
「へん?」
「ぼくは、れおなーるだって、おんなのこに、いうんだ。ぼくは、レオなのに」
――レオナール。




