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精霊に転生した女の子は見習い精霊から精霊王を目指す(前編)  作者: s_stein
第4章 精霊

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6.奇跡は続く

 レイアがクルツからレオの方へ向き直る時、顔を上げたゲオルグの姿が視界に映った。やや遠い位置から照らされるランタンの光が、レオの寝顔とレイアの上半身を闇の中で浮かび上がらせていて、首の動きから二人の様子を交互に見ているようだった。


 何を見比べているのだろうとは思ったものの、すぐにレイアは彼から視線を切り、レオの穏やかになっていく寝顔や(わず)かな唇の動きを見ていると、


「今、何をした?」


 語調から、(とが)められそうな雰囲気に焦るレイアがゲオルグへ顔を向けると、狙いを定めたような彼の視線を浴びる。驚いたレイアは言葉に窮すると、レオのうわごとがなくなった事により部屋を満たし始めた静寂が、耳をキーンとさせる。


「何をした?」

「――――」

「顔を上げたら緑色の光が消えたが、何を――」


 (とつ)()に答えが出なかったので、畳みかけてくるゲオルグ。だが、ここで宙に浮いたままのクルツがフワリと前へ出た。


「レイアが治癒魔法を使ったのだ。もしかしたら、自分が治せるかと思ってやったらしい」


 代弁してくれたクルツにレイアが心底感謝していると、ゲオルグは()に落ちたと言う表情を見せた。


「急にレオの声がしなくなったから、何が起きたのかと思ったのだが」


 そう言ってアメリアの手を優しく放して立ち上がったゲオルグは、レイアの後ろを回ってレオに近づき、額に右手を当てると(どう)(もく)する。


「本当だ。熱が少し下がっている」

「もう少し続けると、もっと下がると思いますが」


 言っておきながら、本当に大丈夫だろうかと心配になるレイアだったが、レオから手を放して振り返ったゲオルグが、笑顔で勇気づけてくれた。


「是非、やってくれ」

「はい」

「大丈夫か? そんな、膝を突いた格好のままで」

「大丈夫です」

「痛くないのか?」

「精霊ですから」


 ゲオルグの破顔する顔が、ランタンの光で輝く。


「天使だと勘違いしたよ」


 レイアは、握ったままだったレオの左拳から一旦手を放し、握り直してから治癒魔法を発動する。柔らかな緑の光を(こう)(ごう)しい光のように見つめていたゲオルグだったが、魔法の効果をリアルタイムで確認しようと、レオの方を向いて、額に手を当て続ける。


「嘘だろ……。どんどん下がっていく。これは驚いた」


 平熱よりはやや高め程度にまで下熱したので、「これは奇跡だ」と(つぶや)くゲオルグが、レイアの方へ嘆願するような目を向けた。


「娘にも、その魔法を使えないだろうか?」

「アメリアさんは、高熱なのですか?」


 レイアの問診に、ゲオルグは首を折る。そして、自分の答えから、精霊が下す決断を先読みして、最悪の結末まで予想しきった様子で首を振った。


「いや。氷のように冷たいんだ」

「――――」

「それ、熱さましの魔法だろ?」


 目に諦めの色を浮かべるゲオルグが眉を寄せる。


「治癒魔法です。これは、あるべき姿に戻す魔法です」

「と言うことは?」

「治せるかも知れません。使ってもいいですか?」


 わざわざ断りを入れたのは、患者を相手に治癒魔法を使ったのはレオが初めてで、アメリアは二人目の患者で、しかも病状が違うのに、本当にやって良いのか、という気持ちの表れだったのだが、そんな事情を知らないゲオルグは、奇跡を起こす精霊の腕を引っ張って、娘の眠るベッドの右側へ立つ。


(もち)(ろん)だ」


 期待に目を輝かせる父親の許可を得たレイアは、肩にのしかかる重圧を覚えたところへ、「頼んだよ」と彼が両肩に手を乗せて来たので、膝を折られる格好になった。


 ゲオルグがずっと握っていたアメリアの右手は、すでに冷え切っていた。本当に、死人の手をしている。ランタンの暖色系の光でも、顔色が青く見える。血流を悪くする毒なのだろうか。


 本当に治せるのだろうかと不安で震えてくる。アメリアとの日々が、走馬灯のように浮かんでくる。


 だが、迷っている暇はない。アメリアの右の拳を両手で握るレイアは、魔法を発動した。


 娘を案ずる父親は、急いで椅子を引き寄せて座り、彼女の額に右手を当てたまま、レイアの指から漏れる緑の光に願いを込める。


 一分後。レイアは、徐々にアメリアの拳が暖かくなっていくのを感じてアメリアの顔を見ようとすると、瞠目したゲオルグと目が合った。


「効いてる! 魔法が、効いてるぞ!」


 でも、体温が上昇しただけであり、本当に()(どく)作用が働いたのか、レイアには自信がない。だが、少しずつ頬に血の気が戻っていくアメリアを見ていると、このまま続ければ毒が消えていくと信じて良さそうだ。



 十分後。部屋の様子を(のぞ)きに、ヘルマンが姿を見せた。


「薬が出来るまで、まだかかりそうです。具合は、相変わらずですか?」

「ん? 薬は要らなかったみたいだ」

「え? ま、まさか、遅すぎた……」


 間に合わずに死んでしまったのかと慌てるヘルマンに、ゲオルグは意地の悪い目を向ける。


「いや。精霊の力、恐るべし。アメリアが精霊使いを目指したのも、今更だが、良く分かった」

「どういうことですか?」

「息子の顔を見れば――その安らかな寝顔を見れば分かる」


 まだ理解が追いつかない顔のヘルマンが、レオの額に手を当てると、不思議そうな顔をして、自分の額に手を当て、もう一度息子の額へ手を伸ばす。


「娘も回復したよ」

「本当ですか!?」

「ああ。見てみるか?」


 ヘルマンは急いでアメリアのベッドの横に立ち、彼女の額へ手を当てると、首を何度も横に振る。


「一体、何が起きたのですか?」

「奇跡だよ。ここに奇跡を起こした精霊――いや、天使がいる」

「彼女が二人を治したのですか?」


 ゲオルグは、「そうさ。感謝してもしきれない」と、レイアの左肩を優しく(たた)いた。ようやく、回りくどい言い方から状況を把握したヘルマンは、苦笑して肩を(すく)めた。


「でも、薬が出来てしまいます。折角、作ってもらったので、飲ませた方が――」

「治った患者に飲ませて大丈夫かを、医者に聞いておかないとな」


 応じるゲオルグも苦笑し、二人は吹き出したが、眠る子供達を気遣い、破顔微笑した。


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